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東大の問題は意地悪だ [大学受験]

 昨日で世界史の論述コースは課外がおわりました。東大の問題で気づいたことを二つほど。
 まず1999年の問題。
 「ある地域の歴史をたどると、そこに世界史の大きな流れが影を落としていることがある。イベリア半島の場合もその例外ではない。この地域には古来さまざまな民族が訪れ、多様な文化の足跡を残した。とりわけヨーロッパやアフリカの諸勢力はこの地域にきわめて大きな影響を及ぼしている。このような広い視野のもとでながめるとき、紀元前3世紀から紀元15世紀末にいたるイベリア半島の歴史はどのように展開したのだろうか。その経過についてついて450字以内で述べよ。なお、下に示した語句を一度は用い、使用した語句に必ず下線を付せ。
  カスティリャ王国  カール大帝  カルタゴ  グラナダ  コルドバ 属州   西ゴート  ムラービト朝」
 似たような問題は2002年の大阪大でも出題されています。
 「5世紀初めから15世紀末までのイベリア半島における諸国家の興亡を、簡潔に説明せよ。ただし、重要な出来事については可能な限り年代を示すこと(250字程度)」
 一見この二つは似た問題ですが、実は大きく違います。東大の問題が要求しているのは「民族と文化の歴史展開」であり、阪大の問題の要求は「諸国家の興亡」です。東大の問題が意地悪なのは、問うているのは「民族と文化の歴史展開」なのに、指定語句はほとんどが「諸国家の興亡」絡みであること。リード文をよく読まないと、阪大の問題と似たような解答になりますから、要注意。2004年の「銀による世界の一体化」の問題でも、銀とは関係ない語句がいくつか指定語句になっていました。
 次は1988年の問題。
 「欧米において近代市民社会が形成されるにあたり、17世紀から19世紀初頭にかけて、さまざまな改革が生じたが、それらの変革の様相は地域によってそれぞれ異なっていた。そこで、イギリス、アメリカ、フランス、プロイセンの四つについて、以下の(A)、(B)の設問にそれぞれ300字以内で答えよ。
(A)イギリス革命(ピューリタン革命および名誉革命)とフランス革命に関し、革命を引き起こした原因と、革命が目指した目標とについて両革命を比較し、それぞれの革命の特色を述べよ。さらに、19世紀初頭のプロイセンの改革の特色と思われる点を指摘せよ。
(B)アメリカ独立革命に関し、ヨーロッパにおける諸変革との比較を念頭において、アメリカの場合の特色と思われる点を述べよ。
(注)解答において、イギリス、アメリカ、フランス、プロイセンを、それぞれ英、米、  仏、普、と表記してよい。」
 Aはともかく、Bが意地悪なのは、Aでは明記されている比較のポイント(「原因」と「目標」)が、Bでは明記されていないということ。自分で考えろ、ということでしょうか。これは多分Aで示されている「原因」と「目標」を使えという言外の指示だと思います。二つじゃ少ないなら、「原因」「目標」という始まりだけではなく「結果」という終わりを使えばいいでしょう。英革命にしろ仏革命にしろ、問題Aの指摘通り細かく見れば英も仏も原因は異なりますが、広くとらえれば両革命とも、中産階級の成長が、残存する封建制度に対する不満を高めたことでしょう。共通する目標は絶対王政の打倒。米独立革命も絶対主義に対する反抗といえなくはないでしょうが、本国からの独立というもっと明確な目標があります。Bのメインはもちろん米独立革命ですから、分量的には米の方を多く書くべきです。
 この問題はZ会の『世界史論述問題のトレーニング』に解説してありますが、これは私が見てもあまりよくない。使っている生徒も多いので、課外では悪い例として使わせてもらいました。Aでは普に関して「普では仏への対抗上、農民解放など上からの近代化改革が行なわれたが、大地主貴族のユンカーによる政治的支配という構図に変化はなかった。」とあり、採点ポイントで「仏への対抗」(2点)とあります。これは問題の「さらに」以下を前と切り離すというミスを犯しているためです。要求が「英仏革命と普の改革を比較して」普改革の特色を述べよというのは明かです。したがって、「上からの近代化改革が行われる」を2点ポイントにするなら、英仏革命の共通点「英仏革命は下からの改革」という同じ視点からの比較ができていたら2点を与えるべきです。それ以外にも、英革命について「市民階級の成長」、仏革命について「ブルジョワジーの成長による社会矛盾」とあり、それぞれ2点とありますが、この二つは同じように思えます。特色というのは他と違っている点ですから、同じならば特色とは言えないのではないでしょうか?Bについては一層ひどい。「ヨーロッパの諸革命との比較を念頭において」の部分をとばして、米独立革命の概要だけを書いてある。AとBを別の問題ととらえてしまったことによるものでしょうね。

世界史論述のトレーニング

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 増進会出版社
  • 発売日: 2001/02
  • メディア: 単行本


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コメント 4

choppino

はじめまして。zepさんの記事をよんでいると一年前勉強していた自分を思い出します。あのころはあんなに勉強したはずなのに…!!!もうすっかり忘れてます。また勉強し直そうかな~☆
by choppino (2005-12-21 01:15) 

zep

choppinoさん、こんにちは。ほぉ、大学一年生というわけですか。今受験生は大変ですよ~、もう戻りたくはないでしょ?(笑)、ウチの学校は24日クリスマスイブから冬の課外です。センター直前対策。最終コーナーまわって追い込みですなぁ。まあ、受験から離れて勉強するのは結構楽しいもんですよね。私の場合は、仕事と趣味と勉強が同じみたいな感じですが(笑)
by zep (2005-12-22 21:45) 

yoku

zep様
ピレネーから南はアフリカなんて一寸軽蔑したような
言い方がありますが、私は逆に北こそ大いに影響を
うけた(イスラム文化から)と思っています。
by yoku (2005-12-26 06:36) 

zep

12世紀ルネサンスにイスラーム文化が果たした役割を無視するワケにはいきませんからねぇ。西欧が忘れていたアリストテレスを思い出させたのもイスラームですから。中世ではイスラームとヨーロッパの差は歴然としていますね。
by zep (2005-12-26 19:20) 

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