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ディケンズ『クリスマス・キャロル』 [幻想文学]

 時節柄ということで、ディケンズ(1812~70)の『クリスマス・キャロル』(1843)です。世界史の教科書的には、ディケンズといえばヴィクトリア時代を代表する自然主義作家です。
 『クリスマス・キャロル』には様々な邦訳があると思いますが、オススメは新書館から発行された絵本。まず挿絵が綺麗です。絵はアーサー・ラッカム(1867~1939)という画家で、彼の絵が使われた原版は1915年に発行されました。私がアーサー・ラッカムの絵をはじめて目にしたのは、『妖精異郷』(国書刊行会)という本で、巻頭のカラーページで紹介されていた彼の絵は、英国ファンタジーの豊穣さを感じさせる素晴らしい作品でした。アーサー・ラッカムの絵が使われた本は、この『クリスマス・キャロル』も含まれた、新書館の「ペーパームーン叢書」に、『グリム童話』をはじめ多くが収録されていましたが、残念ながら現在は品切れのようです。挿絵・訳・装丁と三拍子そろった絵本ですので、古本屋等でみかけたら買ってみてください。ただこの本は大人向けなのかもしれません。ルビのふりかたなどをみると、ターゲットは少なくとも子どもではないようです。

 小池滋氏の訳も絶妙です。なんと落語調に訳してありますが、さすが第一人者、これがピッタリとハマって実に自然な感じです。う~む、参りました。巻末の解説も、とても興味深い。興味を持った人は、小池氏による『もう一つのイギリス史』(中公新書)の第7章を読んでみるといいでしょう。救貧法についてより詳しく解説してあります。

 『クリスマス・キャロル』の七年前、ディケンズは原型とも言える作品を書いています。「墓掘り男をさらった鬼の話」という短編で、『ディケンズ短編集』(岩波文庫)におさめられています。この短編集、やたら面白いんです。訳者の小池氏は「1.超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在していること。2.ミステリー要素が強いこと。3.人間の異常心理の追究。という三つの特徴が際だっている作品を集めた。」としていますが、ゴシック的世界が好きな人にはたまらないでしょう。小池氏の面目躍如というところでしょうか。

ゴシック小説をよむ

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  • 作者: 小池 滋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 先日映画館に予告がでてましたが、年明けにはロマン・ポランスキー監督の『オリバー・ツイスト』が公開されるようです。名優(リチャード・アッテンボローの『ガンジー』でマハトマを演じた人)が、を演じているとのこと。アメリカでの興行は今ひとつだったそうですが、昔NHKで放送されていたジェレミー・ブレッドの『シャーロック・ホームズの冒険』が描く世紀末の大英帝国が好きな私は、結構期待しています。そういえば、講談社の『シャーロック・ホームズ大全』の挿絵、ジェレミー・ブレッドにそっくりだったなぁ。

シャーロック・ホームズ大全

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  • 作者: コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1986/09
  • メディア: 単行本


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コメント 6

maya

今日、グラナダホームズシリーズの「青い紅玉」を借りたところです。
この話もクリスマスらしくて好きなんです。
映画「オリバー・ツイスト」「高慢と偏見」とイギリス時代劇(?)が続くので年明けが楽しみです^^
by maya (2005-12-20 22:46) 

zep

あーそうそう、グラナダTVの制作でした。「青い紅玉」ってクリスマス用のガチョウだか七面鳥だかに盗んだ宝石を食わせるって話でしたよね。日本の時代劇というと江戸時代ネタが多いですね。イギリスだとヴィクトリア時代が多いのでしょうか?
by zep (2005-12-22 20:30) 

maya

落し物のガチョウを捌いたら、お腹から宝石が出た!という話です<「青い紅玉」
イギリスの時代劇というかコスチュームプレイと呼ばれるジャンルについて、説明してくれているサイト(http://britannia.cool.ne.jp/cinema/index.html)を見たら、19世紀ものが多いですね。さて何故でしょう?そのまま世界史の問題になりそうです^^;今年は日本のファッションもヴィクトリアンが流行ってますが、どう考えたらいいのでしょうね。
映画つながりの余談ですが、私が好きだった高校の世界史の先生の最初の授業は「映画:アラビアのロレンス」についてでした。詳細は忘れましたが強烈な印象を受けて、そのまま歴史が好きになったのを覚えています。
by maya (2005-12-26 18:06) 

zep

イギリスじゃ時代劇のことをコスチュームプレイって言うんですね。日本じゃ違う意味だけど(笑)。19世紀ものが多い理由...なぜでしょう?大英帝国が世界に冠たる存在になった時期ゆえ、英国がヨーロッパのモードになったからでしょうか?教えてください。紹介いただいたサイトをみてみましたが、中世モノも多いですね。これも私の好み。中世ってなんとなくロマンティックだと思いませんか?
by zep (2005-12-26 18:35) 

maya

うーん・・・3日考えて(古い山川の教科書読んで)、やっぱり植民地政策で他国をリードし、ナポレオンも追い返すのに成功し、産業革命も起こって市民社会が成熟したために、文化の底上げがあった。ゆえに文学も幅広く発展し、現代に通じる娯楽性を持つ作品も出てきた(オースティン、ディケンズなど)。く、苦しい^^;本の輸送も鉄道の発達があれば簡単だし、きっと印刷技術も進歩して大量に本が消費されるようにもなったので職業作家が増えたのではないかとも考えましたが。ホントに久しぶりに教科書読みました。でもこれじゃダメかな?(汗)
中世は教会やお城が大好きです。でも教会史やキリスト教のことは、よくわかりませんが。騎士の物語なんかロマンティックだなーと思います^^
さて、年末になりました。よいお年をお迎えください。
by maya (2005-12-28 18:57) 

zep

その答えで十分説得力があります。要は大英帝国が世界をリードしていた時代ってことだと思います。特にイギリスの停滞期には、かつての栄光の時代をなつかしむ風潮もでてきたのかもしれませんね。この時代は文化も一般大衆に広がったようですし。騎士物語は大好きですね。『冬のライオン』、もう一度みたいぞ。では、よいお年をお迎えください。
by zep (2005-12-29 10:03) 

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