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NHK『偉大なる旅人・鄭和』 [歴史ドキュメンタリー番組]

 15世紀に中国から海外に派遣された鄭和の遠征隊の説明として正しいものを、次の文①~④のうちから一つ選べ。
  ① 遠征隊は,明の太祖洪武帝によって派遣された。
  ② 遠征隊は,アフリカ東岸にまで達した。
  ③ 遠征隊は,2度にわたって日本を攻撃した。
  ④ この遠征後も,明は積極的に遠征隊を海外に派遣した。
                             (1993年度 追試験 世界史 第4問B )

 NHKで今日放送された番組「偉大なる旅人・鄭和」はたいへんよいドキュメンタリーでした。最近中国では海外との交流を促進した鄭和について、「改革・開放」の先駆者として高い評価を与えているらしいです。鄭和の評価を高めたのは、改革・開放の旗手にして「中華人民共和国の不死鳥」こと鄧小平でした。鄭和の航海を大航海時代におけるヨーロッパ人の航海よりも高く評価すべきであるとの見方は以前よりありましたが、ヴィジュアルに分かりやすく伝えるという点で、いい番組でした。インドネシアにおいてイスラーム教徒と華僑の双方から尊崇されているという点、そして仏・ヒンドゥー・イスラームの3教徒が対立していたセイロン島に、3者の融和を図るために和が1409年に立てた石碑の話などを聞くと、国際感覚溢れた彼の姿が浮かび上がってくるようです。文化や宗教の壁を越えた、今で言うところの国際感覚溢れた人物像が浮かび上がってきます。  だいたいの内容は、宮崎正勝著『鄭和の南海大遠征』(中公新書)に載っているものではありましたが、映像で視覚に訴えられるとやはり桁違いに面白く感じます(誤解なきよう言っておきますが、宮崎先生の本がつまらんと言っているのではありません)。セイロン島の石碑発見のエピソードなど、『南海大遠征』では「溝をおおう石板」とありますが、番組では「ドブのフタ」と紹介されたことで、本では読み流した部分が印象に残った次第です。北京大学の和研究会の協力で作成したという、CGによる「宝船」の船内再現など、やはり受ける印象が違います。この和研究会の活動も、北京原人の骨発見計画同様に北京五輪向けのプロジェクトでしょうか?南京から北京まで3カ月かかったとか。DNA鑑定の結果中国人の血をひいていると確認されたアフリカの女性が中国政府の招きで南京に留学し、医者を目指して勉強中という話をきくと、そう感じてしまいますが。  鄭和の宝船とコロンブスのサンタ=マリア号とのCGによる大きさの比較や、疑問点を老師と弟子との会話形式で説明するというのも分かりやすかったと思います。センター試験で、鄭和がベトナムに達したときに存在した王朝は何かという問題がありましたが、チャムパーだということはこの番組見れば印象に残るでしょう。マラッカ海峡には現在でも海賊が出没しているというこですが、鄭和は海賊との戦闘の末これを制圧し、海上交通の要地マラッカ海峡に平和をもたらしたということです。カマールという位置測定の道具がでてきましたが、四角の板でした。映画『1492』でコロンブスが使っていた道具とは違いますね。やはり人気の中国商品は陶磁器。アラビアで作られたブドウ模様の陶磁器や、逆に中国でつくられたアラビア風燭台陶磁器(オリジナルの青銅製燭台には、パルティアン=ショットをする騎射の図が見えたように思いますが?)など、当時の交流を示して興味深いものでした。  鄭和艦隊で食された食事の再現も興味深いものでした。船内ではモヤシを栽培する一方で、豆腐をつくり鶏等も飼っていたとのこと。食材としてニガウリ等も使う、壊血病とは無縁だったとのこと。こうした食事が疫病の発生を防いだということで、まさに「医食同源」。鄭和艦隊が到達したアフリカの都市マリンディは、私大入試ではたまに見かけます。資料集にも載っている陶磁器を埋め込んだ墓も出てきました。旧課程の教科書には鄭和艦隊がアフリカからキリンを持ち帰った図が載っていました。キリンをアフリカから持ち帰った方法も予想されました。動物専用船の甲板に大きな穴を開けたのではないだろうか、ということです。  1421年に鄭和が新大陸に到達していた、という説は面白かったですね。提唱者が中国人だったらナショナリズムか?とも思ってしまうところですが、非中国人(元英海軍の潜水艦長)が主張しているで点が、なんか面白そうに思えます。同じアジア人ですからねぇ。もし鄭和の航海事業が後世に継承されていたら、ポルトガルのインド洋貿易参入は不可能であったかもしれませんね。砲艦外交を展開しない中国への支持は高かったはず。欧米によるアジアの植民地化もなかったかもしれません。『銃・病原菌・鉄』でジャレド・ダイヤモンドが指摘している点で、当時の中国がヨーロッパに劣っている点は皆無ですから。  テレビを見た人には『鄭和の南海大遠征』はオススメの本です。この本はネットワーク論の視点から書かれた本ですが鄭和の生い立ちや艦隊の構成など、番組で紹介された内容をより深く知りたい人には、よい本です。まあ「鄭和の故郷雲南の風土病ペストが世界の歴史を変えた」、などという、彼の航海とはまったく関係ない話をマクニールの本から引用してる点などは、ネットワーク論偏重というイメージを受けないでもないですが、「鄭和の大航海をネットワーク論の視点から見直す」というスタンスは、興味深いものでした。読んで損はないです。同じ著者の『イスラーム・ネットワーク』(講談社選書メチエ)もあわせて読むといいと思いますね(もっとも『文明ネットワークの世界史』は買って大後悔した、つまらない本でしたが)。  これだけ有名な人物でありながら、死亡時期や場所が確定されていないというのも不思議ですね。彼の死から40年後、軍の高官であった劉大夏によって鄭和の航海記録はすべて破棄されてしまいます。理由は莫大な費用がかかったためだそうですが、実に残念なことです。

鄭和の南海大遠征―永楽帝の世界秩序再編

鄭和の南海大遠征―永楽帝の世界秩序再編

  • 作者: 宮崎 正勝
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1997/07
  • メディア: 新書
イスラム・ネットワーク―アッバース朝がつなげた世界

イスラム・ネットワーク―アッバース朝がつなげた世界

  • 作者: 宮崎 正勝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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降龍十八章

結局、夕べは見ませんでした。いまいち、興味がわかなったので阪神戦を見てしまいました。中国史については、まずはアニメの封神演義を通して見てみたい。いまだに何がなにやらわからん状態です。
by 降龍十八章 (2006-05-04 13:55) 

zep

「封神演義」って、「アニメと元になった本は全然違う」、昨年の1年生が言っていたような。確か中国の古代思想かなんかをやったときだったかな。なんかゲームのタイトルにもなってないですか?
by zep (2006-05-06 11:33) 

降龍十八章

ほとんどの中国人にとって、封神演義こそが真の歴史だといいますからすごいですね。なんで、日本では広まっていないのか不思議です。原作本は読んでいませんが、なにせ登場人物が多いのでアニメの方がイメージはつかみやすいと思いますが。それにしても、封神計画が結局どうなるのか我慢強く読み続けるしかなさそうです。太公望も姜子牙とか言う呼び名が一般的だそうで、ためになります。
・・・中国史を制するものは世界史を制す
by 降龍十八章 (2006-05-10 08:31) 

zep

>ほとんどの中国人にとって、封神演義こそが真の歴史
 へぇ、それは知りませんでした。面白そうですね。
>太公望も姜子牙とか言う呼び名が一般的
 なるほど、調べてみる価値ありそうですね。情報有り難うございました。
by zep (2006-05-11 22:52) 

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