マルコムX(スパイク・リー監督、1992年、アメリカ) [歴史映画]
1960年代に黒人解放運動のオピニオン・リーダーとして活躍した マルコムX(1925~65)の生涯を描いた映画。名作『ルーツ』の作者アレックス・ヘイリーがまとめた『マルコムX自伝』をもとに、奇才スパイク・リーが監督・製作した作品です(手塚治虫の『ブラック・ジャック』にはピノコがテレビで『ルーツ』を見たというエピソードが出てくる)。主演のマルコムXを演じるのは、デンゼル・ワシントン。
3時間以上という長い映画ですが、それだけの時間を費やして見る価値は十分にある作品です。何よりデンゼル・ワシントンの演技が素晴らしい(この作品でデンゼル・ワシントンはNY批評家協会賞・ベルリン国際映画祭男優賞を受賞)。私がマルコムXが演説する映像を見たのはNHKの『映像の世紀』でしたが、ほとんど本人のようです。帝国書院の『タペストリー』にもマルコムXの写真が掲載されていますが、写真から伝わってくるマルコムの雰囲気は、映画でのデンゼルそのもの。映画のエンディングで流れる写真やフィルム(モハメド・アリやキング牧師との写真も)は本物のマルコムXのものだと思いますが、これを見てもデンゼルの演技の素晴らしさが伝わってきます。演説のシーンも印象深いのですが、刑務所から出所した主人公が、イライジャ師に初めて会うシーンが素晴らしい。とめどなく涙を流すマルコムの表情から、彼の感動する様子が伝わってきます。
マルコムXが凶弾に倒れたのは、1965年の2月21日。映画にも出てくるケネディ大統領の暗殺は、63年の11月。暗殺前年の64年にはケネディが成立を目指した公民権法が成立し、キング牧師がノーベル平和賞を受賞していますが、映画の中でマルコムが「アンクルトム的指導者」と揶揄しているのは、もちろんキング牧師のこと。帝国の『タペストリー』では、キング牧師とマルコムXの路線の違いを「人種統合主義」と「分離主義」としてあります。
マルコムXの暗殺後、66年にはストークリー・カーマイケルの「ブラック・パワー」運動が起こり、分離主義がいっそう高まりを見せることになりますが、68年にはキング牧師が暗殺されます。キング牧師の暗殺は、ベトナムでソンミ村事件が起こった翌月のことであり、2カ月後の6月5日には、大統領予備選挙で勝利宣言をしたばかりのロバート=ケネディ上院議員(JFKの弟)が42歳の若さで凶弾に倒れるという、戦後アメリカの暗い時代。また10月に開催されたメキシコ・オリンピックでは、陸上男子200mで1,3位となったアメリカの黒人選手スミスとカルロスが、表彰台上でブラックパワーのデモンストレーションを行ったために選手資格を停止され、選手村からも追放されるという出来事も起こっています(このスミスとカルロスが表彰台の上で拳を突き上げている写真は、この映画のエンディングでも見ることができます)。
東京書籍の教科書『世界史B』には、南北戦争の箇所で「アフリカ系アメリカ人を黒人として法的・社会的に差別する状態は.....」という表現があり、注目されます。アメリカ大統領予備選挙におけるオバマ候補の健闘を、マルコムが生きていたらどう評価したでしょうか?
映画の冒頭に流れるのは、1992年のロサンゼルス暴動の引き金となった、ロドニー・キング事件のフィルム。そして映画のエンディングに登場するSowet Teacherは、なんとネルソン・マンデラ!
『ダブルオー』に今週から登場したネーナ・トリニティ、搭乗機体名や兄弟の名前からするとドイツ出身でしょう。ということは、名前の由来は多分、ネーナ・ケルナーでしょうね。
完訳マルコムX自伝 (上) (中公文庫―BIBLIO20世紀)
- 作者: 浜本 武雄, マルコムX
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/03
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完訳マルコムX自伝 (下) (中公文庫―BIBLIO20世紀)
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