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『世界史をどう教えるか~歴史学の進展と教科書』(山川出版社) [歴史関係の本(小説以外)]

 本のタイトルから、歴史学の最新の成果を授業にどう取り入れて展開するのか、という具体例が示されている本だと思って買ったところ、そうではありませんでした。時代や地域ごとに、従前示されてきた伝統的・定型的な説明が、もはや自明のものではないということを示した本です。
 編集は、神奈川県教科研究会社会科部会歴史分科会。現場の世界史教師が、日々授業で取り扱っている授業構成の妥当性について検討した研究報告であるため、たいへんわかりやすくまとめてあります。アッシリア像の見直しや、インドにおけるヒンドゥー教やカースト制度の位置づけ、イギリス産業革命とインド綿工業の関係など、「旧来の定型化された構成」で授業を行っている私には大きな刺激であり、教えられることが大でした。
 しかしながら、この本はまだまだ「スタート地点」ということになるでしょう。「どう教えるか」つまり「これが最近の歴史学の成果を取り入れた授業だ」ということを示すのはこれからの話。歴史学の成果をそのまま授業に取り入れようとするなら、小田中直樹さんが『歴史学ってなんだ?』の中で例示している「歴史家の営みをそのまま文章化」したような物言いになってしまい、これではとても「説明」とは言えません。したがって、授業で新しい成果を取り入れようとすれば、大阪大学21世紀COEプログラムの報告書に載っているコメント「ここで得た情報は、教科書に沿った授業を進めていく上での『小ネタ』としての利用に留まるものと思われる」というご指摘は、当を得たものだと思います(コメントなさっているのは、この本の第9章を担当なさっており、『世界史なんていらない?』のコラムも担当されている澤野先生)。
 この本で紹介されている歴史学の最近の成果について、世界史の教師を生業している以上、知っておくことは当然でしょう(それを授業で話すか否かは別として)。しかし、世界史という科目は高校で必修である以上、「世界史が好きor得意」という生徒よりも、「世界史が嫌いor不得意」という生徒が圧倒的に多いという事実には留意すべきだと思います(私が勤務する高校では、10クラス400名の生徒のうち、世界史を受験科目とする生徒は150名にも満たない)。例えばミタンニ王国の民族がインド=ヨーロッパ系なのか、フルリ人なのかといった論議を高校の世界史の授業で扱うことが妥当だとは、私には思えません。
 私は日頃、「内容」よりも「歴史に対する興味関心の喚起」を重視した授業を行いたいと思ってます。小田中直樹さんは『歴史学ってなんだ?』の中で「歴史書と歴史小説」の違いを述べておられますが、私が理想とする授業は「歴史書と歴史小説の橋渡し」となる授業です(かつ大学入試で点がとれる授業)。いわばアマチュアの歴史学とでもいいましょうか(山口大の吉川先生がおっしゃっている「歴史理解の育成」という考えには共感を覚えます)。この点が、私がこの本に居心地の悪さを感じた原因かもしれません。

世界史をどう教えるか―歴史学の進展と教科書

世界史をどう教えるか―歴史学の進展と教科書

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2008/03
  • メディア: 単行本




歴史学ってなんだ? (PHP新書)

歴史学ってなんだ? (PHP新書)

  • 作者: 小田中 直樹
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2004/01
  • メディア: 新書



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