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センター世界史雑感 [大学受験]

 大学の歴史学の先生が「高校歴史が嫌われる理由の一つは、受験勉強のコスパが悪いこと」とコメントしていたが、正直そのとおりだと思う。中でも世界史Aは地歴科目の中で、総合的に最もコスパが悪い。熊本大学の場合、理系と教育学部は地歴A科目でも受験できるが、文学部と法学部はA科目不可である(教育学部でも社会専攻はB指定でいいと思うのだが)。鹿児島大学も同様で、法文学部はB科目のみである。このように「A科目では受験できない場合がある」となれば、A科目受験者が少ないのは当然であり、なかでも世界史Aのセンター試験受験者数は例年最下位争いをしている。今年(平成29年度)の世界史A受験者は、英語以外の外国語を除けば最少であった。

 4単位標準の世界史Bに比べて、2単位標準の世界史Aの難易度が低いかと言われれば、確かに難易度は低い。が、桁違いにやさしいというわけではない。世界史Aで高得点がとれる受験生は、Bで受験してもある程度の点数をとれる受験生だろう。おまけに受験生が少ないため、対策用の問題集もほとんどない。本試験の解説が旺文社の『大学入試問題正解 世界史』に掲載されるくらい。

 しかし、センター世界史Aは様々な点で頑張っていると思う。以前はBと共通問題があったが、最近はまったく見られない。「世界史Aは世界史Bの内容を薄めたものではない」という意見(確か歴教協?)も読んだ記憶があるが、(現場の実際の感覚はともかく)確かにその通りで、その点からすればAB共通問題がないのは、あるべき姿だと感じている。

世界史Aにはハッとする問題もあり、中でも特に印象に残っているのは、次の3つ。
(1) 鉄道の営業キロ数を示したグラフを使った問題
    http://zep.blog.so-net.ne.jp/2007-08-08
    (1999年度 本試験)
(2) 産業革命における綿織物のイノベーション
    http://zep.blog.so-net.ne.jp/2007-06-12
(2001年度 追試験)
(3)下線部⑧の時期(20世紀後半)の時期の科学や文化について述べた文として正しいものを、次の①~④から一つ選べ。
  ① ビートルズの音楽が流行した。
  ② レントゲンが、X線を発見した。
  ③ ゲーテが、文学者として活躍した。
  ④ ピカソが、「ゲルニカ」を描いた。
(2014年度 本試験)

「SENSEI NOTE」という教員向けSNSで「世界史Bの授業進度」というトピが立った時、高校で世界史を教えている教員でも世界史Aのセンター試験を見たことがない人がいるということでちょっと驚いたが、よく考えてみると確かにそうかもしれない。かつてセンター試験の会場では、問題冊子をもらうことができたため、世界史Aの問題をその日のうちに見ることが可能であった。しかしいまは配布がないため、大学入試センターのウェブサイトにアップされるのを待つしかない。B問題は各予備校が速報でアップしてくれるが、A問題をアップしてくれるところはほとんどない。

 そうした厳しい状況の中で、ベネッセ・駿台マークは唯一世界史Aの模試問題を作成しており、本当に頭が下がる。今年の11月マークもよくできた問題だった。年表を使った問題、地図を使った問題、グラフを使った問題いずれもセンター試験世界史Aレベルと形式をしっかりと踏まえた問題であった。

 世界史Aに限った話ではないが、模試と本番の問題で一番大きな差を感じるのは、リード文と資料である。リード文で印象に残っているのは、2006年本試験におけるAB共通問題の『千夜一夜物語』のリード文と、翌2007年世界史B本試験で紹介された中国の秘密結社「紅灯照」を紹介したリード文である。いずれも、「もっと知りたい」と思わされる文章であった。「リード文と設問の関係が薄い」と批判する意見も散見されたが、こうした専門性が高いリード文と関係が深い設問を作ろうとすると、設問の難易度が上がってしまい、また出題できる問題の内容も限定的になってしまう。結果としてセンター試験そのものの趣旨にそぐわない問題になってしまう可能性もあり、妥協は致し方ないと感じる。

 資料については、「アジア向け艤装船舶数の推移」(2016年世界史B本試 http://zep.blog.so-net.ne.jp/2016-01-27 )、「15~20世紀の植民地数の増減」(2017年世界史A本試)、「1921年~2001年のポーランドとハンガリーの小麦生産量の推移」(2017年世界史A追試)など、よくもまぁこんな統計資料を見つけてくるものだと感心する。これらの資料がすぐれているのは、より深い学習が可能となる点である。「15~20世紀の植民地数の増減」については、「植民地の数よりも、面積を示すほうがよいのではないか」という意見があったが、私はそうは思わない。確かに、宗主国側の視点では面積の方が重要かもしれないが、植民地側からすれば独立することのほうが重要だろう。このグラフだからこそ、植民地数の減少=独立国の増加という点が読み取りやすい。「19世紀はじめに独立した国が増えた背景」や「帝国主義の時代」を感じさせるよい資料だと思う。「1921年~2001年のポーランドとハンガリーの小麦生産量の推移」については、「冷戦の終結後、ポーランドがハンガリーを、生産高で常に上回っている」のはなぜだろうという疑問が出てくるが、農業中心のポーランドと工業にシフトしたハンガリーの違いという理解でよいのだろうか?

 いつも言ってることだが、やはりセンター試験の過去問は何度解いてもいいと思う。
http://zep.blog.so-net.ne.jp/2015-12-28
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