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『母をたずねて三千里』 [授業ネタ]

 イタリアの少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母を探す物語「母をたずねて三千里」は、「移民の世紀」と呼ばれる19世紀の時代状況を反映したものである。①当時、イタリアでは大きな政治的・社会的変動が生じており、多くの人々が、②南北アメリカ大陸へ移住した。とりわけアルゼンチンのイタリア系移民は、パンパと呼ばれる大平原において、工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産し、独立後の国家の経済を支えた。さらに、タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与えるなど、③アルゼンチンの歴史に大きな足跡を残している。

問1 下線部①に関連して、19世紀のイタリアで起こった出来事について述べた次の文章中の空欄( ア )と( イ )に入れる語の組合わせとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

 イタリアは、( ア )王国を中心に統一されたが、新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった。特に( イ )の赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部からは、貧困問題もあって、多くの人々が移民として流出した。

 ①  ア-サルデーニャ   イ-ガリバルディ
 ②  ア-サルデーニャ   イ-マッツィーニ
 ③  ア-両シチリア    イ-ガリバルディ
 ④  ア-両シチリア    イ-マッツィーニ
2016年度センター試験 世界史A 本試験 第3問A


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 アニメ「母をたずねて三千里」はフジテレビ系で日曜午後7時30分から放送されていた「世界名作劇場」の一本として、1976年1月~同年12月まで、52回にわたって放送された。場面設定・レイアウトに宮崎駿、監督は「アルプスの少女ハイジ」の高畑勲という強力なスタッフである。イタリアのジェノバに住む少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母親アンナを探して白い猿のアメデオとともに旅に出るというストーリーだが、個人的にはマルコの父、ピエトロの声を演じた川久保潔氏が、NHKの人形劇「新八犬伝」で「忠」の珠を持つ火遁の術の達人、犬山道節の声を担当していたので好きだった。主題歌を歌う大杉久美子氏は、「ハイジ」や「フランダースの犬」、「あらいぐまラスカル」などのテーマも歌ってた。

 アニメ「母をたずねて三千里」は、浜島書店の世界史資料集『NEW STAGE 世界史総覧』にも紹介されていた。原作はイタリアの作家エドモンド・デ・アミーチスによって1886年に書かれた愛国小説『クオレ』で、「三千里」はこの中の一章分を脚色した作品。このアミーチスという人、結構な愛国者で、14歳にしてガリバルディの千人隊(赤シャツ隊)に志願したほど。(ただし幼すぎとして断わられたとか)。

 実際小説版(「アペニーノ山脈からアンデス山脈まで」という副題がついている)を読んでみたが、なんとなく暗い感じのストーリー展開である。『クオレ』全体が道徳的な雰囲気を持っているが、「ロンバルディアの少年監視兵」「ガリバルディ」といったタイトルの短編は、日本の小学生には難しいのではないだろうか。前者の書き出しなど、「1859年、ロンバルディア解放のための戦争のとき、ソルフェリーノとサン・マルティーノの戦争で、フランスとイタリアの連合軍がオーストリア軍をうちやぶってから数日ののち....」という具合だ。

 なぜイタリアからアルゼンチン?このアニメの時代設定は、1882年となっている。この時期アルゼンチンでは、冷凍船の発明によってパンパでの放牧がさかんとなり、ヨーロッパ向けの食肉輸出が増加する。アンモニア冷凍設備をつけた食肉運搬船が就航したのは1876年だそうだが、まもなく冷凍施設付きの屠殺場も普及、また鉄道網が発達したことから肉の輸出も容易となった。政府は外国からの移民の土地取得を容易にするなど、移民の受入れに積極的だったことが、アルゼンチンへの移民が増えた理由のようである。こうした農畜産業の大規模な発展を理由に、ヨーロッパ(特にスペイン・イタリア)からの大量の移民が増えたということらしい。「工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産」とは、まさに世界的な分業体制=世界システム。ただ、一般に世界システム論では「周辺は中核に従属する」と考えるので、中核から周辺に出稼ぎというのも少々違和感が残る。しかし、かつてアルゼンチン共和国大使館のウェブサイトには、

 「20世紀の初頭、アルゼンチンは経済的に成功した国となりました。年平均経済成長率が6%という時期が30年間続いた結果、ヨ-ロッパの人々が移住先としてアルゼンチンとアメリカ合衆国のどちらを選ぶか迷う程魅力的な国へと成長したのです。」

 「19世紀末頃には、イタリア、スペインをはじめとするヨーロッパからの移民が大幅に増加し、政治の世界でも大衆の代表を増やすよう求める声が強くなっていきました。」

という記述があった(現在は削除されてる)。移民の誘致政策がとられるようになった1860年代後半から以後の50年間に、ヨーロッパから約250万人の移民がアルゼンチンを訪れたということなので、大変な数だ。「三千里」でも、アルゼンチンに到着したマルコが「イタリア語ともロンバルディア語ともつかないことば」で話しかけられたり、移民たちが集う「イタリアの星」という宿屋でイタリア系移民たちからカンパしてもらうシーンがある。
 
 紹介したセンター試験のリード文に「タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与える」とある。移民から好まれたタンゴには、イタリア語からの借用語が多いという。これをルンファルド(Lunfardo)とよび、移民が多かったブエノスアイレスで使われることが多いらしい。イタリア系アルゼンチン人のサッカー選手といえば、なんといってもリオネル・メッシ。それに現ローマ教皇フランシスコもイタリア系アルゼンチン人。サッカーW杯は近いし、先日教皇フランシスコが「焼き場に立つ少年」の写真を配付するよう指示したというニュースが流れた。「サッカーアルゼンチン代表メッシと、ローマ教皇フランシスコの共通点は?」という問いかけからスタートして、最後は映画「山猫」を見せてイタリア統一の授業をしめくくりたい。設問の文章「新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった」「赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部」という言葉が実感できるだろう。


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