SSブログ

今年の東大の問題 [大学受験]

【第1問】  近現代の社会が直面した大きな課題は、性別による差異や差別をどうとらえるかであった。18世紀以降、欧米を中心に啓蒙思想が広がり、国民主権を基礎とする国家の形成が求められたが、女性は参政権を付与されず、政治から排除された。学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった。  このような状況の中で、19世紀を通じて高まりを見せたのが、女性参政権獲得運動である。男性の普通選挙要求とも並行して進められたこの運動が成果をあげたのは、19世紀末以降であった。国や地域によって時期は異なっていたが、ニュージーランドやオーストラリアでは19世紀末から20世紀初頭に、フランスや日本では第二次世界大戦末期以降に女性参政権が認められた。とはいえ、参政権獲得によって、女性の権利や地位の平等が実現したわけではなかった。その後、20世紀後半には、根強い社会的差別や抑圧からの解放を目指す運動が繰り広げられていくことになる。  以上のことを踏まえ、19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について、また女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について、具体的に記述しなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その語句に下線を付しなさい。
キュリー(マリー)  産業革命  女性差別撤廃条約(1979)  人権宣言  総力戦  第4次選挙法改正(1918)  ナイティンゲール フェミニズム




 要求は「19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について」と「女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について」具体的に記述すること。中谷臣先生の『世界史論述練習帳』にあるように、「要求されたことは目一杯書く、それ以外は書かない」。したがって、要求へ指定語句を(時には力業ででも)結びつけていく。
 駿台の解答例のように「人権宣言」の語句を肯定的に使うことには疑問を感じる。世界史Aの教科書にも載っているグージュの活動を見れば明らか。裏技的だが、代ゼミの解答例のように「世界人権宣言に男女の同権が盛り込まれたが、実態として女性の社会進出は途上であった」としたほうがずっといい。リード文に「学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった」とあることから、ナイティンゲールやキュリー夫人も、肯定的には使わなかった。『世界史論述練習帳』にあるように、「課題に合致するデータを集めてくる」べき。
 「産業革命」と女性の地位との関係は、昨年実施された大学入学共通テストのプレテスト問題24が参考になる。[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09]
 「フェミニズム」は、駿台の分析にもあるように「ウーマンリブ」と同義語で使うのが書きやすいが、本来ウーマンリブはフェミニズムの一形態であり、各社の資料集に載っているメアリ=ウルストンクラフトやグージュもフェミニストである。



【私の解答例】
女性参政権は近代に入っても認められず、フランス革命の人権宣言は普遍的人権を主張したものの、その対象は男性のみで女性は除外されていたため、フェミニズムが高まった。また産業革命で固定化した職住分離は良妻賢母の専業主婦を理想像とし、一方で女性労働者の賃金は低く抑えられていたため、19世紀前半まで女性の社会的地位は低かった。クリミア戦争で傷病兵の看護に従事し、近代看護学の基礎を築いたとされるナイティンゲールの活躍も、女性の政治的権利の向上には寄与しなかった。こうした状況に変化をもたらしたのは、第一次世界大戦である。第一次世界大戦は総力戦となったため女性の労働力は重要性を増し、このため女性の社会的地位は向上した。女性初のノーベル賞を受賞したキュリー(マリー)も、積極的に戦争に協力した。こうした動きは女性の参政権獲得に道を開き、イギリスでは第4次選挙法改正(1918)で初めて女性参政権が認められ、アメリカでも第一次世界大戦後に認められた。しかし性差による女性への社会的な差別は依然として続いたため、1960年代後半からベトナム反戦運動や公民権運動と並んで、女性を社会的差別から解放しようとするウーマンリブが世界的に広がった。女性差別撤廃条約(1979)はその成果の一つであり、近年ではジェンダーに対する意識も進んでいるが、イスラーム世界など女性の法的地位が男性よりも低い地域もなお残存している。


 一昨年10月、私が2年生の世界史Aでグージュを使って行ったフランス革命の授業の概要は、高大連携歴史教育研究会第二部会の教材共有サイト[https://sites.google.com/site/dai2bukai4all/home]の「ジェンダー史」の項目にアップしてある。


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学校

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。