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世界史Bのプレテスト [大学受験]

 先日今年度のプレテスト(大学入学共通テストの試行調査)が実施され、問題と解答および出題のねらい等が公開された[https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1110.html] 。世界史Bに関しては、「昨年より簡単」になり、残念ながら「思考力を問うという点で後退した」というのが第一印象であった。

 「簡単になった」と感じる原因の一つは、わかりやすい選択肢である。例えば解答番号3では、「②メロヴィング朝とマムルーク朝」の組み合わせは時代的な隔たりが大きすぎるうえ、他の三つの選択肢は「教科書で同じ箇所に載っているのを見た」記憶がある。小問の概要は「地中海とその周辺地域で接触した国家・王朝について考察し判断する」となっているが、折角地図を使っているのだから、ダミー選択肢として「上の地図で表された地域において接触した可能性がない勢力」(地理的にハズれている勢力)を取り上げた方がよかったように感じる。

 一方「思考力を問うという点で後退した」と感じた原因は、「これって前にもあったよね」という問題が散見されたことである。まず問題番号12。宮崎滔天『三十三年之夢』を使った問題だが、2000年度の世界史A本試験第3問Bと引用箇所、さらに文中で空欄になっている部分までまったく同じであった。それはともかく、文中で空欄になっている国の組み合わせの選択肢は、かつての世界史Aのセンター試験のほうが良かったようにも思える。今年の試行問題では、単に組み合わせを問うのみで
  ① ロシア 日本     ② スペイン 清国
  ③ 日本  清国     ④アメリカ合衆国 スペイン
という選択肢だが、2000年度の世界史A問題では、
  ① a―アメリカ合衆国 b―スペイン
  ② a―スペイン b―アメリカ合衆国
  ③ a―アメリカ合衆国 b―日 本
  ④ a―日 本     b―アメリカ合衆国
 という選択肢であり、より深い読解が必要となっている。過去にこの問題があったことで、「後退した」印象を抱いてしまったのだろう。出題者の方には申し訳ない言い方だが、「世界史Bの新テスト(試行)問題が、世界史Aの過去問より簡単なんて信じられない」というのが正直な思いだ。

 次に問題番号24。ポーランド分割の風刺画は、同じものが2002年度の世界史A追試験第4問Bで使われた。分割に参加した国名と君主名の組み合わせを解答させる点も同じである。

 問題番号34については、類似の地図が今年のセンター試験世界史A追試第1問Bに使われているが(問題番号6)、小問の概要に「グラフと説明文とを関連付けて」とあるように今年の「高等学校担当教員の意見・評価」[https://www.dnc.ac.jp/center/kako_shiken_jouhou/h30/jisshikekka/hyouka_honshiken/chirirekishi.html]で指摘されている点がよく生かされていたと感じる。

 貨幣の写真を示して古い順に並べさせるタイプ(問題番号22)は、類似の問題が1998年の世界史B本試験第3問Aで出題されたが、貨幣の説明文を読み王朝を特定することが必要となっており、今回の問題は読解力を必要とした。

 この問題を見ていて思いだしたのが、平成25年に実施した熊本県の県下一斉テスト(世界史)で出題した問題で、ユーロ導入前のギリシアの貨幣(デモクリトス・ペリクレス・ホメロス・アリストテレス)を活躍した古い順に並べよというものである。並べた順番の選択肢もかなり工夫して、「ペリクレスで始まる選択肢とホメロスで始まる選択肢が二つずつ、ホメロスのほうが古いだろうから答えは二つに絞られ、正解候補の二つのうち片方は最後がアリストテレスでもう片方はペリクレスだから、アレクサンドロスの家庭教師だったアリストテレスが最後だろう」という流れを期待したのだが、寄せられた感想は残念ながら「難しすぎる」というものばかりであった。この問題を選択させた学校は世界史Bを履修しているはずだから、正直「これくらい説明できないような教員なら、やめてほしいんだけど」と思ったものである。


 今回の試行でよかったのは、文章をしっかり読むことを期待する問題が見られたことである(問題番号14、16、26、28)。 また正解が複数あるという問題もあった(問題番号24)。「東ロボくん」の開発者は「東ロボくんは、意味が分からないのに世界史の教科書を読み込んでコンスタントに高得点を出した」と自画自賛していたが、読解力を必要とする問題はAIで解答するには難しいだろう。一方で、昨年の試行問題にみられた「根拠を問う問題」「調べるための資料として適当なものを選ばせる問題」「誰の意見が正しいかを問う問題」などがあってもよかったのではないか。特に、昨年の「アジア・アフリカの民族運動に関する資料を読ませてその共通性を問う」というメタ認識的な問題はあってもよかった(難易度の関係もあったのかもしれないが)。全体としてこれまで実施されてきたセンター試験とあまり変わらず、「高得点をとるためにはアクティブラーニング的な授業など必要ないし、むしろ講義形式のほうが適しているのでは」と感じた。
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