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北村厚『教養のグローバル・ヒストリー』(ミネルヴァ書房) [歴史関係の本(小説以外)]

 ツイッター界隈では「#先生死ぬかも」というハッシュタグがトレンドになっていたが、授業と担任業務だけやればいいのであれば、教員の仕事はどんなにか楽しいものだろう。現在私は学年主任6年目で2度目の3年学年主任をしているが、今年はコロナ対策関連や新しい大学入試制度への対応その他の理由により、運営委員会や学年会その他諸々の打ち合わせ時間が例年以上に多い。実質的に一人で顧問をしているダンス部は熊本県高体連主催の熊本県学校ダンス発表会を5連覇中で、毎年夏には神戸の全日本高校・大学ダンスフェスティバルに参加している(今年は残念ながら中止となったが)。その準備も結構大変で、遠征5日間で約300万円かかるので金銭面での手続きや準備、県外遠征の申請などもある。(もっとも、「部活大変ですね」と言われたときは面倒くさいから「ええ、マジ大変ですよ、代わりにやってもらえませんか?」と返しているが、正直あまり大変とは思っていない。自分にとっては、アホな価値観が異なる教員と話す方がはるかに疲れる。)

 とまぁ50歳をすぎて主任になるといろいろと傍からは見えない仕事(これからの時期だと総合型選抜の指導や学校推薦型選抜の推薦書のチェック、学年生徒全員分の調査書チェックとか、挨拶に来る上級学校の対応とか、来週は「共通テスト出願説明会」の計画とか)も色々とあって空き時間もつぶれてしまう。結果として、授業も例年通りに「こなしていく」感じになっていくわけである。
 そういった中でも、「いい授業をしたい」という思いは人並みにある。今年は3年普通科文系3クラスのうち2クラスが全員世界史を選択してくれたので、しっかり授業をしないといけないと思うが、なかなかその余裕がない(ちなみに今の私の学年は、普通科理系・文系それぞれ3クラス、SSHクラス・専門課程英語科・専門課程理数科それぞれ1クラスの計9クラスである)。

 そういうときにどうするかというと、手っ取り早く「専門書ではなく、教科書よりもちょっと詳しい本」を読んで、授業で話すネタを探す。具体的に言うと、新書や山川の世界史リブレットのシリーズ。使えそうな話が全然ないこともあるが、それはそれで内容的には面白いことが多い。特にツイッター上で大学の先生のアカウントが薦めている本は基本「当たり」と思っていい。それをアマゾンで検索すると似たテーマの本が出てくるので、レビューを見ながらまとめて購入してみることもある。

 しかし困ったことに、時期によっては新書すら読む時間がないこともある。むしろそちらの方が日常かもしれない。そういった場合、授業準備としてやることは2つ。まず一つは、採用している教科書とは異なる教科書を読むこと。ウチは山川の『詳説世界史』を使っているが、東書と帝国の教科書には目を通すようにしている。本文はもちろん、コラムや註にも様々な発見がある。各社とも教科書の記述はかなり難しいので、読み込むと様々な疑問がでてくる。それを調べるのも面白い。

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 もう一つは、北村厚先生の『教養のグローバル・ヒストリー』(ミネルヴァ書房)を読むこと。この本の記述内容は基本教科書レベル(項目によってはプラスアルファ)であり、教科書の範囲を越える用語も少ない。乱暴な言い方をすれば、世界史の教科書から政治史を極力排除して、経済面での諸地域どうしのつながり(ネットワーク)という視点で再構成した本である。章立てを見ると、第1~4章で12世紀まで、以後13世紀以降は1世紀にそれぞれ1章、19世紀は前半と後半でそれぞれ1章に充てられている。目次では各章の小項目の内容が細かく示されているので、まずは目次でおおまかな内容を把握して、章単位に読むのが理解しやすいと思う。章単位で読んでもあまり時間はかからないが、どうしても時間が無いときは小項目単位でもよい。最近授業で使った話は、「第3章 東西の大帝国」中の小項目「1.唐帝国と東アジア秩序の構築」。なんとなく「中国の"周辺"諸国だし、"付け足し"でいいか」とごまかしてきた部分だが、吐蕃が果たした役割やこの時期の日本の立ち位置、羈縻政策の破綻と冊封体制による秩序の再建など、帝国書院の教科書に出ている阿倍仲麻呂の話(唐代の中国でを扱うより前に、「東南アジア」の項目で阿倍仲麻呂には触れておいた)と組み合わせて、結構よい話ができたと思う。

 『教養のグローバル・ヒストリー』を読むと、故宮崎市定先生の「歴史学とは要約する学問である」(「しごとの周辺」朝日新聞1988年1月12日掲載)という言葉を思い出す。宮崎先生は、要約すれば共通性や特徴が見えてくるという意味で「要約」の大切さを述べておられたと思うが、コンパクトにまとまった本書の内容は、「世界史探求」で示されている「諸地域の交流・再編」「諸地域の結合・変容」といった項目における比較や関連付けのヒントになるだろう。自分が持っている世界史の教科書を、異なる視点から読んでみたいという高校生でも十分ついていける内容だと思う。


教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

  • 作者: 北村 厚
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2018/05/11
  • メディア: 単行本



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