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今年の東大の問題 [大学受験]

 今年の東大第1問の要求は、地中海世界における3つの文化圏の成立過程を宗教の問題に着目しながら述べること。「宗教の問題」とは、「宗教をめぐる様々な葛藤が生じ、それが政権の交替や特定地域の帰属関係の変動につながることもあった」と説明されている。
 指定語句は、「ギリシア語」「グレゴリウス1世」「クローヴィス」「ジズヤ」「聖像画(イコン)」「バルカン半島」「マワーリー」の7つ。

今年の東大の問題(世界史) 読売新聞のサイト
https://www.yomiuri.co.jp/nyushi/sokuho/k_mondaitokaitou/tokyo/mondai/img/tokyo_zenki_sekaishi_mon.pdf

 地中海周辺に成立した3つの文化圏を扱った問題はこれまで様々に出題されてきたので、新傾向の問題が出るかとドキドキした分、ベタな出題に驚いた。思いつくだけでも、1995年の東大、1992年の一橋大、2003年の東京都立大など。横浜国立大が世界史の二次試験をやっていた頃「8世紀を中心とする時代の地中海周辺世界の政治状況を、次の5つの語を必ず一度以上用いて、400字以内で記せ。ただし、句読点も一字に数えること。アッバース朝、ウマイヤ朝、カール大帝、ビザンツ帝国、ローマ教皇」という出題もあった。過去問しっかりやった受験生はよく書けたのではないかと思う。

 「5世紀から9世紀」という短いタイムスパンなので、ここは時系列に書いていくという方針でよいと思う。ただし、それぞれの文化圏が確立した時期は明確にしておいたほうがよい。
   
5世紀:ゲルマン人の移動とゲルマン国家の分立(諸民族の大移動)、西ローマ帝国の滅亡、カトリックと結びついたフランク王国の発展  クローヴィス
     ↓
6世紀:ビザンツ帝国(生き延びたローマ帝国)のユスティニアヌス、ギリシア正教とギリシア語に基づくギリシア・ビザンツ文化圏の成立
      ↓
7世紀:イスラーム勢力の地中海進出(地域の帰属関係の変動)
     ↓
8世紀:ウマイヤ朝からアッバース朝へ(政権の交替)
     ↓ 
800年:カールの戴冠(ラテン・カトリック文化圏の確立)


要求は9世紀までだが、9世紀の地中海世界で書けることは思いつかない。さて何を書く? 代ゼミ・河合・駿台の各予備校が公開した解答例をみると、最後の一文は次のようになっていた。

代ゼミ:「両キリスト教会はバルカン半島に移住したスラヴ人への布教を進めて勢力圏拡大を競った。」
河合塾:「東ローマ帝国では、バルカン半島に南下したブルガール人やスラヴ人への布教を進め、コンスタンティノープル教会中心にギリシア語を公用語とする正教文化圏が形成されていった。」
駿台:「9世紀にはビザンツ帝国がスラヴ人・ブルガール人にギリシア語で布教を進め、ギリシア・ビザンツ文化圏を形成した。」

 なるほど、「バルカン半島」を9世紀で使うとのはよい考えだと思う。「9世紀にはバルカン半島のブルガール人がギリシア正教を受容し、ギリシア・ビザンツ文化圏は拡大した。」としておく。駿台の解答例で使用されている「ギリシア・ビザンツ文化圏」という用語は、2003年の都立大のリード文でも「このように、7世紀後半から8世紀にかけて地中海世界は、ラテン・キリスト教文化圏、ギリシア・ビザンツ文化圏、そしてアラブ・イスラーム文化圏の3つの文化圏に分かれることになった。」と使用されているので、そのまま拝借。ただし「ラテン・キリスト教文化圏」という表現は、ギリシア正教もキリスト教なので「ラテン・カトリック文化圏」としたほうがよいのでは。ギリシア・ビザンツ文化圏の成立時期は、代ゼミの解答例同様、ギリシア語が公用語となった7世紀としておく。代ゼミの解答例では9世紀が「勢力圏拡大」となっているのは、そのためだろう。

私が考えた解答例は以下の通り。

5世紀に入ると地中海世界ではゲルマン人国家が分立し、その混乱の中西ローマ帝国は滅亡した。代わって勢力を拡大したフランク王国は、初代クローヴィスがアタナシウス派に改宗したことから旧ローマ市民からも支持された。6世紀にはいるとユスティニアヌス帝のもとビザンツ帝国がヴァンダルや東ゴートなどのゲルマン国家を滅ぼして地中海帝国を回復した。その後帝国の勢力は後退するが、ギリシア語とギリシア正教に基づくギリシア・ビザンツ文化圏が確立した。対するカトリックも、グレゴリウス1世の布教でイングランドやゲルマン人に広がった。しかし7世紀になるとイスラーム勢力が進出し、シリア・エジプトをビザンツ帝国から奪ったことでアラブ・イスラーム文化圏が地中海世界まで拡大した。8世紀にはいるとイスラーム文化圏はイベリア半島まで拡大したが、ジズヤを免除されなかったマワーリーの不満が高まり、750年ウマイヤ朝はアッバース朝に交替し、諸王朝の分裂が進んだ。同じころキリスト教世界では、ビザンツ皇帝が聖像画(イコン)を禁止したことにローマ=カトリック教会が反発し、フランク王国に接近した。800年、ローマ教皇がフランク国王カールに西ローマ皇帝の帝冠を授けたことによってラテン・キリスト教文化圏が成立し、地中海世界に3つの文化圏が成立した。9世紀にはバルカン半島のブルガール人がギリシア正教を受容し、ギリシア・ビザンツ文化圏は拡大した。
(596字)

 最後の9世紀の事例がとって付けたようで、おさまりが悪い。9世紀のことは何を書けば良かったのだろう。ギリシア・ビザンツ文化圏の成立を7世紀としている点で、代ゼミの解答例に近いかな。

【代ゼミの解答例】
https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/1/kaitou/img/tokyo_zenki_sekaishi_kai.pdf

【駿台予備校の解答例】
https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/2021/tky1_sek_1.pdf

【河合塾の解答例】
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/t01-52a.pdf
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