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大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 「戦場ではない 地獄だ」というコピーから、スターリングラード市街戦などの凄惨な地獄絵図的エピソードを集めた本かと思ったが、独ソ戦に焦点を絞って政治や経済、思想などの面から「なぜこのような悲惨な戦争になってしまったのか」を考察した本であり、とても分かりやすい本であった。

 第二次世界大戦でドイツがソ連に侵攻した理由について、高校で使っている教科書にはあまり明確に記されていない。もちろん、前提としてナチスが共産主義を敵視していたことはあげられるが、その一方で1939年8月には独ソ不可侵条約を結んでいる。本書では、その背景が明快に記されており、授業で説明がしやすくなった。

 (1) ソ連がドイツに屈服すれば、ソ連を頼みにしているイギリスも屈服するだろうとヒトラーは考えた(12㌻)。
 (2) ルーマニアの油田を守るため、ヒトラーがソ連侵攻の決断を下すよりも先に、軍部が対ソ侵攻の意志を固めていた(18㌻)。(実教出版の教科書『世界史B』と東京書籍の教科書『世界史B』には、「ドイツのバルカン侵略がドイツとソ連の関係を悪化させた」ことに触れている)
 (3) 戦時下であってもドイツ国民に負担をかけずに生活水準を維持するため、占領地から資源や食料、労働力を収奪することを目的とした「収奪戦争」。
 (4) ナチスの世界観にもとづく「劣等人種」の絶滅をめざす「絶滅戦争」。

 (3)と(4)について、ナチスが設置した強制収容所にはダッハウのような強制労働を目的とした収容所と、映画『ショアー』で取り上げられたトレブリンカやヘウムノ、アウシュヴィッツといった絶滅収容所があった。山川出版社の『新世界史』には、「ドイツは国内および占領地でユダヤ人の絶滅とスラヴ人の奴隷化をめざし、彼らを強制収容所で働かせ、約600万人といわれるユダヤ人を虐殺した(ホロコースト)」とある。

 ノルマンディー上陸以後、ドイツ軍は総崩れになったようなイメージだが、実際には頑強に戦い続けた。「負けたら後がない」とわかっていたからである。食うか食われるかの絶対戦争は、大戦終結後も負の遺産を残した。




次に掲げた地図は、第二次世界大戦後にポーランドの国境線の変更やチェコスロヴァキアの独立回復などに伴って、ヨーロッパで生じた大規模な人口移動の主なものを示したものである。ドイツ人のズデーテン地方からの移動を示すものとして正しいものを、次のうちから1つ選べ。(1993年度 センター試験 本試験 世界史 第1問C )
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独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

  • 作者: 大木 毅
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 新書



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