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リチャード・ベッセル著(大山晶 訳)『ナチスの戦争 1918~1949』(中公新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 大木毅著『独ソ戦』(岩波新書)では、ナチスの戦争が「収奪戦争」から最後には「世界観戦争(絶滅戦争)」へと向かっていったことが述べられていた。本書のタイトルには「1918-1949」とある。ヒトラー政権成立(1933)から敗戦(1945)までではない。第一次世界大戦の終わりが、ナチスの戦争の始まりであり、一方ナチスの戦争の終わりは、第二次世界大戦の敗戦によりもたらされた苦難の始まりであった。ナチスの戦争が絶滅戦争となる道は、第2次世界大戦開戦前からすでにあったと言える。ヒトラーはドイツ人による民族共同体建設をめざしたが、それはドイツ人の幸福のため他民族を隷属させて搾取することと「劣った民族」の絶滅につながり、それらを実現するための手段が戦争であった。こうした「ナチスの戦争」という視点から、ナチスの時代を叙述した本であり、ナチスの本質が戦争と人種主義であったことがよくわかる。国防軍最高司令官だったヒトラーが、独ソ戦開始後に陸軍総司令官に就任して自ら作戦指揮にあたったことも頷ける。『独ソ戦』と重なる部分も多いが、第2次世界大戦開戦前の時代からスタートしているため、個人的にはこの『ナチスの戦争』を読んでから『独ソ戦』に向かった方が、スムーズに理解できるような気がする。

 翻訳であるせいか、表現的にやや読みづらい部分があるものの、はおおよそ見開き2㌻ごとに見出しがついており、内容の把握が容易であり、ほぼ時系列に叙述されているので、破滅へと向かう流れがつかみやすい。 
 
 興味深いのが、義勇軍(フライコー-ル)である。これは従軍経験のある元軍人が率いた軍事組織で、ナチス幹部にはルドルフ=ヘスや突撃隊隊長レームなど義勇軍出身者が多い。もちろん正式な軍隊ではないが軍隊のように制服に身を固め武装した組織で、「鉄兜団」などがあった。1919年3月の時点で25万人が義勇軍に所属していたという(23㌻)。ヴェルサイユ条約(1919年6月)では「陸軍10万、海軍1万5千」となっていたので、義勇軍所属者の数がいかに多かったかがわかる。教科書には「社会民主党を中心とする臨時政府は、議会制民主主義の樹立をめざす一方、軍部など旧勢力と結んで、スパルタクス団など左派をおさえた。」(東京書籍『世界史B』)とか、「指導者ローザ=ルクセンブルクやカール=リープクネヒトは、1919年初め右翼軍人に殺害された。」(山川出版社『詳説世界史』)とあるので、手を下したのは正規軍だと思っていたが、実際には国防大臣から命令を受けた義勇軍であった。もともと左派だった社会民主党政府が右派と手を組むというのも妙な話だが、共産主義に対する敵意がよほど強かったのか。

 こうした暴力容認の風潮が、ドイツ人の民族共同体建設=生存圏の拡大(「血と土」)のための戦争を容認していくというのは自然な成り行きのように思える。おまけに軍事支出の増大と再軍備宣言で、ドイツの失業問題を解消することができた。景気が回復すると今度は労働者不足が深刻になったが(83㌻)、オ-ストリアとズデーテン地方の併合により、ドイツは労働力と外貨を確保することに成功したが(110㌻)、これらはずべてが戦争に向けて活用されることになる。。

 ドイツ人の生存圏拡大と食糧の安定供給を目指した戦争は、ポーランド侵攻後は「イデオロギーの戦争、民族と人種の戦争」へと発展していく(118㌻)。これは『独ソ戦』(岩波新書)における「収奪戦争」→「世界観戦争」への展開とよく似ている。

アインザッツグルッペンEinsatzguruppen : 『独ソ戦』に出てきた「出動部隊」は、本書では「特別行動隊」という用語を使用している。1944年10月には、16歳の少年から60歳の老人までが国民突撃隊という軍事組織に編成されたが(195㌻)、国民突撃隊は国防軍の一部ではなくNSDAPによって組織された民兵組織である(223㌻)。アインザッツグルッペン・国民突撃隊ともに日本語Wikipediaにも項目があった。私には知らないことが多すぎる。

完全なる敗北「工業先進国が最後の最後まで戦い、攻守ともに数十万人の死傷者を出した市街戦の末、敵軍部隊が政府所在地を制圧してようやく降伏したというのは現代史上はじめてのことだった。」確かに。日本との比較(214㌻)。第二次世界大戦におけるドイツの全戦死者の四分の一が最後の4ヶ月に集中している(216㌻)。

本書で触れられているデンミンにおける集団自殺について、つい先日ネット上で記事を読んだ。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190810-00010000-clc_teleg-int


最近見たいと思ったナチズム関係の映画。負の遺産の記憶。
 ・『ハンナ・アーレント』(2012)
 ・『ゲッベルスと私』(2016)
 ・『否定と肯定』(2016)   
 この3つのうち、『否定と肯定』しか見れてない。



ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い (中公新書)

ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い (中公新書)

  • 作者: リチャード・ベッセル
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/09/24
  • メディア: 新書



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