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『山川デジタル指導書 世界史』(山川出版社) [授業研究・分析]

 昨年の実教出版に続いて[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-11-18]、今年度は山川出版社がパワポ授業用のICT教材をリリースした。パッケージの名称は『山川デジタル指導書世界史 改訂版』で、「デジタル素材集」と「デジタル教材集」の2枚のDVD-ROMで構成されている。価格は3万8千円。「教材集」にはPDF形式の指導書が収録されているため「教科書の指導書」扱いとなり、基本的には教科書を販売している店でしか購入できない。「素材集」単体なら教科書販売店以外でも購入することが可能で、価格は2万円である。

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 2枚のうち、パワポ教材が収録されているのは「教材集」(「指導書」扱いの方)で、内容は以下の通り。
 ①教科書と指導書のPDFデータ(テキスト抽出可能)
 ②パワポ授業用スライドデータ
 ③デジタルマップ
 ④黒板投影用白地図
 山川出版社は、世界史ABそれぞれ3点計6点の世界史教科書を発行しているが、「教材集」には6点すべての指導書が収録されている。山川の指導書は6種類とも「授業実践編」と「研究編」の2冊セットであるが、「研究編」は6点とも同一なので、「授業実践編」が6点と「研究編」が収録されている。個人的には読むときには紙媒体の方が好みだが、これだけの分量がROM1枚に入っていることを思えば、持ち運びにはデジタルメディアの方が便利なのは言うまでも無い。
 大いに注目だったのがパワポ授業用のスライドデータ。実教よりも後発という点で「王者山川だけに、もっとすごいものを出してくるに違いない」と期待したのだが、実教とはコンセプトが全く異なるものを出してきた。実教版のパワポ教材は、基本的に「板書代わり」である。クリックすると重要事項がアニメーションで表示されていくもので、同内容の書き込みプリント(ワード形式)や一問一答、テスト問題、教科書本文まで用意されており、世界史の授業を初めて担当するという教員も、このスライドに沿って進めていけばだいたい授業の形になる。しかし、そのままだと一方的な説明による講義がメインとなる可能性が高く、工夫が必要である。一方、山川のパワポスライドは、より理解を深めるための説明用であり、テキストが主体の実教版とは異なり、地図や図版が大きなウェイトを占めている。このため教師の語り(説明)が重要な役割を果たすことになり、また生徒に対する問いかけも山川版の方が行いやすい。大まかなイメージとしては実教版よりも経験を積んだ教員向けという気がする。
 「素材集」は、「教材集」のパワーアップキットと考えてよい。「教材集」収録のパワポスライドのデータに、自分でつくったスライドを挿入したり既存のスライドをカスタマイズするときに活用できる素材集である。収録されている素材は、前述の山川出版社が発行している世界史教科書6冊に収録されている図版や表、グラフなどの画像データで、自作のプリントやパワポスライドに挿入できる。画像データは、教科書別、種類別(地図・年表・図・表・グラフ・史料・系図の7種:複数選択可)で関連するデータを検索してPCに保存して使用する。例えば、「すべての教科書」から「アヘン戦争」をキーワードに「すべての種類の画像データ」を検索すると、「三角貿易の概念図」や「アヘンの流入量と銀の流出量の折れ線グラフ」など22種のデータがヒットする。使いたい素材にチェックを入れて、「選択した画像をパソコンに保存」をクリックすれば、任意の場所に画像を保存できる。ただし、同じデータや類似のデータが異なる教科書に掲載されていることもあるため、実際の種類は22よりも少ない。また、肖像画をはじめとする絵画は収録されていない(ウィキメディアをはじめとするフリー素材がネット上で入手できるからであろう)。個人的な感想だが、「素材集」は、かつて株式会社ゼータ(https://www.zeta.co.jp/)が発売していたPCソフト「プリントメーカー」とほぼ同じである。余談だが「プリントメーカー」は収録データに間違いが多く、なかなか困ったソフトであった。指摘するたびに修正はしてくれたが、何度も間違いを指摘したお礼なのか、私の似顔絵画像データを3種類つくってくれた。
 最後に地図ソフトについて触れておく。「教材集」収録データのうち「黒板投影用白地図」は、黒地に白ラインの海岸線がはいった画像データで、国境線がはいっているものとそうでないものが用意されており、西アジアや東アジアなど地域ごとの地図も用意されている。黒板に投影して教師が黄色のチョークでデータを記入していくことができそうだが、活躍する場面はあまりないようにも思われる。また山川版「デジタルマップ」については、特筆すべき点はない。私の使用方法が良くないのか、画面上で線を引こうと思ったら二点間を結ぶ直線になってしまう。第一学習社の「世界史図表DVD-ROM」収録のデジタルマップも線をひくことはできないが、浜島書店の「デジタルアカデミア世界史」はフリーハンドで自在に線を引くことが可能である。黒板に投影すればチョークで線を入れることは可能だが、黒板ではなく大型テレビに投影している場合はチョークを使えないため、やはりアプリ上で線が引ける方が便利だろう。私の場合、世界史のICT教材として活用する機会が最も多いのは、「デジタルアカデミア世界史」になりそうだ。
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小針誠『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書) [授業研究・分析]

 アクティブラーニングを教育史や教育行政の立場から分析した好著。これまで読んできたいわば実践本とは異なる視点から書かれているため、大変面白く読むことができた。引用される資料が多く、かなり検証されているなという印象。
 まず著者は、アクティブラーニングをめぐる五つの幻想を提示する。これらを検証する中で様々な問題点が指摘されてたが、特に気になったのは、子どもの家庭状況(貧困など)によってはなじめない子どもが出てくるのではないかという指摘。基礎知識がある児童生徒は積極的な参加が期待できるが、そうではない児童生徒はどうなるのか。先日、英語の新テストに使われる民間の外部検定が発表されたが、中には受験料が2万円を超えるものもあった。新テストの採点はベネッセなど民間業者が行うことから、その受験料も気になる。おそらく検定料や受験料の調整はこれから行われるだろうが、しっかりと対応していただきたい。「子どもの貧困」など経済的な格差が、教育格差につながりはしないか。
 興味深かったのが、第二章「近代教育史のアクティブラーニング」で、大正時代に成城小学校で行われたドルトン・プランなどの実際が紹介されている。ドルトン・プランについては、同じく講談社現代新書の『教育の力』など苫野一徳氏の著作でも紹介されているが、実際どのように運用されてどのような問題点があったのかというまとめはとてもわかりやすかった。こうした過去の先行例を見ておくのも、無駄ではあるまい。
 現実問題としていま私が最も気になっているのが、第一章で指摘されている「ゆとり教育」から「ふとり教育」へ移行した結果、授業時間の確保をどうするかという点である。地理歴史科の新科目「世界史探求」は、現行の「世界史B」の4単位から標準3単位となった。「歴史総合」では、日本史関係も世界史関係も両方扱うが、これは2単位である。ディスカッションやグループワーク、探求活動などを行うことを想定すると、教科書の内容は精選されるだろうが、2単位での運用は破綻するような気がしてならない。現在多くの学校では、世界史AとBの時間を合わせて、Bの内容を完結させている例が多いと思うが、カリキュラム・マネジメントの名の下に運用は現場に丸投げされ、「戦時下の国民精神総動員のスローガン「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」を思い出す」(64㌻)という状況を危惧している。
 今を去ること10年以上前、新潟で行われた日本西洋史学会で故鳥越泰彦先生は、「考えさせる」という独特な使役形に対する違和感を表明しておられた。このことは、『新しい世界史教育へ』に収録されている「高校世界史教育からの発信」でも述べられているが、主体的であることを強制するというのは確かに奇妙なことである。本書で引用されている調査結果によれば、学校段階があがるにつれてアクティブラーニングに対する意欲は低下するという(20㌻)。先日、大学に進学した教え子が尋ねてきた折りに、大学での活動を色々尋ねてみた。『地域から考える世界史』の中で、私が紹介している女性である。彼女の話を総合すれば、有名大学であってもそうした傾向は見られるようだ。



アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者: 小針 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書



新しい世界史教育へ

新しい世界史教育へ

  • 作者: 鳥越 泰彦
  • 出版社/メーカー: 飯田共同印刷
  • 発売日: 2015/03/26
  • メディア: 単行本



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パワポで世界史の授業 [授業研究・分析]

 マイクロソフト社のプレゼンテーションソフト、「パワーポイント」(以下パワポ)を使い始めたのは、10年ちょっと前のこと。島根県立松江教育センターでの「授業力向上セミナー」(2007年)とか、九州高等学校歴史教育研究協議会大分大会(2009年)の時にはパワポを使ったプレゼンを行ってきたが、授業で使ったことは全くなかった。NHKの「わくわく授業」収録の時には、「テレビに映るんだから、カッコいい授業をしたい」と思ってパワポ使おうとしたら、NHKのディレクターさんからストップがかかった。現在はどうなっているか知らないが、10年くらい前はパワポ使う場面が番組に映り込むとマイクロソフト社からクレームがきていたらしい。

 今年の九州高等学校歴史教育研究協議会(長崎大会)の全体会で、開催県である長崎県からは、パネルディスカッションの報告が行われた。「歴史教育におけるICT活用について」というテーマのパネルディスカッションである。ディスカッションの前に事前のアンケートもとられているが、集計結果を見る限り「ICT活用の効果は認める」が、「機器の整備や活用スキルの問題から、なかなか使えていない」「あくまで手段であり、本質ではない」という考えが見えてくる。後者の意見に関して言うと、ICTというよりもパソコン関係一般についても言えることかもしれない。柳原伸洋先生は「インターネットと世界史教育は相性がよくない」「多くの教育者は、インターネットを敵視しているきらいがある」と指摘しているが(「インターネット時代と世界史」、勉誠出版『地域から考える世界史』に収録)、さきほどの「ICT機器の活用はあくまで手段であり、本質ではない」という考えに通じるような気がする。

 私自身について言えば、パワポは使ってないが、機器の活用には熱心な部類だと思う。3年生の授業は、プロジェクターが使える教室が空いているときはそちらの教室を使うようにしている。
ブログの過去記事から
「ICTを使った世界史の授業」http://zep.blog.so-net.ne.jp/2014-07-25
「新聞記事を使ったアクティブラーニング:現代社会
http://zep.blog.so-net.ne.jp/2015-07-28

 ICT機器を使った授業を、生徒はどう感じているのだろうか。私が熊本北高校で担任していた3年1組の学級日誌に、男子生徒が以下のような文を書いていた(原文のまま)

平成27年7月31日 雨   今日の世界史は電子黒板を使った授業でした。昨日から楽しみにしていて、その期待を裏切らない性能でただ驚くばかりでした。今日、一部マスコミで騒がれている、教育のデジタル化。ある知識人は「百害あって一利なし」と言っておられました。私は今回の授業のように、先生方のみ使用するのであれば導入してもよいと思います。なぜなら生徒ひとりずつに配ると、必ず機械を無駄に触る者が出てくるからです。パソコン室での授業がよい例でしょう。先生方のみが使用するのであれば上のようなことは起こらないと思います。

 これは夏休みの課外授業の際、浜島書店の『デジタルアカデミア』を使ってみたときの生徒の感想であるが、生徒一般の意見として、地図の拡大縮小や移動方向の図示、美術作品の解説はとてもわかりやすいとのこと。

 現在使っているのは浜島書店の『デジタルアカデミア』だけであり、あくまで「理解を助ける」という目的である。授業そのものをICTで行っているわけではない。授業は穴埋めプリントと板書で行っている。しかし最近は、社会系の授業でパワポを使っている先生も多いようだ。「パワポ世界史」で検索してみると、様々なコンテンツがヒットする。

 私自身は、これまで授業でパワポを使ったことはない。できればやってみたいとは思っているのだが、「スライド作るのが億劫」という実に後ろ向きの理由が、使っていない理由である。一枚のスライドにはいる文字数には限りがある。一時間の授業で必要なスライドの枚数は、いったいどれくらいになるのか。もし挫折して年度途中から板書に逆戻りになったらカッコ悪いし....など様々な不安が頭をよぎる。

 そして今年購入したのが、実教出版の「教育支援デジタルコンテンツ 世界史共通」である。正直、「今の若い先生たちは楽チンでいいね」と皮肉の一つも言いたくなるほどの収録内容であった。これまでも、一問一答や定期考査問題例、白地図ワーク、教科書本文などは各社の教師用ROMに収録されていたが、パワーポイント用スライドを収録した商品は、初めて目にした。「黒板用(背景が文字は白、重要事項の文字は黄色)」と「ノーマル版」の内容が同じスライドが2種類、スライドに対応した穴埋めプリント&解答も収録されている。その他、「各国史プリント」「テーマ史プリント」(いずれも問題形式)など課外授業でも使えるだろう。いずれもWord形式のファイルなので、自分用にカスタマイズできる。スライド中の「Link」をクリックすると画像データに飛び、さらに重要部分は拡大される。例えば「大航海時代」だと、Linkでコロンブスの航路データに飛び、さらに航路部分が拡大されるという流れ。実教さん、勝負に出たな!という感じだが、横綱山川も来年3月にパワポ教材を発売するとのこと。

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メニューはこんな感じ


 先日、「パワーポイントのスライドを使った授業が恐ろしくつまらない理由」という記事[http://blog.share-wis.com/?p=457]を目にしたが、「つまらない理由」は「追体験を発揮しづらい」という指摘だった。この指摘に関して言うと、世界史の場合は空欄とアニメーションを使って十分クリアできるのではないかと思う。3年生から中国史の解説をして欲しいという要望があるので、そこで実教世界史のパワポをテスト使用してみようかと考えている。

 現時点では、浜島の『デジタルアカデミア』が世界史関係ではベストだと思っているが、先日、ある会社から「『デジタルアカデミア』のような資料集ソフトに動画や音声を入れた商品に魅力を感じるか」と尋ねられた。大いに感じる。
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「主体的、対話的で深い学び」をもう一度 [授業研究・分析]

 10年前、新潟で鳥越泰彦先生と私が話したことは、世界史の授業におけるディスカッションについてだった。「クラス全体だとなかなか発言できない生徒でも、小グループだと発言しやすい」「グループの意見をクラス全体に発表するときも、自分だけの意見じゃないので、責任感が薄まり抵抗感が小さい」という小グループによるディスカッションのメリットから、「根拠がない思いつきの意見を排除するにはどうすればいいか」「話し合いに適しているのはどんなテーマか」といった点だった(グループ学習の意義については、鳥越先生の『新しい世界史学習へ』67~68㌻で述べられている)。

 このときの西洋史学会で、私は「生徒の自発的思考を促す世界史学習の試み」というテーマで発表した。発表の元になったのが、NHKの教育テレビで2006年の7月に放送された「わくわく授業」の内容である。折も折、放送から間もない2006年の10月、全国の高校で世界史の未履修が発覚して社会問題となった。これを契機に日本西洋史学会でも高校における世界史の授業に関心が向けられ、翌年2007年の大会では「歴史教育への現代的アプローチ -歴史学者、社会科教育学者、実践家の立場から-」というシンポジウムが設定され、私に声がかかったのであった。

 ・西洋史学会第57回大会のプログラム http://www.seiyoushigakkai.org/2007/annai.pdf
 ・私の発表レジュメ
    http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/seiyousigakkai.pdf
 ・鳥越泰彦「世界史未履修問題を考える」(日本学術協力財団『学術の動向』2008年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/13/10/13_10_8/_pdf
 ・鶴島博和他「世界史教育の現状と課題(Ⅰ)」(『熊本大学教育学部紀要』62、2013)
  http://reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/29209/1/KKK062_029-056.pdf

 NHKのディレクターさんから「講義形式ではない歴史の授業を提示したい」というお話をいただき、ディレクターさんと話し合いながら授業をつくっていったのだが、ここ数年来この時の授業に関する問い合わせを時々頂き、授業見学などもいただいている。「アクティブ・ラーニング祭」のおかげだ。当時はアクティブ・ラーニングなんて言葉はなかった。あったのかもしれないが、耳にした記憶はない。「対話的・主体的な深い学び」「アクティブ・ラーニング型授業」が脚光を浴びたおかげで、10年も前の私の授業が注目されたというわけだ。NHKでは「わくわく授業」の番組自体が終了しており、NHKのサイトは閉鎖されているが、現在ベネッセのサイトで紹介されている。有り難いような恥ずかしいような不思議な気分だ。なぜ恥ずかしいのかというと、現在このような「考えさせる」授業は、ほとんどやっていないから。それでも当時のディレクターさんの文章を改めて読ませていただいて、とても懐かしい気分である(ビデオ見直す勇気はないから笑)。

・ベネッセのサイト: http://benesse.jp/kosodate/201608/20160816-2.html
  ・番組を視聴された方(栃木県の高校日本史の先生)による分析と評価
    http://www2.ttcn.ne.jp/kazumatsu/sub5.htm#9e
  ・私自身による授業解説「こんな授業をやってみた」
    南塚信吾『世界史なんていらない?』(岩波ブックレット)に収録
  ・「モンゴル帝国の発展」の授業プラン
  「ネットワーク論にもとづく高等学校世界史の授業 :
     小単元「モンゴル民族の発展」の場合」
    http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/standard.pdf
    全国社会科教育学会「社会科教育論叢」第45号に掲載
    全国社会科教育学会編『中学校・高校の“優れた社会科授業”の条件』
     (明治図書)に加筆して再録


 昨年度(今年の2月)、学年末考査も終わったことから、2年生の世界史Aでやったのが、「第二次世界大戦に至る道」という授業である[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2016-12-30]。

平成29年2月23日・熊本県立熊本北高校2年2組・世界史A)
 ・問い「第一次世界大戦後、国際協調の時代を迎えたにもかかわらず、第二次世界大戦に至った原因は何だろうか」
 ・テーマ「自分の言葉で歴史を語ろう」
  (「わくわく授業」のキャッチコピー「「歴史の謎に自力で迫れ」」のパクリである)
(1)生徒の理解の深化状況
①生徒の記述より
・【原因】として「世界恐慌」という言葉をあげた生徒は多かった(41名中24名)。
  (「世界恐慌→ファシズムの台頭→侵略戦争」という流れ)
例)(第二次世界大戦が起こった理由は)「世界恐慌」である。
   (なぜなら)「世界恐慌対策のために各国が自国のことを考えたブロック経済などを行った結果、日本やドイツ、イタリアの国が兵力を使って無理に領土を拡大しようとしたから」である
 ・概念化できていた生徒の例
  (第二次世界大戦が起こった理由は)「国際協調を無視し、自国の利益を優先した行動を起こすことで、国どうしの調和がとれなくなるから」である。
  (なぜなら)「ヴェルサイユ・ワシントン体制での二つの条件である、世界経済が好調で規模も拡大していること、平和維持の価値が広く認められていることの1つ目が世界恐慌で失われ、ドイツがナチズムをとるとともにヴェルサイユ体制の打破をとなえ、国際連盟から脱退するなど協調を保つことが難しくなったから」である。
 ※この生徒(日本史選択)は「国際協調の精神はなぜ失われたのか」という点に注目したと言っていた。
②教師の見取り
・資料として年表を使ったため、事件や出来事には目が向いたが、上位の概念化は難しかった。

(2)反省と改善
 ①全般:「戦争を未然に防ぐには、どうすればよいだろう?」という問いに進む時間はまったくなかった。
 ② 資料の提示
  ・反省:年表の活用について、提示の仕方や具体的な指示について工夫が必要。
    配付資料の右側に目がいかない生徒がいた。年表で「帰還不能点」を探すことと、戦争が起こってしまった理由を考察することが結びつかない生徒もいた。
  ・改善:教科書や資料集のみを使い、教師がつくる資料は特に提示しない。
③文章の基本構成:例の提示について・・・・構成を変える
・改善:今回は「論点→意見→論拠」としたが、「年表を見て考える」というプロセスなので、「論拠→意見」という構成に変更する。
  (参考:山田ズーニー『伝わる・揺さぶる!文章を書く』PHP新書)
② 文章化の具体的なプロセス
・反省:「自分の意見」を書くのか「班の意見」を書くのか指示が不明確であった。
・改善:「最初に個人で文章化→次にグループで他者と意見交換→再度個人で文章完成」、というプロセスの方がよいのでは?

「対話的」な学びを、「深い」学びに引き上げるのは、本当に難しい。






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鳥越泰彦『新しい世界史教育へ』(飯田共同印刷株式会社) [授業研究・分析]

 私が鳥越泰彦先生と直接お会いして言葉をかわしたのは一度だけ、今からちょうど10年前のことである。2007年に新潟で開催された第57回日本西洋史学会で、私の発表に対して好意的なコメントをしていただき(このときのビデオが残っている)、シンポジウム後に少しお話をさせてもらった[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2007-06-18]。当時私は鳥越先生のことをよく存じておらず、後日凄い先生だということを知り、ずいぶんと慌てたものだ。その後、何度かメールを交わして教えをいただいたのも、大変貴重な体験だった。

 本書は2014年に急逝した鳥越先生の歴史教育論をまとめた論集である。小川幸司先生による「あとがき」を読むと、編集の苦労が偲ばれる。
  第Ⅰ部 歴史教育論
  第Ⅱ部 授業実践
  第Ⅲ部 未来への構想
  第Ⅳ部 回想記


 以下、特に印象に残った項目について、私の備忘録的メモ。
 まず第Ⅰ部・第1章「高校世界史教育からの発信」。最近、女優の水原希子が出演しているサントリーのCMに対して、ツイッター上で差別的なツィートが寄せられるという出来事があった。鳥越先生の日高先生の実践に対するコメント「○○人というレッテルで人を区分することの限界」を目にして、この水原問題という今日的な問題が、歴史学習の切り口としても十分通用するのでは?と感じた。
 「改めて歴史的思考力を考える」ことは、われわれにとっては何のために授業をするのかということにつながる。「理解させる」「考えさせる」という独特な使役形に対する違和感。鳥越先生と同じ意見を持つ必要はないが、われわれ一人一人が自分にとっての歴史的思考力とは何かを考え、授業作りのベースにしていくことは大切な作業だと思う。
 小川幸司先生の『世界史との対話』について。鳥越先生は「世界史の知の三層構造(第一が事件・事実、第二が事件・事実を相互に結ぶ解釈、第三が「歴史批評」)」を評価しつつ、小川先生の歴史批評のみが提示され、生徒(読者)の歴史批評を提示する余地がないことを指摘している。今年の5月、第67回日本西洋史学会(一橋大学)で小川先生が講演なさったときのレジュメを入手し、拝読したが小川先生はその時の発表で「問い」にこだわっているような印象を受けた。 「世界史リテラシーの観点100」は、「過去への問いかけ」から始まり、 教科書案では「歴史を見つめる問い」が設定されている。複数資料の読み取りにもとづく考察も示されている。これらは、鳥越先生のコメントに対する小川先生からの回答ではないかと感じている。
 第Ⅰ章・「世界史教育の何が問題なのか?」(初出:青山学院大学教育学会紀要「教育研究」第49号2005)講義形式、プリント穴埋め形式依存への批判と、グループ学習の可能性が指摘されている。私が西洋史学会の折、鳥越先生から頂いたグループ学習に対するコメントを思い出す。
第Ⅲ部 新しい歴史教科書のモデルプラン。思考力育成型のテキスト。19世紀後半のアメリカ史「アメリカ合衆国の奴隷制と南北戦争」。
 鳥越先生の授業実践については、第Ⅱ部だけでなく、第Ⅳ部における同僚の先生と教え子の方による回想もあわせると、より雰囲気が感じられる。

 新しい歴史教科書プランや、歴史用語精選の試みなど鳥越先生が端緒をつけた取り組みは、現在多くの先生方によって受け継がれている。まだアクティブ・ラーニングという用語が一般化していなかった時期に、その先駆的な実践を行ったのも鳥越先生であった。日常的な私の授業は、鳥越先生が批判している「講義&プリント穴埋め」形式で、「知識を教え込む授業」(土井浩『「テーマ」で学ぶ世界史』文芸社、10~11㌻)である。しかし、本書のような「世界史の授業とはどうあるべきかを考える本」を読むことで、自分の授業に対する姿勢が変わったと感じている。学会誌をはじめとする授業の内容に特化した実践記録を読むことと同じか、それ以上にこうした授業論を語る本を読むことは大切ではないだろうか。鳥越先生のご冥福を心からお祈りする。


「私はすべてを語るべきではなく、人々が自らに問いかけるべきなのだと思ったのです」(クロード・ランズマン、『現代思想』1995年7月号・特集『ショアー』)。「歴史との対話」は、過去へ主体的に問いかける(疑問をもつ)ことからスタートするのだろう。
 
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教育改革推進フォーラムin熊本 [授業研究・分析]

 熊本大学で開催された、産業能率大学主催の「教育改革推進フォーラムin熊本」に参加してきた。Session1(基調講演)・2(地理の授業体験)・3(日本史の授業体験)・4(苫野一徳先生の講演)という4部構成で、それぞれに興味深い内容であった。
 最も印象に残っているのは日本史の授業体験。私が日本史を担当したのは、2校目の松島商業高校に勤務した時で、3年ほど。ほとんど忘れてしまっていたが、今日の授業体験で学んだ、平城天皇と嵯峨天皇、薬子の変などの内容は家に帰ってからもしっかり覚えていた。自ら能動的に取り組んだ成果だろう。

 今日のフォーラムに参加して、というよりも参加する前からモヤモヤした気分だったのは、朝から熊本日々新聞の記事を読んできたから。
 「普段は4時に起きて、遅くとも5時には家を出るように心がけています。仕事がたまってくると、朝2時に起きて、3時に家を出ることもあります。これが、今の私の働き方です。[https://pbs.twimg.com/media/DIMJwpxV4AA3dZS.jpg:large]」
 こうした立場の先生に「授業改革を進めましょう」とか、気の毒で言えない。講師の苫野先生がふと漏らした「こうした熱気あふれる場にいると、これが普通のように感じてしまいますが、実際はマイノリティです」という言葉は当たっていると思う。ツイッター上の発言を読むと多くの教師が部活反対派のように思えるし、今日のようなフォーラムに参加すると、全国の多くの教師がAL型授業に取り組んでいるように感じるが、おそらくそうではないだろう。。

 興味深いのは、部活問題にせよAL型授業にせよ、対立が目につく点だ。苫野先生が曰く「教育の分野では、趣味や信念、信条にもとづいて対立が生じるが、それを解決しようとするのが教育哲学」。対立を無くすためには「自由の相互承認」が条件であり、それが前提条件であり共通の土俵なのだろうが、承認には幅があるのは事実で、中には承認すら拒否するというお話にならない教員も目につく。実際、基調講演で「旧来型授業」と指摘された点が、ウチの学校には全部残っている。変化を嫌う学校現場と教師のホメオスタシスをどう変えていけばいいのだろう。

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看図アプローチ [授業研究・分析]

 先日(8月23日)の校内研修は、本校職員の溝上先生が講師。溝上先生は「アクティブラーニング型授業研究会くまもと」[http://souken.shingakunet.com/career_g/2017/02/2017_cg416_13.pdf]の代表をつとめる全国的に有名な先生で、今年の4月から本校に赴任され、同僚として勤務させてもらっている。私も6月に同会の勉強会に参加させてもらい様々な知見を得たので、今回も楽しみにしていた。

 今回の研修テーマは「看図アプローチ」という手法であったが、結論から言うと、期待を大きく上回る内容だった。看図アプローチとは「絵図・写真・グラフ等のビジュアルテキストを読み解き、読み解いた内容を発信していくプロセスを含んだ授業づくりの方法」である[https://goo.gl/3CGRHv]。科目の特性として、世界史ではビジュアルテキストを使うことが多いため、十分使える。

 6月に受けた研修[]では、なんとなく「ハタと腑に落ちる感じ」を得られなかったため、なんとなくモヤモヤした感じがあったが、今回は「なるほど」という感じだった。「モヤモヤした感じ」の理由は、世界史の場合、問題演習を学びあいでやろうとしても、「深い学び」にはなりにくいのではないかという疑問を持ったことによる。世界史の場合はいわゆる「用語」が中心のため、一問一答という形になりがちで、「深い学び」にしようとすると、テーマが高度になりがちである。そこで、統計資料を用いた入試問題にグループで取り組むということをやってみたが、ネタはなかなか続かない。しかし、看図アプローチだと、生徒は全員資料集を持っているため、ネタには事欠かない。

 おそらく、多くの地歴科教師はビジュアルテキストの読み取りはこれまで何度も行ってきたと思われる。私が始めてビジュアルテキストの読み取りを意識したのは、二校目に勤務した熊本県立松島商業高校で日本史を担当することになり、『絵画史料を読む日本史の授業』(国土社)という本を手にとったのが初めてだった(この本で用いられている「イメージ・リーディング」という言葉の意味は、「看図アプローチ」に近いと思う)。熊本県の公立高校入試でも、アヘン戦争におけるネメシス号の絵の読み取りが出題されたこともあるし、世界史のセンター試験では風刺画が使われることも珍しくない。私もこれまで「蒙古襲来絵詞」の読み解き(NHK-Eテレ「わくわく授業」で紹介)や、ベラスケスの「ラス・メニーナス」を読み解く授業などを行ってきた。
 しかしこれまでは、私自身の解釈に向かって生徒を誘導して行こうという意識が強すぎて、生徒の自由な解釈を生かすことができなかった。生徒の看取りと自由な解釈→共有→意見交換→修正と深化....というプロセスにすれば、学びの相互作用が生まれるのではないだろうか。

 美術館の展覧会に行くと、人出は多い。「歴史の授業は好きじゃないけど、絵を見るのは好き」という人はけっこう多いと思われる。その意味でも、看図アプローチの活用の可能性は高いと感じている。

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『社会科教育』2017年7月号(No.699) [授業研究・分析]

 高大歴史教育研究会からのお知らせメールでも紹介されていた今月号の特集は、「歴史的な見方・考え方」を鍛える!課題追究学習」。以前この雑誌は小中学校の先生方がおもな購買層だったが、最近は高校の先生もけっこう読んでいるようだ。

(1)原田智仁「もう一つの歴史的な見方・考え方としてのエンパシー」
 「歴史的な見方・考え方」のうち、「学びに向かう力・人間性等」を育成するための視点の一つがエンパシーである。エンパシーとは「昔の人はなぜ奇妙な行動をとるのか、その時代のルールや価値観を明らかにすること」である。
(2) 皆川雅樹「量的な情報を質的にKP法で整理し、思考を加えて質も量も伴う文章に」
 KP法を用いて、高度経済成長の「ひずみ」について考える。
(3)竹田和夫「国際比較が可能な史資料を活用し、生徒の提案を受け入れた授業」
シノワズリとジャポニスム、古代の武人政権、倭冦、水利図、新聞報道の比較。


(1)メンタルな部分を歴史の授業で扱うには難しいが、エンパシーという視点はなかなか興味深い。エンパシーにもとづく歴史授業として、どのような題材が考えられるだろうか?
(2)KP法について具体的なイメージが今ひとつわかない。使用したという文献の抜粋を見てみたい。筆者の皆川先生は8月に熊本大学でのワークショップで公開授業をなさるということで、申し込んだ。
(3)倭寇を題材にした地理と歴史の連携授業(大航海時代を扱った別の記事も今号にあり)がおもしろい。それから新聞の比較。先日、日中戦争~太平洋戦争期の新聞を使って授業をしたので。


(1)の冒頭、「問題の再設定」を読んで、今一度自分の授業を振り返ってみたい。「指導案なんて意味がない、日頃の授業が全てだ」とか言える人、ホント凄いと思う。



社会科教育 2017年 07月号

社会科教育 2017年 07月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2017/06/12
  • メディア: 雑誌



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アクティブラーニング入門講座 in 熊本 [授業研究・分析]

昨日(2017年6月10日)、アクティブラーニングの指導で有名な小林昭文先生によるワークショップ「アクティブラーニング入門講座 in 熊本」が開催されると聞き、参加してきた。場所は熊本学園大学付属高等学校で、「アクティブラーニング型授業研究会くまもと」の主催(同研究会の代表である溝上先生は、この春から熊本北高校勤務である)。定員は90名だったが、ほぼ満員だったと思われる。県立高校の管理職の先生や、県立教育センターの先生も参加しておられた。学園大学付属高校が会場ということもあり、同校や付属中学校の先生方も多数参加しておられ、関心の高さをうかがえた。

 大変興味深いワークショップであったが、特に印象に残ったトピックを紹介しておく。小林先生が紹介していた、「卒業後も続いた主体的・協働的な学びのエピソード」は、『社会科教育』2016年10月号にも掲載されていたものである。その時の『社会科教育』は評価の特集だったが、AL型授業でも小林先生は「評価は定期考査のみ」であると述べておられる。そこで昨日私は、「話し合いにまったく参加しないにもかかわらず、定期考査は抜群によいという生徒は、そのままにしておいてもよいのか?」という質問をしてみた。
 小林先生によれば、AL型授業が増えてきた結果、グループワークが苦手な生徒が不登校になるという例もあるらしい。小林先生はこうした生徒への対応策として、一人で勉強したい生徒のためのボッチ席用の机と椅子も準備していたという。ボッチ席を選んだ生徒には、授業終了後に呼んでひとしきり雑談をしたあと、「私と話すことができますか?」と問う。ほとんどの生徒はイエス。そこで学びあいの意義を語り、毎回じゃなくてもいいから、時々はグループワークに参加してみようかと促す、ということだった。実際、その日のコンディションによってグループを抜けるという選択肢もありということだった。こうした教師の言動はすぐに広がるので、一人に対する配慮は集団全体の安心感につながるという。授業において「対話的」という場合、「先人の考え方(書物等)で考えを広げる」場合もあるが、対話の相手は授業中同じ空間にいる人物であることが多い。「主体的・対話的で深い学び」という場合、グループワークによる学びあいで知識の幅を広げるというのが理想とされているように感じるが、グループワークが苦手だという子もいるかもしれない。

 昨日のワークショップでは、参加者が生徒と観察者にわかれて小林先生の授業を体験するという時間があった。私は生徒役として授業を体験したのだが、「場を見るトレーニング」で観察者を選んだ先生方は、「アクティブラーニング上級者」が多かったような気がする。小林先生が比較的厳しいコメントを出していたのもそのせいか。ふと思ったのは、地歴公民におけるAL型授業では「主体的・対話的で深い学び」の「深い」にこだわる先生が多いのではないかということ。小林先生の授業は、先生の説明を聞いた後、練習問題をグループによる話しあいによって解いていこうというもので、解答は先渡しされており、チラ見もOK。以前紹介した『すぐ実践できる!アクティブ・ラーニング 高校地歴公民』(学陽書房)で紹介されている内容に近い。
 しかし、地歴公民で理想とされるAL型授業は、「穴埋め問題」や「一問一答」レベルでは満足できないようだ。ベネッセ発行の『VIEW21』2017年2月号(http://berd.benesse.jp/magazine/kou/booklet/?id=5040)で紹介されている世界史のアクティブラーニングでは「国家が衰退するとは、どういうことか?」「どうして戦争は起こるのか?」といった「正解がない問い」が想定されており、また河合塾発行の『Guideline』2017年4・5月号で紹介されている世界史の授業(http://www.keinet.ne.jp/gl/17/0405/kawaru.pdf)では、「なぜ小さな宗教集団は巨大な帝国を築くことができたのか」という問いが単元(イスラーム世界の形成)をつらぬくテーマ(メインクエスチョン)に設定されている。

 こうした記事を読んで、アクティラーニング型の授業を尻込みしてしまう先生方も少なくないのではないか....と感じている。前述のような課題を生徒たちが学びあいによって解決していくことができれば理想的だが、昨日のワークショップで話が出ていた「授業開始後ゼロ秒で机上に突っ伏してしまう生徒が続出」という学校ではそうもいかないだろう。こうした学校こそ、練習問題をグループワークでやってみるのがいいのではないか。定期考査ではこの問題から4割出題とかすれば、生徒もやる気になるのでは?

 先週、神戸大学附属中等教育学校の先生が私の授業を見学に来られた。ベネッセの進研模試担当の方も同行していたので、少しは気の利いた授業をしないといけない....ということでやってみたのは、東京書籍の世界史教科書の英訳版『英語で読む高校世界史』(講談社)を使った授業。「イタリアのファシズム」の項目を英訳版で読んでみて、私がつくった設問に答えるというもの。英文の読み取りと解答はグループワーク。つくった問題は、日本語訳が2題と、「the annexation of the Papal States in 1870」が起こったのは当時どのような国際状況が影響していたか、ファシスト党は、大衆(mass public)の支持を得るため、どのような政策を実行したか、といったもの。事前に理系クラスで実施したところあまり読めなかったので、急遽註釈を増やした。英語科と普通科の合同クラスでの授業だったが、まぁうまくいったのではないかと思う。翌日(9日)、別のクラスでやったときは、サッカー好きの生徒がいたので、第2回サッカーW杯の話で盛り上がった。

 神戸大学附属中等教育学校では文科省の委託を受けて昨年度までの3年間、「歴史基礎」と「地理基礎」の研究開発を行ってきたが、さらに3年間延長され、今年度から「歴史総合」「地理総合」という科目名で実施するとのこと。いただいた「参考資料」の冊子は、開発したワークシートがすべて収録されているというスグレモノで、ここまで公開していいの?という気持ちになるほど。ベネッセの進研模試担当の方を交えての懇談は、色々と興味深い話を伺うことができた。

 東京書籍の教科書で触れてある「ファシスト党に有利な選挙法」「余暇を楽しむ組織」」はそれぞれ「プレミアム選挙法」「ドーポラヴォーロ」のことだと思われる。プレミアム選挙法とは1923年に制定された選挙法で、全投票の25%をこえる最高得票の党に全議席の三分の二を与えるという選挙法であるが、翌24年4月にファシスト党が獲得した議席数について、河出書房新社『世界の歴史23・第二次世界大戦』では「これまで36議席しかなかったファシスト党が、一躍375議席に躍進」とある一方、講談社『世界の歴史18・帝国主義の時代』では「国家ファシスタ党は275の議席を得た」とあり、正確な数は不明。

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歴史系授業におけるICTの活用 [授業研究・分析]

 歴史系の授業でICTを活用する場合、これまでは地図や写真などをプロジェクターで投影するといったことが中心であった。東京書籍が発行している世界史Aのデジタル教科書や、浜島書店が制作している『アカデミア』のデジタル版などはその例である。東書のデジタル教科書には音声や動画も収録されており、とてもよくできたマルチメディアの教材となっている。こうした「理解をより深めるための資料の提示」という使い方に加え、最近では教育工学的なアプローチも進んできている。以下の内容は、池尻良平先生(東京大学大学院情報学環 特任助教)からうかがった話がモトネタで、私見を加えたものである。

1.デジタルアーカイブの活用
 近年では様々な資料がデジタル化され、それらを集めたデジタルアーカイブ(電子図書館)が構築されている。公的機関や準公的機関によるデジタルアーカイブに収蔵されている資料を、授業に活用していくという方法がある。私が最も「これは使えそうだ」と思った視点は、複数の資料を用いて、異なる場所や時間において事象の変化や事象間の類似点・相違点を認識させるという使い方である。池尻先生が「使えるデジタルアーカイブ」として紹介されたのは以下の3つ。なお以下の説明は、Wikipedia日本語版より引用したものである。

(1)ワールド・デジタル・ライブラリー(World Digital Library、WDL)
https://www.wdl.org/en/
 UNESCOとアメリカ合衆国のアメリカ議会図書館が運営する国際的な電子図書館。インターネット上の文化的コンテンツの充実を図り、それによって国際的な異文化間の相互理解を深めることを目的として創設された。教育者・学生・一般大衆にリソースを提供し、国家間および各国内の情報格差を狭めるために提携機関にそれらリソースを配置する容量を築いている。また、インターネット上の非英語圏や西洋以外のコンテンツの拡充によって、学問的研究に寄与することを目指している。無料で多言語形式のコンテンツをインターネット上で入手できるようにすることを意図しており、世界各地の文化から貴重な一次資料(手稿、地図、稀書、楽譜、録音、録画、写真、図面など)を集めている。池尻先生によれば、広く浅い検索しかできないのが難点だとのこと。

(2)ヨーロピアナ (Europeana) 
 http://www.europeana.eu/portal/en
 ヨーロピアナ (Europeana) は、絵画、書籍、映画、写真、地図、文献などのデジタル化された文化遺産を統合的に検索することができる電子図書館ポータルサイトである。欧州連合の欧州委員会が公開しており、欧州連合加盟国(一部非加盟国含む)のデジタルアーカイブ群のアグリゲータを指向している。

(3) アメリカ議会図書館
https://www.loc.gov/
アメリカ議会図書館 (Library of Congress)は、アメリカ合衆国の国立図書館。蔵書数、予算額、職員数全ての点で世界最大規模の図書館である。略称はLC。日本の国立国会図書館は、戦後占領時代の1948年に、アメリカ文化使節団の勧告により、このアメリカ議会図書館をモデルとして造られた。20世紀末から21世紀初頭にかけては1987年就任のビリントン館長のもと、急速に発達したインターネット技術を背景とする電子図書館事業を推進している。

 この3つのサイトを使ってみたが、言語の壁は大きかった。「何か面白そうなものはないかな」という感じでアクセスしても、使える資料に当たる確率は極めて低いと思われる。扱うテーマを明確に決定した後ならば、使える資料に遭遇する確率はずっと高くなるのではないだろうか。しかし、英語がかなり得意でない限り、使える資料なのにスルーしてしまう可能性は高い。したがって、生徒に「こんなサイトがあるよ」と紹介するだけでは、使いこなすことはできないと思われる。

 3つの電子図書館のうち、いちばん使えるのはアメリカ議会図書館だった。池尻先生から、このサイトのトップページには「teachers」というカテゴリーがありけっこう使えるという話を聞いていたのでアクセスしてみた。試しに「Classroom Materials」の中にある「World War I: What Are We Fighting For Over There?(第一次世界大戦:われわれは何のために外国で戦っているのか?)」というコンテンツで「Teachers」をクリックすると、「Overview(概要)」「Preparation(準備)」「Procedure(手順)」「Evaluation(評価)」といった説明があり、授業の進め方が説明されている。一方「Students」には、「Preparation」に「Student Resources」が列挙されてあり、写真やポスター、史料、新聞などへのリンクがある。また「Procedure」にはLesson one からthreeまでやるべき内容が示されている。この通りにやれば、すぐに授業が可能であるという印象を受けるが、当然ながらアメリカ史に偏っているため、日本の高校で使おうとしてもかなり苦しい。ただ、問いの設定や手順、史料の提示等の手法面についてはかなり参考になるという印象を受けた。アメリカ議会図書館に紹介されている授業の進め方を参考に、日本の高校の授業で使えるような資料をみつけて構成するのが、もっとも現実的であるように思われる。


2.授業における端末の使用
 当時私が熊本北高校で担任していた3年1組の学級日誌に、男子生徒が以下のような文を書いていた(原文のまま)
平成27年7月31日 雨   今日の世界史は電子黒板を使った授業でした。昨日から楽しみにしていて、その期待を裏切らない性能でただ驚くばかりでした。  今日、一部マスコミで騒がれている、教育のデジタル化。ある知識人は「百害あって一利なし」と言っておられました。私は今回の授業のように、先生方のみ使用するのであれば導入してもよいと思います。なぜなら生徒ひとりずつに配ると、必ず機械を無駄に触る者が出てくるからです。パソコン室での授業がよい例でしょう。先生方のみが使用するのであれば上のようなことは起こらないと思います。

 これは一昨年夏休みの課外授業の際、浜島書店の『デジタルアカデミア』を使ってみたときの生徒の感想であるが、「生徒ひとりずつに配ると、必ず機械を無駄に触る者が出てくる」という指摘には、なるほどと思ったものである。ひとりに1台ずつではなく、グループに1台ならば遊ぶ生徒も出てこないのではとも思ったが、ではグループに1台持たせてどう使うかと考えたとき、せいぜいネットでの資料検索程度しか思いつかず、あまりよいアイディアも浮かばなかった。

 一年前、『社会科研究』第84号で読んだのが、池尻先生と澄川靖信先生の共著「真正な社会参画を促す世界史の授業開発 -その日のニュースと関連した歴史を検索できるシステムを用いて-」という研究論文である。パソコン画面に現在関心があるニュースを入力し、表示されたカテゴリーから関係ありそうだと感じるものを選択すると、類似した因果関係をもつ歴史事象が表示される、というプログラムを使った授業である。カテゴリーは大きく4つ、細かく13が設定されている(政治・・・・統治・外交・戦争、経済・・・・生産・商業、文化・・・・学問・宗教・文芸思想・技術、社会・・・・民衆運動・共同体・格差・環境)。
表示された歴史事象のうち、現代社会の問題解決の参考になりそうな要素をもつ事象を1つ選び、現代社会の問題の分析や解決方法の考察を行うという活動を行うという授業内容だが、興味深かったのは次の2点。
(1)学習過程として、第1段階から第5段階までが設定されている。
 全5段階で100分が想定されているか、100分ですべて行うのは難しい。学習者のレベルにあわせてステップアップするという方針が現実的だろう。
(2)現在進行形の出来事と関連づけた歴史の授業が可能である。
 歴史の授業を現代的な諸問題と結びつけて行うという話はよく耳にするが、結果的に歴史よりも公民寄りになってしまうことが多い。このプログラムを使用すれば、歴史的因果関係を扱うことでこの問題は解消されると感じた。
 
 いくつか気になる点をあったので、質問してみた。「TPPのニュースから、外交・商業・格差を選択して検索すると、スパルタの政策・門戸開放宣言・武帝の攻撃と匈奴の衰退・イスラーム世界の繁栄・ブロック経済が提示される」という例があげられていたので、これでは世界史Aに使えないのではないか、また教科書を一通り終わってからしか使えないのではないかと感じたが、現在は対象とする時代が限定できるような機能が追加されたとのこと。また、入力した現在の問題と表示される過去の事象との結びつきの妥当性について伺ったところ、先生自身が手作業で行ったとのこと.....これはあまりに労力がかかりすぎると思う。

 少なくとも、(私が高校時代に受けていた)教師が一方的に話すだけの歴史の授業のイメージを一変させるシステムであることは間違いない。1年間で時々このような授業を取り入れてみるのも、授業にメリハリがつくのではないかと感じる。
 
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