共同通信社配信記事「論考2017」 [現代社会ネタ]
かつて教育システムは格差を逆転するために機能していたが、子どもの貧困が社会問題となっている現状では、逆に固定化ないしは助長するようなシステムとして機能しているように思われる。この記事で注目したいのは、先に自民党の小泉進次郎議員らが提案した「こども保険」構想を、「国民が互いに信頼し協力し合って暮らすために不可欠な『社会関係資本』への投資」として評価している点だ。おそらく、子どもがいない世帯あるいは子育てを終えた世帯は反対するだろう。しかし、反対する人々に「では、年金や医療費をはじめとするあなたがたの社会保障関係費は、いったい誰が負担するのですか?」と切り返す材料となるのがこの記事であった。高校生のディベートには、かなり適した内容だと思われる。
ディベートや小論文では、相手を納得させなければならないが、その際有効なのは、統計データを示すことだ。佐藤先生によれば、引用されているパットナムの本は膨大な統計資料をグラフ化して説明しているという。前著の『孤独なボウリング』も同様な内容だということで、キーワードは「社会関係資本」。日本でも、地域コミュニティの崩壊が指摘されて久しいが、このままだとアメリカと同じ道を後追いするのでは?と思わせる内容の記事だった。
新聞記事を使ったアクティブラーニング:現代社会 [現代社会ネタ]
使った新聞記事は、
①「産みたい⑧~治療卒業」(熊本日日新聞 2013.01.09)
②「国内初の代理母~実妹が体外受精で」( 〃 2001.05.20)
③「出自する権利守って」( 〃 2015.06.01)
②「凍結精子児 認知せず」( 〃 2006.09.05)
まず、「生殖医療は必要だと思うか」という問いかけには、8割以上が挙手しました。理由を尋ねたところ、「子どもが欲しいという気持ちは、人間の自然な気持ち」という答えでした(指名一名)。そこで①の記事を紹介。
資料集(『フォーラム現代社会』とうほう)を使い代理懐胎について説明し、②の記事を使って代理母について説明。「生まれた子の母親は、産んだ妹か、それとも卵子を提供した妻か」という問いかけには、「妹」「妻」ほぼ半分に意見が分かれました。こうした意見が分かれる現状とともに、③でAID(非配偶者間人工授精)で生まれた男性の苦悩を紹介し、生殖医療が抱える問題点を概観しました。
いちばんメインは、②の記事を使っての話し合いです。
概要は
・1999年に夫が病死した後、凍結保存精子で妊娠し、2001年に男児を出産した女性が、生まれた子供を嫡出子(結婚した男女の子)として出生届を提出→認められなかったため、認知を求めて提訴
・一審判決(2003年11月松山地裁)では、女性の請求を棄却→女性は控訴
・二審判決(2004年7月)では、夫の子として認知→検察は上告
・最高裁判決(2006年9月)では、夫の子として認めず、妻は逆転敗訴。
「認知すべきか」という問いかけには9割の生徒が挙手したので、「認知のためにはどのような条件が必要だろうか」というディスカッションをしてもらいました。
出た意見は、以下の通り。
(1)認めるメリット
子どもの法的地位(遺産相続や戸籍など)
(2)条件
・生前の夫の意志
・子どもにその事実を知らせること
・DNA鑑定による証明
・夫の死後、5年以内の出産
浜島書店の『デジタルアカデミア』は現代社会でも使える [現代社会ネタ]
ウチで使用してる現社の教科書は実教出版で、環境問題から始まるのだが、『デジタルアカデミア』の巻頭には環境問題の特集がある。塩害や熱帯雨林の伐採などそのまま使える写真も多いし、教科書準拠の演習ノートにある「未知の感染症の出現」の例として、「森林破壊によるペスト流行」は使える例だと思う。「死の舞踏」の絵をついでに紹介できる。
(1)モエンジョ=ダーロの写真
・環境破壊により滅亡した可能性
・(可能性は低いが)過剰な森林伐採
・・・・メソポタミアの日干しレンガの写真を見せて比較
(2)教科書9ページ「大気中の二酸化炭素濃度の増加」のグラフ
二酸化炭素がなぜ問題なのか?
→二酸化炭素の濃度が急増し始めるのはいつ頃か?
→二酸化炭素濃度が急増する18世紀後半にはどんなことが起こっているか、
教科書18ページで確認・・・・「ワットの蒸気機関=石炭の使用」
→ワットの蒸気機関の図とロコモーション号を見せ説明
(3)教科書18ページ「世界のエネルギー消費量の歴史的推移」のグラフ
世界のエネルギー消費が急増し始める時期はいつ頃か?
19世紀の後半・・・・石油使用の拡大
19世紀後半のマンチェスターの図、ダイムラーの自動車
「そもそも環境問題をわれわれは考える必要があるのか?」と質問をしたところ、指名した全員が「必要あり」と答えた。その理由を尋ねたところ、「未来によい環境を残すため」という答えがほとんどであった。洋上国家モルディブの写真などを見ながら、いま現在差し迫った問題であることも示したいが、未来への視点は大切にしたい。ということで、故宇沢弘文さんの言葉を紹介した4月24日付け熊本日々新聞の「新生面」を提示することにした。次の一文。
「自然環境などを市場原理に委ねてはならない社会の財産とするその理念を、宇沢さんは『お金に換算できない大切なものを守る考え方』とした。自然環境は『未来の世代の財産でたまたま私たちが管理しているのだ』とも訴えていた。」
コピーして配付してもよかったが、スマホで写真を撮ってタブレット端末に送り、プロジェクターで投影して提示した(スマホを直接ケーブルでつなぐこともできるが、これは様々な点で問題があるだろう)。上記の一文に黄色チョークで傍線をつけたら、チョークの方が目立ってしまった。
教科書50ページからの倫理分野でも、『デジタルアカデミア』収録のルネサンス
作品群は使えそう。
石牟礼道子「葭の渚」 [現代社会ネタ]
現代社会の教科書は、環境問題から始まる。
1972年にスウェーデンのストックホルムで開催された 国連人間環境会議のことは必ず出てくる。
キャッチフレーズは、「かけがえのない地球 (Only One Earth)」。
しかし、この会議に故原田正純先生と胎児性水俣病患者の方が、
世界に向けて水俣病の悲惨さを訴えたことは触れられていない。
ユージン・スミス氏の撮った、白黒の写真を思い出す。
(子どもの頃ユージン・スミス展に連れて行ってもらい、家には写真集『水俣』があった。)
今日の熊本日々新聞掲載の石牟礼道子さんの「葭の渚」。
顔を見られたくない患者さんが、胸の上に置いた週刊誌様のものをもがくような手つきで立てて、顔を隠していたということが書かれている。
(「患者さん」という「さん」づけ表現に心打たれる)
自らを写真に撮らせる、という行為は、重い。
私は「世界史」(あくまで高校の科目名だが)の教師である。
だから、石牟礼さんの「世界史の動向を全身全霊ではかっている気持ち」という言葉を何度も反芻し、意味を考えてみる。
最後の一文、「こういうことが許されていけば、次の世代へ人柱は『合理化』という言葉で美化されていくだろう」言葉、深く噛みしめたい。
社会認識を問う問題 [現代社会ネタ]
2009年:家電リサイクル
2008年:雇用問題
2007年:防災意識を高める取り組み
これらの問題は、森分孝治氏の考えに基づいた出題だと思います。「読み取り」→「問いの設定」→「説明」、そして可能ならば「解決策」という型にはめれば大丈夫でしょう。 今年大分大を受けたウチの生徒も、書けたようでした。どんな問題だったのでしょうか。
高度経済成長時代の少年マンガ雑誌 [現代社会ネタ]
一昨年廃品回収で手に入れたのが、昔の週刊少年誌。69年の「少年キング」、70年の「少年マガジン」、そして71年の「少年サンデー」の3冊。まだ何冊かあったのですが、状態がいいものを3冊もらってきました。「マガジン」には「巨人の星」や「あしたのジョー」、「キング」には「怪物くん」「柔道一直線」など、有名どころの作品が並んでします。「キング」の手塚治虫「鬼丸大将」って、「どろろ」のプロトタイプって感じです。「サンデー」の巻頭カラー特集は、「オールナイトニッポンにきたへんなてがみ」。メール時代の今では考えられないユニークな手紙が並んでいます。「サンデー」には、高卒と大卒はどちらが有利か、という特集まで。
驚くのは、今では考えられないほど重い作品があること。「サンデー」の「銭ゲバ」と「マガジン」の「アシュラ」の二作ですが、これがどちらもジョージ秋山の作品。う~む。中には「ダメおやじ」みたいに、今だったら絶対問題になりそうな内容のマンガもあります。ここに収録されているエピソードは、家に帰ると妻や子にいじめられるため、会社から帰りたくないダメおやじの話。それを見た会社の上司が、ウチに来いと行ってダメおやじを自宅に連れて行き、自分の妻で殴る蹴るの練習をさせるという内容。書いているだけで、冷や汗もののです。この漫画が連載されていた当時は、「オヤジが家庭内で威張っているのは当たり前」の時代だったゆえ、こういう内容がギャクになっていたんでしょうねぇ。数日前佐賀県武雄市の市長が、女性配偶者を「オイ」などと、名前無しで呼ぶことを禁止する条例を発案してましたが、私と同世代で妻を「オイ」なんて呼ぶ人がいるのでしょうか?そんなことしたら後がどうなるか、考えただけでも恐ろしい(笑)。
で、これらの雑誌を何に使うかというと、裏表紙の自転車をネタに高度経済成長の話。高度経済成長の時代には、このサイクリング用の自転車というのが豊かさの象徴だったとのこと。裏表紙は3誌とも自転車で、「キング」の裏表紙には島野工業株式会社というメーカーの自転車用変速機の広告まであります。当時の値段で3万円以上というのは、かなりの値段だったようです。その他広告もじっくり見ると実に興味深い。
一年生の現代社会に持って行ったのですが、反応はほとんどなし。で、仕方なく例によって2年生の世界史の授業に持って行ったところ、それなりの反応を得て溜飲を下げました(笑)。
NIEに挑戦 [現代社会ネタ]
地歴公民科を担当している私は、最後の定期考査が終わったあとの終業式までの授業をどう組み立てるかという点で毎年頭を悩ませます。今年は現社で新聞を使ってみました。専門の先生方から見ると稚拙な授業でしょうけど。
使ったのは、①2月16日の熊本日々新聞
②2月22日の熊本日々新聞
③2月24日の毎日新聞
②では一面の「日銀、0.25%利上げ」と、「暮らしへの影響ズシリ!?」という記事を印刷して全員に配布。政策金利である無担保コール翌日物金利とは何かを説明し、この利上げがわれわれの生活にどう関係しているのかをみることにしました。無担保コール翌日物金利については、今年ウチの学校が使用している清水書院の資料集の「補遺資料」中の「ゼロ金利解除~もう公定歩合と呼ばないで~」が役に立ちました(もう公定歩合という言葉は死語?....「公定歩合操作」という用語も教科書から消えるのでしょうか?)。そして「暮らしへの影響」の記事を読ませ、「貯金が多い人」「借金が多い人」などを列挙してそれぞれ有利か不利かを考えさせます。この記事では「預金の多い高齢者層には有利だが、住宅ローンの返済に追われる若年層にとっては負担増の可能性も。」という一文に注意が必要な気がしますね。「高齢者には有利で若年層には不利」という誤った読み方をする生徒も出てきそうです。利上げは、①預貯金の多い人に有利、②借金の多い人に有利、③高齢者に有利、④若年者に有利、という4つの命題について正しいと思う命題に挙手をさせたところ、③にあげた生徒が21人と約半分。「高齢者である」ということは、「預貯金が多い」ということとどれくらい相関関係があるのでしょうか?
今回の利上げの背景について、記事に私があらかじめ線をひいておいた部分に着目させました。記事では昨年10~12月期の実質成長率が4.8%と好調だったこと、円安と不動産融資に歯止めをかけることなどが述べられています。ここで金利が低いとなぜ円安になるのか、ということでキャリー・トレードの話をしなければなりません。このキャリー・トレードが個人投資家にまで広がっていることが円安が止まらない理由の一つですが、③2月24日の新聞では、23日にも円は対ドル、対ユーロともに安くなっています。「日銀が利上げを行ったのに、円安が止まらないのはなぜか」という問題設定ができますね。③の「日銀の選択・下」という特集が使えます。
次に①を使って、今回の利上げの根拠となった「GDP年率4.8%増」という記事を読ませます。②と①はB4の紙に両面印刷して全員に配布。ついでにその下の「新生面」も関係ある内容だったので、一緒に印刷(新生面には日付がはいっているので便利:ウチの小6の長男も担任の先生の指導で毎日要約をつくって読んでいるが、小学生に説明するのは少々難しいみたい)。「ズーム」という用語説明には国内総生産の解説があります。が、これがイメージとしてはとらえにくい。
ここからが今日の本題(導入が長い!?)。今日の目標は、「GDPとは何か」「GDPとGNPの違い」「GNPの限界」を理解させることの三点。専門の公民の先生方からは笑われるかもしれませんが、専門外科目を教える私としてはけっこう大変。「GDPとは何か」で毎年使っているのが、前任の学校で使っていた山川出版社の教師用指導書(現代社会)に載っていた説明。小麦・小麦粉・パンというたとえを使って「付加価値の合計」がわかりやすく説明されています。私は数値の部分を空欄にして、生徒に記入させ「総生産物の合計-中間生産物の合計」「最終生産物の合計」「付加価値の合計」の三つを計算させて、いずれも答えが等しくなるということで説明してみました。65分の授業でも、結局全部は終わらず明日に持ち越しとなりました。
ところで熊本日々新聞では、まだ公定歩合という用語を使っているようです。日銀が「もう使わない」って言っている以上、法律用語でもないわけですから、使わないのが妥当だとは思いますが、それだけ馴染み深い言葉ってことでしょうね。ちなみにウチの一年生に「公定歩合」を中学校でどのように習ったか、と尋ねたところ、「習った記憶はあるが、内容は覚えていない。入試に絶対出ないって先生は言ってた。」ということでした。
「三種の神器」 [現代社会ネタ]
知っている人が見れば気づく社会科準備室(ウチの学校では「地歴・公民科」という言葉はほとんど使いません)の床の色をバックに写した写真ですが、これ何だと思います?なんと洗濯機です。以前「なんでも鑑定団」で外国製のレトロな電気洗濯機が紹介されたとき、 妻が、「ウチには父が使っていたもっとスゴイモノがある」と実家から持ってきてくれたのがコレ。洗剤とお湯、それに洗濯物を入れて蓋をし、ハンドルを回して攪拌するというものです。本当にこれで汚れが落ちるのか?という気がしますが、実は圧力がかかる密封構造になっていて、結構汚れは落ちるとのこと。義父は毛布まで洗ったことがあるそうです。昭和30年ころの製品。 商品名は「KAMOME HOME WASHER」というシロモノで、群馬県高崎市に現在でも存在する林製作所がつくった製品です。日本をはじめ、アメリカやイギリス、ドイツで特許を獲得し販売され、この商品を考案した当時の林製作所の社長林敏雄氏は群馬県知事から表彰を受けています(昭和33年)。 昭和33年(1958年)というと、高度経済成長にあたる時期であり、いわゆる「三種の神器」(白黒テレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫)が普及し始めた時代。というわけで、この手回し洗濯機はさほど普及しなかったようです。
インターネットで検索したところ、この手回し洗濯機は今や各地の博物館に収蔵されているようですが、小学校4年生の社会科授業で使えるという例を見つけました(「昔のくらし」の中の、昔の道具調べ)。ウチの次男に尋ねたところ、確かに小学4年生の社会科授業にはそのような授業があるとのこと(ウチの子供が通う小学校は、熊本市の県立博物館に行って色々調べたそうです)。熊本高校近隣の小学校で希望する先生がいっらしゃれば、お貸しいたします(笑)。
驚いたのはこの人力手回し洗濯機、外国、特にドイツでは好評だったそうで昭和45年に製造を中止した後も交換用部品(蓋部分のゴムパッキン)の問い合わせがたびたび来るとのこと。というわけで現在復刻されております(つくっているのはまったく別メーカー)。値段はなんと31,290円(税込)!さらに、中国製のコピー商品まで出てました(値段は4800円)。エコブーム、ってことでしょうかね。
これを一年生の現代社会の授業、「戦後の日本経済」に持っていって見せたのですがほとんど反応無し。悔しかったので?2年8室の世界史の授業に持っていったら喜んでくれました(笑)。一応「歴史」ということで。