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『エリザベス』(シェカール・カプール監督、1998年、イギリス) [歴史映画]

【映画について】
 イングランド女王エリザベス1世の前半生を描いた作品で、監督はインド出身(といってもインドがイギリスから独立する以前の1945年に現在のパキスタンで生まれた)のシェーカル・カープル。エリザベス1世を演じるのは、2005年に『アビエイター』のキャサリン・ヘプバーン役でアカデミー助演女優賞を受賞した、オーストラリア出身のケイト・ブランシェット。エリザベスの相手ローバト・セシル役は、『恋におちたシェイクスピア』でシェイクスピアを演じたジョセフ・ファインズ。第71回のアカデミー賞で、作品賞・主演女優賞・美術賞・撮影賞・衣装デザイン賞等にノミネートされ、メイクアップ賞を受賞しました(ちなみにこの時の作品賞は『恋におちたシェイクスピア』)。重臣ロバート・セシルを演じるのは、『大脱走』でビッグXを演じ、『ガンジー』ではアカデミー監督賞を受賞したリチャード・アッテンボロー。

【ストーリー】
 キネ旬DB http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=31484

【見所その他】
 エリザベス1世の前半生だけを取り上げているので、アルマダ海戦などは出てきませんが、即位までの紆余曲折と即位後の陰謀渦巻く宮廷をサスペンス・タッチで描いた作品として十分楽しめます。
 宮廷の内幕をメインに描いた作品だけに、見所の一つは優雅な宮廷の雰囲気。まずアカデミー賞の衣装部門にノミネートされた、豪華な衣装が目を引きます。エリザベスが踊るダンス「ヴォルタ」も、宮廷の優雅さを伝えてくれます。エリザベスが住むハットフィールド離宮は、現在第10代ロートランド公が住むハドン・ホールをロケ地に使用し、戴冠式はヨーク大聖堂、その他有名なダラム大聖堂もロケに使われるなど、現在イギリスに残る代表的な建築物がロケに使用されています。
 主役のケイト・ブランシェットの演技もなかなか素晴らしい。議会での演説の前にリハーサルをする不安げな彼女が、徐々に女王として成長していく過程がよく描かれています。女王が赤毛だったのは史実通り。
 ドラマ性を重視したためか、史実を変更した点がかなりあります。例えば、ウィリアム・セシル(1520年生)とウォルシンガム(1530年生まれ)が史実よりかなり年輩であること、エリザベスに隠居させられたセシルは、史実では女王の晩年まで仕えた、などがあります。ウォルシンガムが暗殺したスコットランドのメアリは、最初メアリ・ステュワートかと思いましたが、クレジットによるとメアリ・ステュワートの母でスコットランド王ジェームズ5世の2番目の妃メアリ・オヴ・ギーズ(マリー・ドゥ・ギーズ、マリー・ドゥ・ロレーヌ:1515~1560)でした。実際には彼女は水腫で死亡したとのことで、彼女の死んだときにアンジュー公はまだ6歳の子どもですから、映画のように二人が陰謀をめぐらすということはありえません。エリザベスに求婚したアンジュー公(1554~84)は、フランスのカトリーヌ・ド・メディシス(イタリアのメディチ家出身)とアンリ2世の子で、メアリ・ステュワートの叔父にあたるフランス人です。デイヴィッド・スターキー著『エリザベス』(原書房)によれば、アンジュー公やスペインのフェリペ2世がエリザベスに求婚したのは、彼女が40代半ばのときだったとのこと(このとき彼女はアンジュー公にかなりいれこんでしたようですが、国内の反対にあってやむなく断念したらしい)。美男で知られるアンジュー公が生まれたのは、エリザベスが即位する4年前ですから、エリザベスとは20歳以上年の差があります。

 ちなみにこの映画に登場するノーフォーク公は、『わが命つきるとも』に登場した第3代ノーフォーク公の孫にあたる、またまたトマスの第4代ノーフォーク公。第3代ノーフォーク公の姪の娘がエリザベス1世ですから、第4代ノーフォーク公とエリザベス1世は「またいとこ」という関係になります。こうした王家に近い血筋が、ノーフォーク公の不遜な態度の理由です。彼はカトリック教徒で、同じくカトリックのメアリ・ステュワートと結婚したうえで王位につきたいと思っていたようです。
 映画では、メアリ1世がエリザベスを敵視している様子が伝わってきます。彼女は「booldy Mary」という異名をとったほど、プロテスタントを弾圧した君主です。映画の冒頭に出てくる、頭を刈られて火あぶりになるプロテスタントの姿は衝撃的です。メアリは死ぬ直前までエリザベスの王位継承を拒み、エリザベスの王位継承を承認したのは死の前日だったといいます。その背景には、宗派の違いももちろん、自分の母キャサリン・オブ・アラゴンがエリザベスの母アン・ブリーンの出現によって追われ、自らもプリンセスの称号を剥奪されたことを根に持っていたこともあるでしょう(プリンセスの称号は、ヘンリ8世の6番目の王妃キャサリン・パーの取りなしによって回復された)。森護『英国王室史話』(大修館)によれば、メアリが最終的にエリザベスの王位継承に同意したのは、夫でスペイン王のフェリペ2世の判断があったからdそうです。フェリペ2世は熱心なカトリックであり、プロテスタントのエリザベスの王位継承には、妻メアリと同じく反対したと考えるのが当然。そのフェリペが、エリザベスの王位継承を強く望んだのは、エリザベスを否定した場合、イングランド王位はメアリ・ステュアートに移る可能性を恐れたからです。メアリ・ステュアートは1558年にフランス皇太子(のちのフランソワ2世)と結婚していたことから、仮に彼女がイングランド王となれば、スペインはイングランドとの同盟関係を失うだけでなく、フランス・スコットランド・イングランドの3国を敵にまわすことになってしまいます。つまりメアリ・ステュワートの王位継承を防ぐためにフェリペはエリザベスの王位継承をすすめたわけですが、そのことがスペインの没落の一因ともなろうとはフェリペ2世も予想だにしなかったことでしょう。

エリザベス

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