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世界史の授業改革 [授業研究・分析]

 『社会科教育』という月刊の教育雑誌がある。発行元は明治図書。毎月買っているわけではないが、おもしろそうな特集があるときは、買うようにしている。2007年3月号は「“歴史学習・歴史認識”の新しい授業例32」という特集で、編集後記を読むかぎり、昨年度表面化した高校における世界史未履修問題を受けて組まれた特集だと思われる。その割には、現在高校で世界史を教えているという筆者は一人もいない(にもかかわらず阪大の桃木先生の文章は掲載されている)という不可解な特集であるが(編集の方々には、小田中直樹氏の『世界史の教室から』をぜひ、「はじめに」の「教師をして語らしめよ」という部分からぜひ読んでいただきたい)、おもしろかったのは、關浩和氏(兵庫教育大学教授)の文章中にあった指摘。「歴史を学ぶのは人類が生存していくための手がかりを得るためである」という指摘は、ナルホドと思わせられる。先般ドレフュス事件の話をしたとき、2005年に京都大学の入試で使われた資料と、平成10年1月14日の読売新聞「ドレフュス事件 ゾラ糾弾から100年 フランスで記念式典始まる」という記事を使ったが、これは私がこの事件から何らかの教訓を得てくれればと思ったから(關氏がさらに述べている「歴史を学ぶと未来が見えてくる」という段階までは、残念ながら至っていないが)。
 しかしそれよりはるかに面白かった1のが、その前段階の文章。ちょっと長いが、今日の歴史教育の問題点を端的に指摘していると思われるので、引用させてもらうことにしよう。

 「本誌のような教育雑誌で述べられている殆どの内容は、現場の一般の教師には興味のないことだろうと思う。というのも、日々の授業や課せられた校務分掌をこなすのに必死で、じっくりと本を読んだり、研究的に取り組んだりというゆとりが見い出せない状況だからである。その結果、テキストを読み解くだけの変化のない紋切り型の授業が行われている。小学校では、歴史学習に登場している人たちの「生き方」に特化させて当たり前のように学び、中・高校では、歴史的知識を羅列的に学んでいる。だから小学校では、一人一人が努力や工夫をして、世の中のために立派に尽くす人になりましょう的な生き方教育につなげ、中・高校では、受験学力の保障のための知識羅列型授業が延々と行われているのである。」

 そういえば渡辺雅子氏は、日本の小学校の歴史の授業では、「生き方」に「共感」することが求められていると指摘してたなぁ......という点はさておき、私を含めて多くの世界史教師は自戒と反省をこめて、「どうにかして変えたい」と思っているはずである。国立教育政策研究所の「平成17年度高等学校教育課程実施状況調査」における結果も、世界史の授業を何らかの形で改革することの必要性を示している。
 「変えたい」ということで、この雑誌には「どう改革するのがいいか」という提言も掲載されている。ここでの注目は、本題の授業レベルの話ではなく、制度・枠組みのレベルでの話。掲載されている提言として、1つ目は地理歴史の入門的科目の新設、2つ目は日本史必修の声に応える形で「日本史+東洋史」科目を新設し必修化する、第3は日本史・世界史・地理全部履修せよというもの。3つめの意見は、入門科目の新設に含まれる場合もあろう。しかしいずれの意見も、高校現場の現状をふまえておらず、現実問題として実施は極めて困難である(その点で、「世界史研究所」のNEWS LETTERに掲載されている油井大三郎氏の試案は、かなり現場の状況が勘案されており、対照的だった)。
「今の進学校の社会科(たぶん地理歴史科ということだと思われる:平井による補足)の教師の歴史認識は、ひじょうに狭いもので、日本史と世界史との関連などまったく考えていないものなのだろうか。受験しか用のないものなのだろうか。」(28ページ)とか「世界史を強くするには、世界史を詳しくやればよいのではない、日本史や地理を学んだ方が、より世界史を強くすることができる。どうしてこのような説明を子どもたちにしないのであろうか、本当にわかっていないのだろうか。」(29ページ)というようなことを書かれて、我々世界史の教師はどう反論できるのか。枠組みが変わるのは当分先になりそうなので、授業レベルで改善し反論していくしかないように思われる。学習指導要における地理歴史の目標は、「我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特色についての理解と認識を深め、国際社会に主体的に生きる民主的、平和的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質を養う。」となっている。各科目の目標でも、日本史と世界史の連関は指摘されているし、 第3款には「中学校社会科及び公民科との関連並びに地理歴史科に属する科目相互の関連に留意すること。」という文言もある。すくなくとも、学習指導要領は、常に頭に置いといて損はないと思う。


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