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伊藤章治『ジャガイモの世界史』(中公新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 現行(2008年第1版発行)の山川出版社『世界史B用語集』によれば、「ジャガイモ飢饉」という語句が掲載されている世界史の教科書は11冊中5冊。また「ジャガイモ」という用語は9冊に掲載されています(2000年第1版発行の用語集には「ジャガイモ」「ジャガイモ飢饉」とも掲載なし)。2007年に実施された東京大学の入試で世界史の第1問の指定語句となっている「アイルランド」は、ジャガイモ関連で使うのが一番よいでしょう。2003年の千葉大の入試(世界史)では、「ジャヤガイモ飢饉」が指定語句になっています。

問.「大航海」時代には、アメリカ大陸から新しい消費物資が旧世界に導入されて、人々の生活に変化がおこる一因となった。次のもののうち、原産地アメリカ大陸からヨーロッパにもたらされたものを三つあげよ。
    コーヒー  砂糖  じゃがいも  たばこ  とうもろこし  木綿
(東京大学,89年)

 ジャガイモが新大陸原産であるのは、有名な話。ケイト・ブランシェット主演の映画『エリザベス』で、ウォルター・ローリーが新大陸から持ち帰ったジャガイモを、廷臣の一人が生でかじって顔をしかめるというシーンがありました。 
 ジャガイモの優れている点は、まず寒い地域でも育ち、成熟を待たずとも小さいまま食すことが可能で、作地面積あたりの扶養人口も高く、地下で成育するため、戦争で被害を受けることも少ないといった点です。そして高い栄養価。3㎏のジャガイモは、一人が一日に必要な3000㌍を満たし、あと0.5㍑の牛乳を飲めば、十分に生活できるらしい。メークイン(May Queen:5月Mayの語源は繁殖・成長の女神マイアMaia)と呼ばれる所以です。

 夏休み明けに大学時代の恩師から来たメールに、岩波と中公の両新書のジャガイモ本はどちらも一読の価値ありという話だったので、まず購入したのがこの中公の方。ジャガイモと人間との関わりを中心に、ジャガイモが世界に普及して以来、「貧者のパン」として、いかに人間の生活を支えてきたかが語られています。世界史の授業ネタとして使えるのは、おもに第3~5章ですが(特に第5章)、それ以外にも興味深いエピソードが数多く語られています。元新聞記者らしい実際の取材にもとづく人間ドラマは、ジャガイモから離れた人間の記録としてすぐれています。筆者は桜美林大学の先生だそうですが、桜美林の語源となったオバリンにまつわるエピソードも(ジャガイモからかなり離れてはいますが)興味深い。あとがきには「『ジャガイモの世界史』という大仰なタイトルを掲げ....」という一文がありますが、過去と現在とをつなぐことが歴史のおもしろさの一つであるとすれば、別に謙遜する必要もないでしょう。
 トマトやサツマイモもジャガイモと同様に新大陸原産ですが、トマトはジャガイモと同じくナス科。しかしサツマイモはジャガイモと違ってヒルガオ科の植物です。なるほど、ジャガイモとトマトを交配させた「ポマト」はできても、サツマイモとトマトをかけあわせた植物はできないわけです。「ジャガイモ・サツマイモ・トマト、このうち仲間はずれはどれだ?」っていうクイズもおもしろいかも。鈴木亮先生には「サツマイモの旅」という授業がありました。「ジャガイモの旅」という授業もおもしろそうですね。



ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書 1930)

ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書 1930)

  • 作者: 伊藤 章治
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本



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コメント 2

yoku

>サツマイモもジャガイモと同様に新大陸原産

久しぶりにコメントさせてもらいます。
小生、白状しますと薩摩出身なのに知りませんでした(笑)
南の方から(沖縄を通って)来て、その先のほうは
アジヤの辺とばかり思っておりました。
こういったタイトルの本には惹かれます。
by yoku (2008-10-06 01:21) 

zep

確か南方ではタロイモとかいうサトイモ科のイモが食されていたような気がします。サトイモ・サツマイモ・ジャガイモ、同じイモでも科が違うというのはおもしろいですね。
by zep (2008-10-06 21:00) 

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