佐藤賢一『カルチェ・ラタン』 [歴史関係の本(小説)]
またしても佐藤賢一でございます。舞台は16世紀のカルチェ・ラタン。カルチェラタンの「ラタン」が「LATIN」だとは、今まで知らなかった.....赤面。知らなかった、というともう一つ、パリのサン・ジャック門の由来は有名な巡礼地サンチャゴ・デ・コンポステラ(以前「世界不思議発見」で特集があり、1995年に東京都立大でこの巡礼地の名を問う問題が出題された)、すなわちフランス風発音ではサン・ジャック・ドゥ・コンポステルだって。巡礼の旅の出発点、ってワケですな。
この作品は、これまで読んだ佐藤作品に比べれば明らかにインパクトは弱い。『薔薇の名前』(作品中にル・ゴフという人物が登場するあたり、確信犯なんだろうな)みたいな聖職者探偵、シャーロック・ホームズのような相棒、『三銃士』のような序文、と「○○みたいな」設定が目立つ。例によってイグナティウス=ロヨラやカルヴァン、ザビエルなど、人物描写は巧い。しかしこれら3人があまりによく知られている歴史上の人物たち故、われわれの想定内の描写(カルヴァンの暗さ)に終わっている。イマイチだったなぁ。佐藤作品ではおなじみのラ・フルトやらゲクラン屋敷、それに『二人のガスコン』に出てきたクルパンの係累も出てきました。
ところでヨーロッパの中世文化で必ず出てくるのが唯名論やら実在論やら普遍論争やら。これ皆さんはどう教えてるんでしょうか?私の場合、「内容は教科書を読んでおけ、内容よりもアンセルムスとアベラールのどちらが実在論をとなえ、どちらが唯名論をとなえたかを確認しておけ」で済ませてるんですが(笑)。この本では唯名論を「わかりやすく」解説してくれてるんですが(130ページ)、やはりよく分かりませんでした(笑 一橋大学の入試問題(1993年)に、アルビジョワ十字軍が出題されたことがあります。
「教皇権が絶頂に達したのは、第4回十字軍をおこした教皇の時代といわれる。この教皇は東方だけでなく、ヨーロッパの内部にも十字軍を送っている。いわゆる異端討伐の十字軍である。これは、宗教と政治の双方においてともに重大な歴史的結果を生みだした。この十字軍の名称とそれを最初に主唱した教皇名を明らかにしつつ、その過程と結果を下記の語を用いて説明せよ。(400字) カタリ派 ドミニコ修道会 ルイ9世」
アリビジョワ十字軍とドミニコ会の関係なんて普通の受験生は知らないだろうし、アルビジョワ十字軍を提唱したのがインノケンティウス3世だということも知らないだろう。267~8ページでは、カタリ派を鎮圧できた理由として聖フランチェスコと聖ドミニコ、それにインノケンティウス3世の名があげられています。
初めまして。こちらのブログは興味を持ってはいたのですが、私のような不届き者は関わってはいけないかなと思ってコメントは避けていましたが、今日はちょこっとだけコメントさせて下さい。
一橋大の入試問題、すごいですね。受験生的に想像すれば教皇権が最大=インノケンティウス三世、カタリ派=アルビジョワ派、ドミニコ修道会=フランチェスコ会と一緒に托鉢修道会、これが異端を排除する反対勢力か?ルイ9世はカタリ派鎮圧位しか出てきませんね。アルビジョワ十字軍て名前自体初耳です。12年前はこれは教科書に載っていたんでしょうかねえ。
しかし、これが完ぺきにできちゃう受験生はすごいと思います。良い悪い抜きにして。
実在論と有名論と普遍論。教科書だけではわけ分かりません。でも、おたくっぽくてほほ笑ましい議論ですね。
失礼いたしました。
by ty-ortho (2005-11-27 01:24)
ty-orthoさん、はじめまして。一橋大の入試問題は、難問が多いですね。高校生には(私にも)とても書けないだろう、と思われるような問題が出題されます。地理や日本史も一橋の問題は難しいそうですが。叙任権闘争とかそのあたりの分野は一橋でよく出題されますね。ty-orthoさんのブログちょこっと拝見させていただきました。とても面白いです。授業用のプリントに使いたいくらいです。今度ゆっくり読ませていただこうと思いますので、よろしくお願いします。
by zep (2005-11-28 22:06)
Zep様
お邪魔します。
パリのサン・ジャック塔、アルビジュワ十字軍、アベラール。
サン・ジャックの塔は見学しましたし、アルビには、この秋訪ねました。
アベラールはヨーロッパの知的覚醒(白水社)に出てきます。
破天荒のひとだったらしいですね。興味ありです。
この人について何か情報があればいつか紹介して下さい。
by yoku (2005-12-03 11:02)
yokuさん、こんにちは。yokuさんは各地をまわっておられて、本当にうらやましい限りです。私も4番目(一番下)の子供が小学生になったら、ヨーロッパを家族でまわってみたいと思っています。残念ながら、アベラールは私も通り一遍のことしか知りません。佐藤賢一の『王妃の離婚』でも、主人公とダブらせてありますね。
by zep (2005-12-03 11:25)