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『英雄~HERO』(2002年、チャン・イーモウ監督、中国・香港) [歴史映画]

 秦の始皇帝暗殺をテーマとした映画。実際には秦の統一前の時代設定だから、秦王の政であった時代ということになります。つまり戦国時代末期。秦王の暗殺を企図する趙の3人の刺客と、彼らの協力のもとで秦王の暗殺を企てる青年「無名」(ジエット・リー)を描いた作品。配役も豪華で、脇役「残剣」(トニー・レオン)のそのまた脇役(「残剣」の侍女「如月」)が、チャン・ツイィー。実は如月が一番印象が強かったりするかも。
 無名の語りを中心にストーリーが展開することもあり、淡々とストーリーが展開します。アクション映画を期待すると、ちょっと拍子抜けするかも。でも映像の美しさが際だっています。「意識の中で戦う」とか、湖上での戦いとか、東アジア的な感じです。書の道と剣の道が相通じるってのも、アジア的ではないでしょうか。音楽とも相まって、実に幽玄な雰囲気を醸し出しています。マンガ『北斗の拳』で南斗水鳥拳のレイと南斗紅鶴拳のユダが戦うシーンでも、水面に手をついて体勢を立て直すシーンが出てきますが、映像にするとインパクトが数倍アップしますね。
 長空と戦う無名が、盲目の楽師に「もう一曲頼む」とお金を渡すシーンがあります。さすがに半両銭ではないですね。教科書や資料集にも写真が載っている青銅貨幣でした。秦ではあまり使われなかった布貨だったような気がしますが、まぁ秦の田舎という設定ですし、秦の領内で布貨が使われることもあったでしょう。「剣の字体が19あるが、残剣は新しい字体を求めた」と聞いた秦王が、不便なので雑多な文字は廃止して文字を統一しようというシーンもあります。後の小篆のことでしょう。
 一番凄かったのは、秦軍の弓兵部隊。秦軍が残剣や飛雪(マギー・チャン)がいる趙国の塾を攻撃する場面では、短弓から二人がかりで操作する弩(うち一人は仰向けにお尻を地面について足で弓を固定している)、それに数人がかりで操作する巨大な弓まで様々な弓が出てきます。実際戦国時代の弓ってあんなにたくさんの種類があったんでしょうか?
 この時代にはまだ紙がありません。無名が残剣と飛雪に彼の剣技を蔵書館で披露する場面がありましたが、納められている書はすべて木簡でした。また趙国の塾では、字の練習をするときに紙ではなく細かな砂が張られた四角い入れ物を用いていました。これに細い棒で字を書き、横のレバーをスライドさせると、自分が書いた字を消すことができるというわけです。無名と飛雪が矢の雨を防ぐ中、残剣は赤い墨で「剣」の字を完成させます。秦王に献じられた書は巻かれていましたから、少なくとも板ではありませんが、おそらくはなんらかの布に書いたのでしょう。
 秦王を狙う暗殺者が趙の出身という設定は、幼少時に趙の人質となっていた秦王が、趙国に特別の感情を持っていたということが、よく知られているからでしょう。この話はマンガ『墨攻』でも扱われていますが、詳細はWikipediaの記事を参照のこと。[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A7%8B%E7%9A%87%E5%B8%9D]
タイトルのヒーローとは、誰か個人を指しているのでしょうか。それとも登場人物全員?
チャン・ツイィーのオフィシャル・サイトにおける『HERO』の紹介。
[http://www.helloziyi.us/Movies/Hero.htm]


 「プレミアム・ボックス」には残剣と無名のフィギュアがついています。ボックスにはこれを立てるための台がついていて、バックに付属のポストカード30枚のうちの1枚をいれると、湖上の戦いが再現できるというシロモノです(笑)。

 ここ数日、校内模試の問題作成に頭を痛めております。この前ATの採点がおわったばかりのような気がしますが。今の学校に赴任して以来、問題作成と採点に追われっぱなしのような気が......

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plot

この映画、未見でしたがzepさんの解説で俄然観たくなりました。武器は殺人の道具ですが技術史的な視点で見ると興味深いですね。弩は中国が起源でしょうか。ヨーロッパは投石機の時代? 銃床のフォルムや撃鉄、引き金の構造など弩の時代に完成して、銃器に応用されたものも多いですね。
by plot (2006-07-17 20:57) 

zep

紀元前3世紀くらいですが、ヨーロッパにはまだ弩はなかったでしょうね。前3世紀のヨーロッパというと、ギリシアやローマでは重装歩兵が主力の時代ですから。秦の始皇帝陵墓からは、確か弩が出土しているはずですから、この映画のように、戦国時代には一般化していたと考えていいと思います。弩が銃器に与えた影響、それは知りませんでした。なるほど、肩にあてて引き金を引くという点では同じですね。戦争によって科学技術が発達したのも事実です。戦争が、科学の進歩の「必要条件」ではないでしょうけど。
by zep (2006-07-18 21:10) 

熊高生徒

今日は陰陽師Ⅱが9時からあります、伊藤英明が出演しますね!!
by 熊高生徒 (2006-07-24 18:10) 

zep

あらら、残念ながら見逃してしまいました。でも「伊藤英明が好きだ」という話をよく覚えてましたねぇ。彼はけっこう弱々しい男が似合うような気がするのは私だけでしょうか?『踊る大捜査線』でのすみれさんの恋人役とか、宮部みゆき原作の映画『クロスファイア』での、矢田亜希子の相手役とか。『クロスファイア』は面白いと思いますよ。原作も面白い。
by zep (2006-07-28 18:15) 

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