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原爆投下 [授業ネタ]

 LASachiさんによる熊本日々新聞の「わ~るどレポート」(1月7日付け)は、「被爆体験を語る帰米二世」の話。帰米二世とは聞き慣れない言葉ですが、日本で学校教育を受けてアメリカに戻った人をこのように呼ぶそうです。記事によれば米国民の半数以上は今でも「原爆投下で終戦を早め、日米いずれの被害も軽くできた」と考えているそうで(今日ではこの見方をとらえなおそうとする試みもあるそうですが)、94年には原爆をデザインした切手がアメリカで発行されることになりましたが、その切手に"Atomic bombs hasten the end of war, August 1945” という文言が入れられていたため、日本側から反発が起き、結局発行が中止されるという出来事もありました。
 日本に原爆が、それも二発も投下された理由については、アメリカ政府が主張する公式なもの以外にも、対ソ戦略説、兵器実験説、人種差別説など様々な説があります。その他、鳥飼玖美子著『歴史をかえた誤訳』(新潮社)には、ポツダム宣言に対する日本政府のコメントの翻訳がよくなかったのではないか、という説が載っています。連合国が発表したポツダム宣言に対し、日本政府は鈴木貫太郎首相が記者会見を行って、「日本政府はこれを黙殺する」と言明しました。この「黙殺」を同盟通信社の記者が「ignore」と訳して海外に流し、これを連合国側は「reject」と解釈した、というのです。これがポツダム宣言拒否と受け取られ、原爆投下につながった可能性もあるというわけです。『ベルリッツの世界言葉百科』には「言葉が歴史を変える例」として、〈黙殺〉が「もしたった一語の日本語を英訳する仕方が違っていたら、広島と長崎に原爆が投下されることはなかったかもしれない」と紹介されているそうです。

 ところで、このブログ「世界史の授業」が富士通のFMVでつくったブログを対象に募集されていた「FMV○○ブログ選手権」の「男のマイコレクションブログ選手権」というカテゴリーに応募しておいたところ、大賞を獲得したとのこと。パソコンでももらえるかと思ったら、もらったのは左上に表示している「勲章」でした。それでも十分うれしいですけど。紹介記事はこちら[http://azby.fmworld.net/blog/fmv/2007/01/3_1.html]。

                                       

歴史をかえた誤訳

歴史をかえた誤訳

  • 作者: 鳥飼 玖美子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 文庫
それは終戦からはじまった―新視点からみた戦後史

それは終戦からはじまった―新視点からみた戦後史

  • 作者: 内藤 陽介
  • 出版社/メーカー: 日本郵趣出版
  • 発売日: 1996/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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コメント 8

さがい

 おお素晴らしい。受賞おめでとうございます。見ている人は見ているんですねえ。いやあ、めでたい。
by さがい (2007-01-11 22:00) 

yoku

ポツダム宣言云々の話についてドナルド・キーンさん
(アメリカ人の日本文学者)の興味深いエピソード(
彼の当時の上司で、国務次官であったボートン氏、
彼は開戦後の対日政策の中心的役割を担った人
人らしい、のことをインタビューで語っています。
(1月9日の毎日新聞の夕刊)。憲法の話が
メインですが、このエピソードも関心をもって読み
ました。
by yoku (2007-01-12 05:47) 

yoku

追伸。ボートン氏は国務次官ではなく、国務次官補でした
失礼。
by yoku (2007-01-12 05:49) 

zep

>さがいさん
 いやぁ、ありがとうございます。人さまから、自分がやっていることを認めてもらえるというのはうれしいことです。子どもたちにもこうしたポジティヴ・セルフを体感できるような仕掛けを学校現場でも考えていきたいものです。

>yokuさん
 この記事ですね。http://www.mainichi-msn.co.jp/tokusyu/wide/news/20070109dde012040065000c.html なるほど「原爆投下の免罪符ともなるポツダム宣言に「天皇制容認」をほのめかす一文を書き込ませようとするが、結局削除される。その結果、日本は降伏せず、太平洋戦争は原爆、ソ連参戦という最悪のシナリオをたどることになる。」という部分、実に興味深いです。なぜ「結局削除された」のか、紹介されている長谷川毅氏の『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社)を今度読んでみたいと思います。
by zep (2007-01-12 19:17) 

KOUSHIROU

大賞受賞おめでとうございます。
自分は現在、日本史選択の理系3年で、zep先生からは1年の頃に倫理を受けていました。
受験勉強の息抜きに、しょっちゅうブログを覗かせていただいています。
もう、2年前のことで「アレテー」や「アルケー」等の単語としての記憶しかありませんが、先生の授業が大変面白かったことが印象に残っています。

これからも、度々訪問させてもらおうと考えています。 授業に更新に頑張ってください。 自分も受験勉強のほうを頑張ります!
by KOUSHIROU (2007-01-12 20:30) 

zep

KOUSHIROUくん、ありがとうございます。KOUSHIROUくんは1年の時、確か1室でしたよね。あのときの1年1室は、えらく優秀なクラスだったという印象があります。KOUSHIROUくんは理系ですから、地歴は8割で十分。なんといっても日本史係でしたから(あまり関係ないって?いえいえ、そんなことないですよ!)、山で培った精神力で試験に臨んでください。期待&応援しています。
by zep (2007-01-12 23:07) 

お久しぶりです。
このignoreの件は、英語屋さんの間ではかなり有名な話です。
ところで、これは藤原帰一氏の受け売りですが、日本とアメリカには戦争の受け止め方に強い共通点があるというのです。「無邪気さ」とでもいうんでしょうか。つまり、戦争に正義なり過ちなりという大義を求めないと気が済まないという点で。ヨーロッパの場合、切ったはったで数世紀やって来てしまったせいか、戦争というものをある程度割り切って受け止めているというんです。例えば十字軍なんか、送る側からすれば正義の普及のためのまさに正義の戦争だったんですが、結局そーゆーのはあんましいいことないというのを身をもって学んでるっていうのか。ヨーロッパは陸続きだから、本気で戦争始めると100年戦争みたいになっちゃうということを身にしみてるというか。
日本とアメリカは、自国の領土で切ったはったをあんまりやってないという点ではよく似てるんですよね。
by (2007-01-13 22:03) 

zep

なるほど、日本の場合は大東亜共栄圏でしたし、自衛隊の海外派遣の時も大義が求められましたね。イラク戦争も「大量破壊兵器の阻止」という大義をアメリカは主張してましたし、太平洋戦争の真珠湾とか、第一次世界大戦の無制限潜水艦作戦による自国民の犠牲というのがクローズアップされていました。確かに、日米では戦争には何らかの大義が求められています。それに対して、自国がいつも戦場だったヨーロッパ、特に独仏はイラク戦争に反対の立場をとってました。自国が戦場になったことが多いか少ないか、という点で考えるのは興味深い視点ですね。そう考えると、フォークランド紛争やイラク戦争に参加したイギリスの特殊性というのは、一体どこから来てるのでしょうか?
by zep (2007-01-14 20:56) 

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