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小池滋『鉄道ゲージ戦争』(岩波書店) [歴史関係の本(小説以外)]

 『鉄道ゲージが変えた現代史』(中公新書)で鉄道ゲージについて興味を持ち、色々と調べているうちに見つけた本。著者の小池滋氏は英文学者ですが、ヴィクトリア朝時代の文化についても造詣が深く、鉄道マニアとしても知られた方です。
 タイトルから「鉄道ゲージにまつわるおもしろネタを集めた本」かと予想したのですが(そうした要素も強いですけど)、紀行文という趣が強い本です。第2章では、19世紀イギリスの鉄道を、紀行文の体裁で紹介しています。

 『鉄道ゲージが変えた現代史』は、他国のゲージを自国の勢力範囲から排除しよう、あるいは入れないようにしようという国同士の抗争がテーマでした。国際的対立を鉄道ゲージという視点から分析するという内容です。しかしこの本は、ゲージそのものがテーマ。

 19世紀、特に陸続きのヨーロッパでは他国の列車が容易に自国領内に入ってこれないように、敢えて他国と鉄道ゲージを変えるということもありました。しかしボーダレス時代になると、これはどうにも不便です。日本のように島国で他国へ直接乗り入れる鉄道がない場合にならまだしも(実は日本国内には私鉄やJRでゲージ幅が不揃いである場合もある!)、隣国に直接鉄道で行こうという場合には極めて不便です。こうした時にどうするか。著者が1993年に中国(1435㍉の標準軌)~カザフスタン(旧ソ連の1520㍉のゲージ)の国境を越えるときに体験したのは、客車(乗客が乗ったまま)をクレーンでつりあげ、下の台車の部分を入れ替えるという方式。またスペイン(1668㍉の広軌)とフランス(1435㍉の標準軌)の国境を越えるタルゴという列車には、車輪の幅が自動的に変化する機構がついています。そして日本の小田急(JR在来線と同じ1067㍉の狭軌)と箱根登山鉄道(標準軌)のように、両者がつながる区間ではレールが3本敷かれている場合もあるそうです。

 1435㍉が「標準軌」となったのは、このゲージが別名「スティーブンソン・ゲージ」とも呼ばれることから分かるように、蒸気機関車の父と言われるイギリスのジョージ=スティ-ブンソンが1825年にロコモーション号をつくったときに採用したゲージに由来します。彼がこのゲージを採用した理由は、彼の住む家の近くにあったキリングワース炭坑で石炭を運ぶトロッコ列車のゲージが1435㍉であり、これをそのまま採用したことによります。したがって、「1435㍉にしなければならない」ということはなかった訳です。そこで19世紀末、ロンドンとブリストルを結ぶグレート・ウェスタン鉄道は、2140㍉という、JR在来線(1067㍉)の2倍という超ワイドなゲージ幅を採用しました。このゲージ幅を考案したのが、イザムバード=キングダム=ブルネルという人物。著者の小池氏は、このブルネルを高く評価していますが、結局1846年に英議会で1435㍉を標準軌とする法律が成立し、ブルネルの7フィートゲージは敗北してしまいます。このあたりの事情も、この本では詳しく述べられています。

 デヴィッド・ボウイに「ステイション・トゥ・ステイション」という曲があります。アルバム『ステイション・トゥ・ステイション』のオープニング・ナンバーで、列車が走る効果音(SE)もはいっています。ボウイはこの曲で、駅から駅へと運転を続ける悪魔のような 「シン・ホワイト・デューク Thin White Duke(痩せた青白き公爵)」という新たなキャラクターを創り出しました。それ以前にボウイが創り出したのは、宇宙船を操縦する「メイジャー・トム(トム少佐)」というキャラクターでした。宇宙の彼方へと漂流する宇宙船から、駅から駅へと移動していく列車へ。「銀河鉄道999」という作品もあるように、列車というのは、イマジネーションをかき立てる乗り物のようです。そういえば、「花嫁」が乗ったのは夜汽車でしたし、明日の今頃僕が乗っているであろう乗り物も汽車僕の横で君が待つのも汽車、ですよね、飛行機や船ではなく。やはり鉄道というのは、独特の雰囲気があります。


鉄道ゲージ戦争

鉄道ゲージ戦争

  • 作者: 小池 滋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/01
  • メディア: 単行本



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