『フロム・ヘル』 [マンガ]
19世紀末のロンドンを騒がせた連続殺人鬼「切り裂きジャック」を題材としたコミックで、原作は『Vフォー・ヴェンデッタ』の原作者アラン・ムーア(ガイ・フォークスも出てきますよ)、作画はエディ・キャンベル。ジャンル的にはコミックというより、グラフィックノヴェルに分類される作品で、日本のコミックとはかなり趣が異なります[http://www.msz.co.jp/news/topics/07491;07492.html]。本国では1991年から1996年にかけて刊行されましたが、邦訳は2009年10月にようやく刊行されました[http://www.fromhell.jp/]。
絵の雰囲気とストーリーに嫌悪感を感じる人もいるかもしれませんが、エレファントマンやフリーメイソン、クレオパトラの針などヴィクトリア時代の世紀末を彩ったテーマが数多く登場します。中でもマニアックな登場人物が、W.B.イェイツ。彼を登場させ、黄金の夜明け団触れることで、この時期に流行した神智学・黒魔術的傾向をよく表しているように思います。
その他さまざまな仕掛けがありますが、驚くのは当時のロンドンの地理をはじめ、殺人の状況など残っている記録と照らし合わせるとほぼ正確に書かれていること。ここまでやるか、という感じです。なお、日本でも人気が高いアメリカの女性推理作家パトリシア・コーンウェル(検屍官ケイ・スカーペッタをヒロインとするシリーズで有名)は、この作品にも登場する画家ウォルター・シッカートが切り裂きジャックの正体とする説を発表しています。
圧巻は、ガルがロンドンを移動しながらその歴史と建築物の意味を語る第4章。これをすべて理解するには、かなりの知識を必要としますが、その語りの中から浮かび上がる彼の行動真の意味は、もはや狂った哲学です。
死体を切り刻んでいたガルが未来社会を幻視する第十章、異形の怪物(幻視者ウィリアム・ブレイクが描いた「蚤の幽霊 The Ghost of a Fle」)となった臨終間際のガルが、時空を超えていく十四章は、切り裂きジャックが二十一世紀の現在も多くの人の興味を引きつけている様を暗示しているのでしょう。付録もすごい。
この作品を映画化したのが、タイトルも同じ『フロム・ヘル』(2001年、アメリカ、ヒューズ兄弟監督)。その映像美と独特の雰囲気、当時の社会の忠実な再現といった面でとてもよく出来た作品です(過激なシーンがあり、Rー15指定です)。主演はキャプテン・ジャック・スパローのジョニー・デップ。新年度から発行される、とうほうの世界資料集『世界史のパビリオン』(写真・図版・オモシロ記事が多くていい資料集だと思いますよ)には、この映画が紹介されており、ジョニー・デップの写真が掲載されています。彼が演じるのは、アヘンに耽溺するアバーライン警部。彼を主役にしたところが原作とは大いに異なりますが、妻子を亡くして虚無的になったアバーラインをジョニー・デップが好演しています。ガル博士を演じるイアン・ホルム(『エイリアン』の1作目でノストモロ号の乗組員~実はアンドロイド~役を演じる)、アバーラインを助けるゴットレイ巡査部長を演じるロビー・コルトレーン(『ハリー・ポッター』のハグリッド)の二人は、ともにケネス・ブラナーの『ヘンリー5世』で堅実な演技を見せていた俳優です。エレファントマンが「ジョセフ・メリック」と紹介され、「ジョンです」と訂正するシーンは、ジョゼフという名前が担当医師の誤記により「ジョン」という名で広がったことに由来しています。
「切り裂きジャックのDNA鑑定」
(関西医科大学法医学講座/関西医科大学大学院法医学生命倫理学研究室)
http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/DNA/jtr.html
※このウェブには、その他にも興味深いトピックが多数有り。
http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/DNA/dnatopics.html
http://www.din.or.jp/~grapes/jackandbetty/116th.html
フロム・ヘル (新生アルティメット・エディション) [DVD]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- メディア: DVD
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