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小川幸司『世界史との対話~70時間の歴史批評(上)(中)(下)』(地歴社) [歴史関係の本(小説以外)]

 私が著者の小川先生のお名前を知ったのは、数年前のこと、 先生が発表された論文を拝読したときのことです。「苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」という挑戦的なタイトルですが、内容は実に的確な指摘。高校における世界史の授業が抱える問題点を、鋭く指摘した論文でした。この大著は、「ではあなたの授業は?」と問われた小川先生の回答ともいえるでしょう。

 三分冊と言うという膨大な分量もさることながら、内容が実に素晴らしい....というよりも、「私が批評するのもおこがましい」というレベル。実は上巻が上梓された直後に入手して大きな衝撃を受けた私は、中巻・下巻も店頭に並んだ直後にすぐに購入したのですが、あまりのスケールの大きさに、紹介できなかった本です。私自身、かなり勉強してきたつもりですが、正直、小川先生の知識量にはとうてい及びません。

 サブタイトルに「70時間の歴史批評」とありますが、「批評」という言葉に含まれた意味の豊かなこと!他者と自分自身と、そして過去と対話しつつ、現在や未来についての考えをめぐらす.....なんと素晴らしい営みでしょう。

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 世界史の授業は、現代的関心につながらなければならない、とはよく言われることです。しかし、現代社会の問題は、公民の授業でやればいいこと。中には、これが世界史の授業なの?と言いたくなるような授業もあります。その点で、過去の出来事が「われわれの日常」につながっている小川先生の授業は、高校における世界史授業の理想形態の一つだと思います。とはいえ、小川先生のような授業が、誰にでも出来るというわけではありません。この本の各講をベースにして、よりよい授業をつくっていく....というのが、現実的でしょう。自分ならこんな話をしたい、ここはこんな見方を示してやろう、と。

 前回の『世界史読書案内』を読んだときにも感じたことですが、我々はこうした業績を積極的に利用すべきです。日々の業務に追われ、ともすれば本を読むこともなくなってしまいそうな毎日(だからこそ、小川先生が高校演劇会でも有名なことに驚くのです......高校の演劇部は吹奏楽部と並んで大変な、文化系の中の体育系)。そうした日常の中で、自分が知らなかった面白そうな本がある、読んでみたい、そしてこんな読み方もある.....ワクワクするじゃないですか!
 以前にも書いたことですが、私が理想とする授業は「歴史書と歴史小説の橋渡し」となる(かつ大学入試で点がとれる)授業です。この点、「糊とハサミからできた文章」という、小川先生のいささか謙遜した表現は、「我が意を得たり」という思いです。
 この本を読んでいると、神に畏敬と親近感を感じるようになったルネサンス人のような気分になります。「小川先生にはなれないが、小川先生を目指して努力しなければならない」。学ぶこと知ることが好きで、学ぶこと知ることの楽しさを子どもたちに伝えたい.....そうした思いをもって教師になったはずの自分ですが、数年来、「自分の授業はそれができているのか?」という思いを持つようになっていました。そのときにこういう名著に出会えたことは、本当に幸せだと思います。世界史の教師として教壇に立っている、あるいはこれから立とうとしている方々すべてに読んで欲しい本です。



世界史との対話〈上〉―70時間の歴史批評

世界史との対話〈上〉―70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2011/12
  • メディア: 単行本
世界史との対話(中): 70時間の歴史批評

世界史との対話(中): 70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2012/09/10
  • メディア: 単行本
世界史との対話(下): 70時間の歴史批評

世界史との対話(下): 70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2012/09/10
  • メディア: 単行本


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