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田尻信壹『探求的世界史学習の創造』(梓出版社) [授業研究・分析]

 一昨年出版された『世界史授業デザイン』(明治図書)の編著者である田尻先生の近著です。『世界史授業デザイン』は、歴史学と歴史教育の研究者による提言や視点の提供と、8本の授業モデルからなる本で、コンパクトにまとまっていて読みやすい本でした。しかし全体的な統一感を欠いた印象が感じられ、「提言」の域にとどまっていたように思われます。本書は、前著で示された視点をもとに、実際に使える授業を示した研究として、実に興味深い本です。
 高校で世界史を担当している教師が複数集まった時に話題になるのは、ほとんどが内容なのではないでしょうか?話題は最近の歴史学のトレンドや入試問題関係の話が中心であって、授業・学習論や学習方法が話題になることはあまりありません。たとえば、神奈川県高等学校教科研究会社会科部会歴史分科会編『世界史をどう教えるか』(山川出版社)の内容は、その書名にもかかわらず、「どう教えるかという方法」よりも「何を教えるかという内容」に重きを置いた本です。「グローバル・ヒストリーについてはよく理解していても、それを実際の授業に取り入れる、となるとどういう授業になるか思いつかない」「仮説実験授業という言葉は聞いたことがあるものの、具体的に内容は理解できていない」....本書はそうしたいわば世界史教師の「弱点」を補ってくれる本です。
 本書の「おわりに」の記述では、高校における世界史授業の現状が的確に指摘されています。曰く「知識獲得型の講義授業と探求的学習とは二者択一の問題ではなく、両者のバランスを図りながら相互補完的に実施されるべきである」「探求的な学習単元は知識獲得型の授業とのバランスの上に実施されるべきであり、その頻度も学校や生徒の実態に応じて検討されなければならない」、と。知識獲得型の講義授業は、「現状ではやむなし」ではなく、「探求的学習を行う上で必要」であるという考え、私も同意見です。私がモンゴル帝国に関する授業で構想したことは、まさに田尻先生が述べておられる「探求による知識の成長」でした(全国社会科教育学会編著『中学校・高校の優れた社会科授業の条件』明治図書に収録)。この点で、講義ベースの授業記録である小川幸司先生の『世界史との対話』と、探求型の学習を提案する本書は、世界史授業における車の両輪なのではないでしょうか。


探究的世界史学習の創造――思考力・判断力・表現力を育む授業作り

探究的世界史学習の創造――思考力・判断力・表現力を育む授業作り

  • 作者: 田尻信壹
  • 出版社/メーカー: 梓出版社
  • 発売日: 2013/04/06
  • メディア: 単行本



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