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『社会科教育』2016年10月号(No.690) [授業研究・分析]

 今年の夏は宮崎県進学指導研究会と熊本県の学習指導要領研究会で、アクティブ・ラーニングについて話をさせてもらったが、冒頭「原理主義者で抵抗勢力の私がアクティブ・ラーニングについて語るのは適当ではないかもしれない」と冗談交じりで断ってから話を始めた。内容をかいつまんで言うと、
 ①授業が対話的・協働的・深い学びの視点から改善されていけばいい。
  教師が一方的にしゃべるだけにならければ、まずはそれでいい。
 ②入試問題をグループ学習で取り組ませれば、アクティブ・ラーニングになる。
  ネタはセンター試験で使われた統計資料や、単文論述。
 ③グループ学習だけがアクティブ・ラーニングじゃない。
  「静かなアクティブ・ラーニング」も十分アリ。

というところ。「授業時数が足りずに話し合いなどに時間がとれない中、何をどう工夫してるか」という実践報告と言った方がいいかもしれない。ちなみに②で使ったネタは、今年のセンター試験世界史B(本試)の問題番号12(国名を消して考えさせる)、2000年度センター試験世界史B本試験第1問B の軍事費の推移、1990年度センター試験世界史(追試)第1問D 欧米主要国の経済、1999年度 世界史A(本試) 第4問B の鉄道の営業キロ数( 吉岡昭彦『インドとイギリス』岩波新書のインドにおける鉄道、飢餓の国の貿易黒字)、井上勇一『鉄道ゲージが変えた現代史』(中公新書 の鉄道ゲージの話などを先に読ませる)。③では、増田義郎『略奪の海カリブ』(岩波新書)を読ませて、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『アミスタッド』の奴隷貿易船の様子を見せる。そして1990年の神戸市立外国語大の砂糖と奴隷貿易に関する問題を考えてみる、というところ。


 アクティブ・ラーニングに関する実に興味深い記事を読んだ。『アクティブラーニングは「3つの構造的限界」によって学力が育たないようになっている』というタイトルである。筆者は国語の指導で知られている福嶋隆史先生。
 https://mine.place/page/151097cf-77f1-439d-8dd0-9bb010ae30fe

「時間の限界」「評価の限界」「知的な限界」を提示した上で、それぞれ論証してあり、正直「その通りだ」と納得してしまった。「時間の制約」「個別評価の困難さ」については、これを危惧しない地歴科の教師はいないだろう。「知的な限界」については、私もかつて中学校の歴史分野の授業を見たときに感じたことだ。なかでも最も「わが意を得たり」と感じたのは、アクティブな精神活動よりも身体的なアクティブさの方を優先する風潮に対する危惧である。なお、「負の影響」も2点あげてあるが、この点に関して私は何とも言えない。

IMG_1306.JPG


 「個別評価の困難さ」について、雑誌『社会科教育』10月号(No.690)で「アクティブ・ラーニングで評価はこう変わる」という特集が組んである。珍しいことに、高大連携歴史教育研究会のウェブサイトでも紹介してあった。この雑誌は以前小中学校の教員が主なターゲットであったが、最近は高校の教員向けの記事も増えてきた。アクティブ・ラーニングの導入に最もとまどっているのは高校、それも地歴科の教師であり、読者も増えているのだろう。「アクティブ・ラーニング祭」が本格化して以降、以前よりもこの雑誌を購入する頻度は私自身増えている。そうした中、10月号の特集はこの一年間で最も面白く、読み応えのある記事が多かった。その中で、印象に残った記事を2~3あげておきたい。

 アクティブ・ラーニングに関する指導では著名な小林昭文先生の記事は、最も興味深いものであった。小林先生は高校の理科(物理)の先生なので、内容も一般化されてり、小中学校の社会科教師向けに書かれた記事よりもはるかにわかりやすい。定期試験の点数だけというのは、目から鱗である。アクティブ・ラーニングの目的は、アクティブ・ラーナー(「学び続けることを幹に持つ、未知な問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人」九州大学基幹教育院のホームページより)の育成だと私は考えているが、その点も結果として出ている。

 高校における歴史授業の実践例として竹田和夫先生の「アクティブは反転学習から、評価はペア・班別総選挙で!」も大変興味深い記事であった。ただ反転学習に関しては、高校で実施可能かどうか私は懐疑的な意見を持っている。福嶋先生の記事で「時間の限界」「評価の限界」「知的な限界」という点が指摘してあったが、『社会科教育』10月号でも似たような問題点は指摘されている。①時数が足りない、②もっと活発に議論させたい、③評価に時間がかかりすぎるという3点だ(74㌻)。「時間の不足」という切実な問題について『社会科教育』の記事は、「アクティブ・ラーニングの実施によって生じる授業時間の不足を反転学習で補う」という提案がなされている。しかし、数学や英語、国語といった「取り立てが厳しい教科」の強制的課題さえ提出しない生徒が多い学校では、反転学習の実施はムリだと思う。おそらく大部分の生徒にとって地歴科目の課題などに費やす時間はないだろうし、私自身も世界史の授業に関して、テスト前以外の日常的な家庭学習など期待してはいない。

 高校教師向けに「社会科授業で使える この数字・このデータ」という記事もあったが、期待が大きかっただけに、ガックリ度も高かった。世界史にしろ日本史にしろ、この記事で紹介されている事項を知らない高校の教師が果たしているのだろうか?「蒙古襲来」の民族構成から国際環境を扱うなら、文永の役と弘安の役の比較をさせて南宋滅亡などの国際情勢の変化までをとらえさせるべきだろう。「蒙古襲来絵詞」で蒙古軍が使用してる弓の形状の違いも使える。「図版・写真等を素材としてる例の方が多いような気がしている」という指摘も疑問だ。世界史のセンター試験では確かに図版・写真も数多く使用されているが、数字やデータの方が「考えさせる」度合いはずっと高い。



社会科教育 2016年 10月号

社会科教育 2016年 10月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2016/09/12
  • メディア: 雑誌



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