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大学入学共通テスト(世界史) プレテスト [大学受験]

 現在のセンター試験は2020年から「大学入学共通テスト」に移行する。11月中旬から下旬にかけて試行調査(プレテスト)が行われ、先日問題と採点結果の速報が公開された。問題数は36で現行のセンター試験と同じだが、印象は大きく異なっていた。

 問い方では、 問題番号3の「下線部②の説について、どのような根拠が想定できるか。想定できる根拠として適当でないものを選べ」という設問が目をまず引く。また、3人の会話文から「①伸之が誤っている ②エレーナが誤っている ③ひとみが誤っている ④全員正しい」という選択肢がつくられているのも面白い(問題番号8)。この問い方だと、「①○○が正しい....④全員誤っている」という問い方も可能となる。その他4つの短文から正しいもの2つの組み合わせを選ぶという形式(問題番号21・24)もこれまでにない問い方であり、センター試験ではおなじみの年代整序問題も、絵画資料を使った新しい問い方であった(問題番号14)。絵画資料につけられた説明には歴史用語を一切使用せず、図版による看図アプローチで情報を補うという問い方であり、絵画資料そのものを問題とした問題番号5ともども、興味深い問題であった。公平を期すためには、使用する図版には注意を払う必要がある。しかし、これまでセンター試験で使われた図版には問題そのものとはあまり関係ない資料が多かったので、絵画資料そのものが問題と直結している点は評価したい。 2016年世界史Bではホルバインが描いたエラスムスの絵を使った問題が出題されていたので、このような問題はセンター試験でも出題されるのではないだろうか。

 会話文を使った問題も多かったが、中でも問題番号9は会話文と統計資料がヒントとして生かされており、よい問題である(ただし正答率は19.8%と低かった)。会話文には、外国ルーツと思われる生徒も登場しており、よく配慮されていた。グラフをはじめとした資料が多く提示されているのも大きな特徴であったが、折れ線グラフも現行センター試験のように「年号でなんとかなる」という問題ではなく、中国の人口動態の折れ線グラフで人口が増加している時期が二つ示され、それぞれの時期で人口増加した正しい理由を説明している組み合わせを選ばせるという、思考力を必要とする問題であった。系図を用いた問題番号21の正答率は45.4%とやや低かったが、これはある程度の知識も必要とするため、知識と読み取りを組みあわせることが難しかったと思われる。これまで系図そのものが問題となったのは、共通一次時代(84年本試験)にモンゴル帝国の系図が出題されたが、系図の一部が空欄となっており、そこにはいる人名を答えるというものであった。こうした問題を体験してきた世代としては、今回のプレテストは隔世の感がある。

その他、印象に残った問題は以下の通り。
・問題番号4・6:長い資料文である。読み取れる内容を答える文としては、1988年12月に実施されたセンター試験試行問題で孟子を扱った問題が出題されたことがあったが、今回の試行問題の方がやや難しかった。問題番号6の正答率は48.2%。
・問題番号18:上位概念を問う問題として、評価できる問題。しかし正答率は17.1%と最も低い。こうした問題は重要だと思うのだが。
・問題番号22:ジャガイモ飢饉が題材となっている。今でこそジャガイモ飢饉という語句は『世界史用語集』にも載っているが、私がジャガイモ飢饉のことを初めて知ったのは1995年の東大第3問で、『旺文社全国大学入試問題』の解答例では「じゃがいも疫病による大飢饉」となっていた。その後2003年の千葉大で論述問題の指定語句となり、2007年の東大第1問でも、指定語句に準じる扱いになった。2007年の東大第1問では、「アイルランド」「穀物法」が指定語句になっているが、ジャガイモ飢饉と穀物法の関係で面白い文章を読んだことがある。ジャガイモ飢饉に対して当時のピール内閣は米国からトウモロコシを輸入して対応しようとしたが、穀物法によってそれが難しかったため、廃止の機運が盛りがったという。だたし、その頃のアイルランドの農民たちはトウモロコシを粉に挽く手段がなかったため、トウモロコシは飢饉を救うことができなかったらしい。
・問題番号24:ヴィクトリア女王一家の肖像を見て、「この肖像画の背景には、女性が良き妻・母であることを理想とする家族観があると考えられる」という文章の正誤を判断する問題。19世紀ヨーロッパの家族観については、これまでにも出題されたことがあるが(1998年度 本試験 世界史A 第2問C)、絵画を使用して精神的な部分を読み取らせる点が斬新である。この問題で使われているヴィクトリア女王一家の肖像画(ヴィンターハルター作「1846年のロイヤル=ファミリー」)は、2013年世界史B本試(第4問C)にも使用された。ヴィクトリア時代のイメージ戦略という観点は同じだが、2013年センターではリード文に「女王は「貞淑な妻」「慈悲深い母」を演じた」という説明があり、解答そのものに関わる扱いではなかった。これまでのセンター試験と新テストとの違いを考える上で、よい比較となる問題である。
・問題番号25:センテンスを完成させる問題も、論理的な説明という点で評価できる。

 短期間でよくこれだけの問題をつくりあげたものだと感服する。作成担当の方々には、本当に大変なご苦労があったと拝察する。
 知識を活用した上で判断するという作業が必要なため、解答には現行のセンター試験よりも多くの時間が必要だったと思われる。面倒くさく感じた受験生も少なくなかったのではないだろうか。



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