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北村 厚 『大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合』(KADOKAWA) [授業研究・分析]

 北村厚先生の新著『大学の先生と学ぶはじめての歴史総合』(KADOKAWA)は、「歴史総合」を学ぶ高校生向けに書かれた本。会話調の文体で、とても読みやすい。高校生向けではあるが、 むしろ私のように「歴史総合」の授業を担当する教師にとって有益な本である。全国で行われている「歴史総合」の授業は、おそらく教師が一方的に話す知識伝達型(いわゆる講義型)がいまだに多いと思う(学習指導要領の学校現場における受け取り方については、『現代思想』2017年4月号81㌻~で岡﨑勝先生が指摘している通り)。しかし一方で、講義型の授業を行っている先生方の中にも、「これではいけない、自分の授業を変えていきたい」と思っている方も少なくはないのではないだろうか。そうした迷える教師(まさに私のことである)に、実際の授業の進め方を提示する本としてとても有り難い一冊である。これまでの歴史総合本は、教科書の内容をより詳しく解説した参考書か、教員向けの素材提供本だったが、いわば「知識の使い方」を示した本書は、両者の中間とも言える。「はじめに」にある「この本に書いているからといって、それがこの「問い」の正解だ!なんて考えてはいけない。」という一文に、本書のコンセプトがよく表現されている。
 本書の各章(全13章)は、それぞれメインの問いとサブの問いから構成されているが、このような問いの立て方と授業構成については、渡部竜也・井手口泰典『社会科授業づくりの理論と方法』(明治図書)が参考になる。8月に渡部先生が熊本に来られた際に模擬授業を受けたが、本書を読んでいてそのときの模擬授業を思い出した。本書を実践編、『社会科授業づくりの理論と方法』を理論編として併せて読むと実際の授業のイメージが掴みやすいと思う。
 また、「はじめに」にもあるとおり、「この本では歴史総合の全部の内容をあつかているわけじゃないから、そこは注意が必要だ」が、メインの問いに含まれるキーワードが、理解すべき「概念」として提示されている。この概念で「歴史総合」に含まれる内容の理解に必要なツールは、ほぼカバーされていると思う。市民社会や国民国家、立憲制、「文明化」といった言葉は、高校生が理解できるように説明することは難しい。こうした「概念」の扱い方も、自分の授業で取り入れていきたい。そして本書では割愛されている内容を、「コラム」で紹介されている本を使って、自分の勤務校の実態や関心にもとづいて授業をつくっていけばよいのでないか。渡部先生の模擬授業を受けたとき、同期の日本史の先生と一緒に問いを考えたが、メインの問いを「日露戦争の世界史的な意義は何か」と「日露戦争がアジアに与えた影響は何か」のどちらにするか、「影響」と「意義」はどう違うのか等色々と話ができて面白かった。自分の授業がブラッシュアップできそうな予感の一冊。


大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合

大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合

  • 作者: 北村 厚
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/10/31
  • メディア: Kindle版



社会科授業づくりの理論と方法 本質的な問いを生かした科学的探求学習

社会科授業づくりの理論と方法 本質的な問いを生かした科学的探求学習

  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2020/11/12
  • メディア: 単行本



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