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『1492』(1992年、アメリカ、リドリー・スコット監督) [歴史映画]

1492コロンブス

1492コロンブス

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2001/12/21
  • メディア: DVD

【問題1】
 「地理上の発見の時代」という用語は問題があるという理由で、「大航海時代」と言い替えられることがある。「地理上の発見の時代」という用語はどういう理由から批判されると考えるか。50字以内で述べよ。  (東京学芸大・1989)

【問題2】
 1992年に向け、スペイン政府などはアメリカ「発見」500年を記念する祝賀事業を計画している。これに対してラテン=アメリカ諸国では、意義を申し立てる動きが政府レベルだけでなく、多方面で繰り広げられている。この異議申し立てについて、150字程度で説明せよ。               (神戸市外語大・1990)


 2006年3月30日付けの朝日新聞に、DNA鑑定でコロンブスの出自を調査しているという記事が載っています。[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jinrui/keiji_ban/keiji_kiji.html] 没後500年を記念しての事業だそうですが、これまでジェノバ生まれの毛織物屋の息子という説が定説で、ジェノバの生家は観光名所となっているコロンブスですが、本人は出自を隠そうとした形跡もあり、実際は確定されていない。そこで、そのルーツを探ろうというのが今回のプロジェクトで、調査の中心はスペイン国立グラナダ大学の遺伝子鑑定研究所。まずスペイン南部セビリアの大聖堂に埋葬されている遺骨を、同じ場所に埋葬されている息子エルナンドの遺骨と比較した結果、Y染色体の解析により両者の親子関係が確定、その上で遺骨からコロンブス本人のDNA構造の解析に成功しました。その上で、イタリアやスペイン各地で「コロンブス」姓を持つ人からDNAを提供してもらい、本人のDNAと比較してみるという方法だそうです。同姓のDNAを国際規模で比較・分析するというプロジェクト、陸続きのヨーロッパならではの話ですね。結果が楽しみです。

 このコロンブスの夢と挫折を描いた映画が『1492』。浜島書店の世界史資料集にも、この映画からとった写真が使われており、コロンブスの新大陸到達から丁度500年後の1992年に公開された映画です。監督は『ブレードランナー』『エイリアン(1作目)』『グラディエーター』などのリドリー・スコット。その関係か、イサベラ女王は、『エイリアン』の主役シガニー・ウィーバーが演じています。
 野心家で欲深でありながら、先住民とは融和を図ろうと苦悩し、夢やぶれて挫折を味わい、それでも夢を忘れないコロンブスの人物描写は巧いです。しかし、結果が分かっているので、『グラディエーター』ほどの面白さはありません。でもさすがはリドリー・スコット、素晴らしい映像美です。『ブレードランナー』でも音楽を担当したギリシア人、ヴァンゲリスによるシンセによるカタロニア民謡風・グレゴリオ聖歌風音楽も、映像と巧くマッチしています。
 映画ではコロンブスが出発前から航海の見込み期間を短く告げるなど、部下を騙すシーンがありますが、『コロンブス航海誌』には以下のような記述があり、航海中進んだ距離を偽っていたことが確かです。


1492年9月9日 日曜日
この日は十五レグア(1レグアは約5.6キロメートル)進んだが、提督は実際に航行した距離よりも少なめの勘定をすることにした。それは、航海が遠距離に及んで、船員達がおそれを抱いたり、気力を失ったりすることがないようにと考えたからである。夜になって、一時間十ミリャ(1ミリャは約1.5キロメートル)で、都合百二十ミリャ、すなわち三十レグアを進んだ。 船員達の舵取りが悪く、船は北西、時には西北西へと流された。提督はこのため船員達を幾度も叱責した。

1492年10月10日 水曜日
西南西へ航走し、毎時十ミリャ、時には十二ミリャ、そして時々は七ミリャで進み、朝から夜にかけて五十九レグアを進行した。乗組員にはただの四十四レグアと告げた。ここで船員達は辛抱しきれなくなり、長い船旅の不服を申し立てた。提督は、得られるであろう幾多の利得に対する希望を大いに抱かせて、できる限り彼らを元気づけた。そして不平をいうことは無駄であり、インディアスへと出かけてきた以上は、我らの主のお助けによりインディアスが発見されるまでは、航海をつづけねばならないと付言した。

1492年10月12日 金曜日 (初上陸の日)
 上陸してみると青々とした樹木が見ええ、水もふんだんで、いろんな種類の果物が実ってぃた。提督は、二人の船長をはじめ、上陸した者達、およぴ船隊の記録官である、ロドリゴ・デ・エスコペード、ならびにロドリゴ・サンチェス・デ・セゴビアを呼んで、彼が、いかにしてこの島をその主君である国王ならびに女王のために、並居る者の面前で占有せんとし、また事実、この地において作成された証書に委細記されるように、必要な宣言を行ってこれを占有したかを立証し、証言するようにとのべた。
そこへ早速、この島の者達が大勢集ってきた。以下はこのインディアスへの第一回の航海ならぴに発見の書に記されている、提督のそのままの言葉である。 「私(提督がのべている)は、彼らが我々に対して親しみを抱くようにと考え、また、彼らは力ずくでよりも、愛情によって解放され、キリスト教に帰依する者達だと見てとりましたので、幾人かに、赤いボンネット帽と、首飾になる硝子玉や、その他たいして値打のないものをいくつか与えました。すると彼らは非常に喜び、全くすぱらしいほど我々になついてしまったのであります。
しばらくして彼らは、我々が居た端艇まで泳いできて、おうむや、綿糸の糸玉や、投げ槍や、その他色々なものをたくさん持参し、我らが与える硝子玉の数珠や鈴などと交換しました。つまり彼らはなんでも受取る代りに、持つているものは皆喜んでくれたのであります。しかし、私には、彼らはあらゆる面からみていかにも貧しい者達のように思えました。彼らは皆、母親が彼らを産み落した時と同じような状態の裸で歩いており、女連も同様でした。もっとも、非常に若い女は一人しか見かけませんでした。私の見たのはどれも皆若者で、三十歳以上の男は一人も見ませんでしたが、誰も皆姿がよく、美しい体つきをしており、顔立もなかなかよいのです。髪の毛は馬の尻尾の毛のように剛くて、しかも短く、眉毛の上まで伸ばしていますが、少しだけを後へ長くしていて、全然刈つておりません。 中には黒く塗っている者もありますが、被らは、カナリア諸島の者達と同じ肌色をしており、黒くもなければ、白くもありません。しかし、白く塗ったり、赤く塗ったり、その他手当り次第の色を塗りつけているのです。顔だけを塗っている者もあれば、体全体を塗っている者もありますし、また目だけとか、鼻だけを塗っている者もおります。彼らは武器を持つていませんし、それがどんな物かも知りません。私が彼らに剣を見せましたところ、刃の方を手にもって、知らないがために手を切ってしまったのであります。鉄器は全然持っておらず、その投げ槍は、鉄の部分がない棒のようなもので、尖きに魚の歯などをつけております、彼らは皆そろって背丈が高く、顔つきもよく、よい姿をしているのであります。私は、身体に傷跡のある者を幾人か見ましたので、それほどうしたのかと手真似できいてみましたところ、彼らは、近くの島の者がやってきて捕えようとしたため、身を守ったのだという様子を示しました。これは、大陸からこの島へ彼らを補えにやってくるのだと私は思いましたし、また現にそう考えております。彼らは利巧なよい使用人となるに違いありません。事実、私が彼らにしゃべることを、彼らは皆すぐにロにいたします。私は、彼らは簡単にキリスト教徒になると思います。彼らはどんな宗教も持っていないようなのであります。私は、神の思し召しにかなうなら、この地を出発する時には、言葉を覚えさせるために、六人の者を陛下の下へ連れて行こうと考えております。この島では、おうむ以外の動物は全く何も見ませんでした」これはすべて提督の言葉である。



 コロンブスが新大陸に町を建設するとき、「設計者はレオナルド=ダ=ヴィンチ」というシーンがありますが、これは本当でしょうか?コロンブスが更迭される際に、ボバディリャという人物が代わりに派遣されることになりますが、これは事実。『大航海時代叢書Ⅰ』(岩波書店)の解説によると、コロンブスを捕らえて鉄鎖をつけて幽閉、本国に送還したのはこの人物のようです。映画では二人が話あうときに、新大陸の発見者としてアメリゴ=ヴェスプッチの名前が出てきます。アメリゴの名は最後にも出てきますが、ボバディリャがサント・ドミンゴに赴いたのは1499年、イタリア生まれのヴェスプッチがスペインの市民となるのは1505年ですから(ヴェスプッチはメディチ家の社員としてスペインに赴いていた)、これはフィクション。『大航海時代叢書Ⅰ』には、ボッティチェリが描いたヴェスプッチの肖像画が載っています。
コロンブス航海誌

コロンブス航海誌

  • 作者: クリストーバル・コロン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1977/01
  • メディア: 文庫
コロンブスが持ち帰った病気―海を越えるウイルス、細菌、寄生虫

コロンブスが持ち帰った病気―海を越えるウイルス、細菌、寄生虫

  • 作者: 藤田 紘一郎, ロバート・S. デソウィッツ
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 1999/11
  • メディア: 単行本
大航海者コロンブス 世界を変えた男

大航海者コロンブス 世界を変えた男

  • 作者: サミュエル・エリオット モリスン
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 1992/01
  • メディア: 単行本
航海の記録

航海の記録

  • 作者: コロンブス, ガマ, マゼラン, アメリゴ, バルボア
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1965/07
  • メディア: 単行本
裁かれるコロンブス

裁かれるコロンブス

  • 作者: ラス カサス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1992/05
  • メディア: 単行本
コロンブス

コロンブス

  • 作者: 増田 義郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1979/08
  • メディア: 新書
コロンブス提督伝

コロンブス提督伝

  • 作者: エルナンド コロン
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞
  • 発売日: 1992/08
  • メディア: 単行本
コロンブスからカストロまで―カリブ海域史、1492‐1969〈1〉

コロンブスからカストロまで―カリブ海域史、1492‐1969〈1〉

  • 作者: エリック ウィリアムズ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 単行本

世界史映画教室

世界史映画教室

  • 作者: 家長 知史
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/07
  • メディア: 新書

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