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『スパルタカス』(スタンリー・キューブリック監督、1960年、アメリカ) [歴史映画]

【映画について】
 制作総指揮および主演カーク・ダグラス、監督は『時計仕掛けのオレンジ』等で知られる奇才スタンリー・キューブリック。元々は別の監督が担当する予定でしたが、カーク・ダグラスと対立したために急遽スタンリー・キューブリックが起用されることになりました。『エスクワイア』の記事[http://www.esquire.co.jp/scenario_i/scenario_47.html]を参照。
 カーク・ダグラスはユダヤ系ベラルーシ人で、息子マイケル・ダグラスも俳優(『グラディエーター』のリドリー・スコット監督の『ブラック・レイイン』で松田優作と共演)。スパルタクスのライバル、クラッスス(Crassus字幕ではクラサス)は、シェークスピア物に多数出演している名優ローレンス・オリヴィエ、剣闘士養成所の経営者レントゥルス・バティアトゥス(Batiatus映画ではバタイアタス)は、『クオ・ヴァディス』でネロ帝を演じたピーター・ユスティノフと豪華な共演人。スパルタクスの相手役は、清楚な女優ジーン・シモンズ。小学生のころ『ミュージック・ライフ』という雑誌で、「シェール(アメリカの女性シンガー)は、娘から『(アメリカのロックバンドKISSのベーシストで、口から火をふくなどのパフォーマンスで有名な)GENE SIMMONS のサインをもらってきて』と頼まれ、間違って女優のJEAN SIMMONSのサインをもらってきた」という記事を読んだことがあります(笑)。

【ストーリー】
キネ旬報DB[http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=4829]

【見どころ感想その他】
 以前ゴラン・ヴィシュニック主演でリメイクされた『スパルタカス』を紹介しましたが、こちらのオリジナルのほうが圧倒的にスケールが大きいです。ゴラン版はテレビ番組用に撮影されたものなので、制作費(カーク版は当時1200万ドルという破格の制作費)や作品自体の長さが違うので、これはいたしかたないところでしょう。今だと『トロイ』のようにCGを使う大舞台での戦闘シーンも、当時はすべて実写。最後の決戦で、陣形を組んで進軍してくるローマ軍とスパルタクス軍との戦闘シーンは圧巻です。
 脚本のダルトン・トランボ(赤狩りで追放された、いわゆる「ハリウッド・テン」の一人)の好みなのか、スパルタクスの最期のシーンを頂点として全体的にメロドラマ的な要素が強い感じがします。これも好みの問題だとは思いますが、素直に感動できます。特に終盤、反乱軍の降伏後にスパルタカスを指し示したら命は助けてやると言うローマ軍に対し、“I'm Spartacus!”と叫んで仲間たちが立ち上がるシーンから、アントナイアスが死ぬ場面、そして十字架上のスパルタクスとバリニアとの再会と別れまでは泣けます。
 この作品の素晴らしい点は、サブキャラの人物描写が優れている点です。ゴラン版ではクラッススは単なる憎まれ役でしたが、カーク版ではローレンス・オリヴィエの名演とも相まって、なかなか一筋縄ではいかない人物に描かれています。さらにいい味を出しているのがピーター・ユスチノフ演じるバタイアタス。クラッスス来訪の知らせを受けて、グラッカスの胸像を隠せと命じたり、「2番目にいいワインを出せ、いや一番だ、小さい器で」とか、常に金で動くといった俗物根性丸出しが笑えます。佐藤賢一氏の小説『剣闘士スパルタクス』では、このバタイアタス(小説ではレントゥルス・バティアトゥス)、剣闘士あがりの解放奴隷で、ちょっと卑屈な人物(ラストでスパルタクスとすり替わる)として描かれていますが、この点映画で「太っていて走れない」というバタイアスとの落差が笑えます。多分佐藤氏は、古典とも言えるこの有名な映画と比較した「あまりの違い」というおもしろさを狙ったのでしょう。どちらがより実像に近いかは、永遠に不明。
 この映画には序盤から終盤までカエサルも多く登場します。彼が家を建てた場所について「民衆派(ポプラレス)」であることを示すシーンもあります。ただし彼が政治の表舞台に登場するのは、もう少し後、スパルタクスの乱鎮圧後のことです。
 ところで元老院のシーンで、議場に「ローマの雌狼」の置物が見えますね。ロムルスとレムスの像は見えませんけど。その台座に「SPQR」という文字があるのに気づきましたか?これはラテン語の「Senatus Populusque Romanus」の略語で、「元老院とローマの市民」、すなわち古代ローマの国家全体(共和制ローマ・ローマ帝国)の主権者を意味する言葉です。また、「紳士淑女諸君」という感じで、演説などの冒頭の挨拶にも使われていました。詳しくはWikipediaの記事[http://ja.wikipedia.org/wiki/SPQR]を見て下さい。
 DVDには興味深い特典映像が数多く収録されています。ロンドンでのプレミア上映には、マーガレット王女やインドのネルー首相の妹、チャーチルの娘などが来場した様子が収録されています。イギリス版とアメリカ版で違うシーン(スパルタクスとバリニアが最初に会う場面)が収録されていますが、なぜイギリス版とアメリカ版では違ったのでしょうか?バリニアが服を脱ぐシーンがあったからでしょうか?
 見ていて気になったのは(どうでもいいことですが)、現在日本で一般的に使われている人名と、字幕の名前が一致しないこと。 クラッススをはじめ、グラックス(Gracchusu)→グラッカス、アントニウス(Antoninus)→ アントナイナスとか。

スパルタカス スペシャル・エディション

スパルタカス スペシャル・エディション

  • 出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
  • 発売日: 2006/09/21
  • メディア: DVD


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plot

カーク・ダグラスが演じるスパルタカス、確かに観ているのですが(劇場ではなくTVの短縮版で)キューブリック作品とはまったく意識しませんでした。機会があったらDVDできちんと見直してみたいです。
by plot (2006-08-28 17:16) 

Missa

はじめまして

古代から中世の歴史が大好きです。専門的な詳しい解説が素晴らしいので、リンクさせていただきました。また見せていただきます。

ちょうどカーク・ダグラスの別の映画「バイキング」のロケをした要塞を訪ねましたので、そのことを書いたところです。
by Missa (2006-08-29 01:54) 

zep

>plotさん
 もうすぐ夏も終わりですね。私には「地中海性気候だからイタリアの夏は乾燥している」だろうというステレオタイプの知識しかありませんが、plotさんのブログを拝見し、いつも勉強させていtだいてます。さてこの「スパルタカス」ですが、私もキューブリック監督の作品と知ったのは、初めて見てからずいぶんとたってました。キューブリック自身は「あれはオレの作品ではない」と言っているそうですが、確かに脚本と主演のカーク・ダグラスのインパクトが強すぎる感じはします。その後改めて見直して、「キューブリックやなぁ」と思ったのは、燃える草が転がってくる一大スペクタクルな戦闘シーンと、その後の死屍累々たる光景の時でした。
>Missaさん
 こんにちは。ブルターニュに特化したウェブサイトってのも珍しいですね。こだわりが感じられます。何年前だったか、上智大の世界史の入試問題で、「大ブリテンと「大」をつけるのはなぜか」というブルターニュに関する問題が出題され、思わず絶句した記憶があります。「バイキング」のロケ地にいかれたのですが!あの映画も面白いですよね。最近廉価で再発されて、DVD買おうかと思っているところです。
by zep (2006-08-29 20:23) 

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