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ルイ=フィリップのコイン [モノ教材(貨幣)]

 七月革命でフランス王に即位した、オルレアン公ルイ=フィリップのコイン(小田中先生によると、ルイ=フィリップ1世と「1世」をつけるのが正しいらしい)。右側の銅貨は1839年、左の銀貨は1847年の発行。いずれもYahoo!オークションで、2100円と2200円でした。正面から見ると、顔が「洋梨」に似ているという王様です。
 ルイ=フィリップは、今なお存続しているフランス外人部隊の創設を認可した国王でもあります。2005年、イギリスの民間警備会社に勤務していた日本人がイラクで殺害され、この人がかつてフランス外人部隊に所属していたというニュースは記憶に新しいところです。フランス外人部隊ということで、小田中先生の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、8月8日付けの記事で「フランス人が外人部隊に入隊する場合、フランスとは別の国籍を自称しなきゃならないのはなぜか」という問題が出ております。本日13日付けの記事ではすでに答えが掲載されていますが、「徴兵制に関係するのではないか」という私の直感は、かなりイイ線をいっていたのではないかという自画自賛。

 東大の2006年の第1問に、次のような問題が出題されました。

第1問
 近代以降のヨーロッパでは主権国家が誕生し,民主主義が成長した反面,各地で戦争が多発するという一見矛盾した傾向が見られた。それは,国内社会の民主化が国民意識の高揚をもたらし,対外戦争を支える国内的基盤を強化したためであった。他方,国際法を制定したり,国際機関を設立することによって戦争の勃発を防ぐ努力もなされた。
 このように戦争を助長したり,あるいは戦争を抑制したりする傾向が,三十年戦争,フランス革命戦争,第一次世界大戦という3つの時期にどのように現れたのかについて,解答欄(イ)に17行(510字)以内で説明しなさい。その際に,以下の8つの語句を必ず一度は用い,その語句の部分に下線を付しなさい。 

 ウェストファリア条約   『戦争と平和の法』   ナショナリズム   国際連盟
 総力戦   平和に関する布告   十四ヵ条   徴兵制


 最初「徴兵制」の語句をどこで使うか困ってしまったのですが、ここはフランス革命で徴兵制がはじめて採用されたことに言及するのがいちばん良い。つまり「フランス革命戦争期に現れた、戦争を助長しようとする傾向」ということ。
 徴兵制は、教育と並ぶ国民統合の手段の一つ。「文化的要素を共有すると信じる人々の集団」の形成を促進します。したがって徴兵制にもとづいて編成される軍隊は、「フランス人=フランス国籍を持つ人々」によって編成される必要がある。したがって、「正規軍とはいえ、徴兵制に基づかない志願兵によって構成された外人部隊は、フランス人であってはならないから」、というのが私の予想でございました。ゲーテが、フランス軍がプロイセン軍を破ったヴァルミーの戦いをして「ここから、そしてこのときから世界の歴史の新しい時代が始まる」と評したのは、この徴兵制にもとづく国民軍という「進歩的な」軍隊が、「世界で二番目に古い職業」である傭兵(菊池良生『傭兵の二千年史』講談社現代新書)によって構成された軍隊を破ったから、というのも有名な話。死亡率が高い地域には非フランス人の部隊を派遣すべき、ということから外人部隊が生まれたという話がWikipediaに書いてありますが、これもも徴兵ではなく志願した職業兵士による部隊が編成される一因となったように思います。答えをトラックバックで寄せていた方によると、小田中先生の『フランス七つの謎』にもこの徴兵制の話は載っているようです。(小田中先生がウチの学校に来られたとき、名前入りの本をいただき、拝読したのですがすっかり忘れていました(クスクスの話は覚えてましたが)。

 さて、今回は「なんでフランス人は『国防=権利』って考えるのか。ちなみにそのヒントは『最後の授業』」という問題。アテネなどの古代ギリシアのポリスにおける重装歩兵部隊も、「国防=権利」という考えに近いような気もしますね。
 ドーデの「最後の授業」というと、僕はプロイセン=フランス戦争の話をするとき、いまだにとってある小学6年生のころの国語の教科書を教室に持って行っており、これをネタに1時間くらいは話ができそう。なんだけど、この話が「国防=権利」という考え方とどう結びつくのかというのは、わかりません。
 田中克彦『ことばと国家』(岩波新書)によれば、アルザスはもともとドイツ語圏であったらしのですが(この事実が明らかになったことから、わが国の国語の教科書からは「最後の授業」が消えてしまった)、「文化的にはフランス」らしい。2006年の筑波大学の入試問題には、次のような問題が出題されています。

 アルザス・ロレーヌ(エルザス・ロートリングン)地方は,地理的にはフランスとドイツの中間に位置し,言語的にはドイツ系であるが,文化的にはフランスヘの帰属意識が強い。鉱物資源が豊富であったため,フランスとドイツのあいだで抗争の原因ともなった。近世から現代までのアルザス・ロレーヌ地方をとりまく歴史を以下の語句を用いて述べなさい。
  ウェストファリア条約  ビスマルク  ブーランジェ将軍  フランス革命
  ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体

 「文化的にフランスへの帰属意識が強い」ことになったのは、「フランス革命」の際に「徴兵制」その他の政策によってフランス国民意識をアルザスにも持ち込むことに成功したからでしょう。

 ということで、私なりの一応の答えは「フランス人が国防を権利だと考えるのは、国防は自国の文化を護ることでもあると考えているから」。さて、どうでしょうか。
元の記事[http://wiredvision.jp/blog/odanaka/200708/200708130001.php]


ことばと国家 (岩波新書)

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消えた「最後の授業」―言葉・国家・教育 (国語教育ライブラリー)

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最後の授業 (偕成社文庫 (3196))

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  • 作者: アルフォンス・ドーデ, 桜田 佐, Alphonse Daudet
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