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荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』(平凡社新書) [幻想文学]

 最近、小林多喜二の『蟹工船』が売れているという。月刊『民主文学』6月号は、小林多喜二の特集でありました。格差社会におけるおける「ワーキングプア」の大量出現という社会状況がその背景にあるようですが、そこで思い出したのがこの本。プロレタリア文学の運動や思想はさておき、純粋に「物語」「小説」として読むとムチャクチャ面白い、という快著。プロ文というのは、内容も、その作家の生活も実に「ものすごい」というのを実感した次第。「ものすごい」という表現は、「いかがわしくておもしろいものなんでもあり」というニュアンスで、言い得て妙。

 著者にかかれば、『蟹工船』はスプラッターホラー小説となってしまう。その他江戸川乱歩に通じる怪奇と幻想、探偵小説もあれば、セックス小説もある、といった具合。高校時代の国語の教科書に載っていた『セメント樽の中の手紙』の作者、葉山嘉樹も「ものすごい」。実際の作品を読むより、この本読んだ方がずっと面白く感じるかも?

 プロ文とグラン・ギニョールで上演された作品をはじめとするフランス世紀末文学との共通性が指摘されているのはなかなか面白い。たしかに葉山嘉樹の『淫売婦』は、国書刊行会の「フランス世紀末叢書」シリーズの一冊としてでていたユイスマンスの『腐爛の華』を彷彿とさせます。

 教科書には「空想的社会主義者」として登場するフーリエが、伊藤野枝が提起した「汲みとり問題」(誰もが自由で平等な理想社会において、便所の汲みとりのように誰もが嫌がる仕事は、いったい誰がやるのかという真面目なんだかそうでないんだかよくわからない問題)の解決法を提示しているというのは、なかなか傑作な話だ。

 この本が出版されたのは、2000年の10月。このころは「プロレタリア文学を単に物語としてしか方法のない時代」(16ページ)だったのだけど、『蟹工船』が売れる今の状況は......。



プロレタリア文学はものすごい (平凡社新書)

プロレタリア文学はものすごい (平凡社新書)

  • 作者: 荒俣 宏
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 新書



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