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『ブーリン家の姉妹』(ジャスティン・チャドウィック監督、2007年、イギリス) [歴史映画]




【映画について】
 原題は『The Other Boleyn Girl』で、フィリッパ・グレゴリーによる同名小説の映画化作品。アン・ブーリン役にナタリー・ポートマン、アンの妹メアリ役にはスカーレット・ヨハンソンという若手実力派女優が競演し、ヘンリ8世はエリック・バナが演じています。なおフィリッパ・グレゴリー原作の映像化として、2003年にもBBCにてテレビ版が製作されているようです。
 脚本は、エリザベス2世を演じたヘレン・ミレンがアカデミー賞の主演女優賞を得た『クイーン』[http://queen-movie.jp/]で脚本を担当したピーター・モーガン。また『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー衣装デザイン賞を獲得したサンディ・パウエルが衣装を担当し、プロデューサーとしてケイト・ブランシェットの『エリザベス』を担当したアリソン・オーウェンがクレジットされるなど、テューダー朝イングランドを描いた映画関係者が名を連ねています。

【ストーリー】
 シネマトゥデイ [http://cinematoday.jp/movie/T0006549]
 公式サイト(日本) [http://www.boleyn.jp/]
 
【見所など】
 これまでのヘンリ8世は、『わが命つきるとも』や『キング・オブ・サンダー』など、ホルバインの肖像画にもとづく俳優がほとんどでしたが、今回はエリック・バナがヘンリ8世役。エリック・バナというと、『トロイ』のヘクトル役や『ミュンヘン』のヒットマン役など「いつも憂鬱」そうな表情の役が多く、ちょっと疑問だったのですが、これはよい配役だったように思います。ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンの二人がかなりモダンな役作りですが、ブーリン姉妹の母エリザベスやノーフォーク公、キャサリン=オヴ=アラゴンなど、脇役が渋い演技を見せているので、映画全体を落ち着いたものにしているようです。キャサリン役の アナ・トレントという女優は、実際にスペインの女優さんのようです。

 映画中、姉妹の父トマス・ブーリンが妻のエリザベスに対して、妻の裕福な実家について触れるシーンがありますが、これは史実通り。トマスはもともとナイトでしたが、エリザベスの父は名門ノーフォーク公の二代目当主トマス・ハワードです。「ハワード」という姓からわかるように、ヘンリ8世の5番目の王妃となるキャサリン・ハワードとは深い関係があり、トマス・ハワードはアン・ブーリン、キャサリン・ハワード二人の祖父にあたります。したがってアンとキャサリン・ハワードはいとこ同士、ということになります。アンとキャサリン、ともにヘンリ8世によって処刑されるとは、なんとも皮肉な話。

 アン・ブーリンが1男2女の3人兄弟だったのは史実通りですが、出生の順番は正確には分かっていません。映画ではアンが姉、メアリーが妹となっていましたが、アンが妹とする説もあります。映画ではアンがフランス宮廷に行ったのは、ノーザンバーランド伯パーシー卿とあげた秘密裏の結婚のほとぼりをさますためとされていましたが、記録ではアンがフランス宮廷に渡ったのは、ヘンリ8世の妹メアリがフランスのルイ12世に嫁ぐときです。ノーザンバーランド伯との関係は、アンがフランスから帰ってきてからのことのようです。

 映画で私が最も注目したのは、アンの処刑です。以前コメントで指摘があったように、アンの処刑は、一緒に兄弟のジョージと異なりフランス式でした。処刑に際してフランスからわざわざ処刑人を呼び寄せたというのも史実のようです(森護『英国王妃物語』)。

 歴史的な背景を知っておくと、知らないよりも楽しめる映画だと思います。まずヘンリ8世の最初の王妃キャサリンは、コロンブスの航海を支援したカスティリャ女王イサベルとアラゴン王フェルナンド2世の間に生まれた女性で、スペイン王カルロス1世(神聖ローマ皇帝カール5世)の叔母にあたります。カール5世というとフッガー家の関わりもあってマルティン=ルターの宗教改革を弾圧した人物。当然ながらローマ教皇とは親密な関係にあり、当時の教皇クレメンス7世に対して、叔母の離婚を認めないように動いたのは当然のことでしょう。

 小説の映画化なので、重要な話が抜けているのは仕方がないところですが、トマス=モアに関しては扱ってもよかったかも。『わが命つきるとも』もあわせて見ると、よいと思います。その後、ケイト・ブランシェットの『エリザベス』『エリザベス・コールデン・エイジ』、ヘレン・ミレンの『エリザベス1世』などを見ると、うまくつながるでしょう。



 
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