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今年の東大の問題 [大学受験]

【第一問】  「帝国」は、今日において現代世界を分析する言葉として用いられることがある。「古代帝国」はその原型として着目され、各地に成立した「帝国」の類似点をもとに、古代社会の法則的な発展がしばしば議論されてきた。しかしながら、それぞれの地域社会がたどった歴史的な展開はひとつの法則の枠組みに収まらず、「帝国」統治者の呼び名が登場する経緯にも大きな違いがある。
 以上のことを踏まえて、前2世紀以後のローマ、および春秋時代以後の黄河・長江流域について、「古代帝国」が成立するまでのこれら二地域の社会変化を論じなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その語句に下線を付しなさい。
漢字  私兵    諸侯     宗法
属州  第一人者  同盟市戦争  邑





 要求は、「古代帝国」が成立するまでの、地中海地域と黄河・長江流域の社会変化。「社会変化」なので、経済と政治両方書きたいところ。経済的変化が政治的変化をもたらしたという流れにもっていきたい。
ローマ・・・・都市国家の共和政から広大な領域国家の帝政へ変化
    属州から安価な穀物が流入したことで、中小農民が没落(経済)
     →内乱の一世紀(帝政準備の時期)
    同盟市戦争でローマの領域は拡大(政治)
    アクティウムの海戦以後、地中海全体を支配して領域はさらに拡大(政治)
    様々な民族を含んだ帝国全体をまとめる共通のローマ文化(文化)
    市民の第一人者として元老院と共同統治の姿勢を示す皇帝  
中国・・・・・・血縁に基づく分権的な封建制から官僚制に基づく集権的な郡県制へ変化
    鉄製農具や牛耕の普及で農業生産力が向上(経済)
     →氏族の統制はゆるみ、封建制度も崩壊(政治)
    王への権力集中が進み、戦国の七雄から秦が台頭し、中国を統一(政治)
    王以上の称号の必要性から生まれた皇帝

 「漢字」が指定語句なので、ローマ字もしくはラテン語も使いたい。


 駿台予備校が発表した「分析シート」の解説はとても詳しく、参考になった。特に「一見、京都大のような300字論述×2と思えるが、単純に帝政確立までの政治史を羅列する問題ではない。……どのような「社会的変化」が政治にいかなる影響を及ぼし、政治体制の変化の原因となったのか?という因果関係に留意をしながら論旨を展開することが求められているのだ。」という指摘は、なるほどと思える。東進の分析「指定語句の「宗法」・「邑」から,設問で要求されている春秋戦国時代以前の状況説明も求められていることを見抜きたい。」という的外れな分析とは雲泥の差。だいたい解答例を二つ発表するということ自体、予備校としての力のなさを示しているように感じられる。
「社会的変化」に関して、中谷臣先生のブログ『世界史教室』の2016年8月27日のエントリーを読んでいた人は、ピンと来たのでは?
駿台はセンター過去問の解説も、いちばんいいと思う(青い表紙の『センター試験過去問題集』)。

解答例をつくってみたものの、あまり自信はない....。
【解答例】
ローマでは、ポエニ戦争でカルタゴを滅ぼした前2世紀以後、属州から安価な穀物が流入し始め、政治・軍事の担い手であった中小農民が没落した。この結果動揺した共和政を立て直すため実施されたグラックス兄弟の改革は失敗し、有力者が私兵を率いて争う内乱の一世紀となった。前1世紀初めには同盟市戦争がおこり、イタリア半島内の自由民に市民権が拡大されたが、この結果ローマは都市国家から半島全体の領域国家へと成長した。前1世紀後半、オクタヴィアヌスが地中海世界を統一してローマは多民族を含む帝国へと成長したが、共通語であるラテン語も帝国の統一に寄与した。また彼は元老院からアウグストゥスの称号を受け、事実上の帝政を始めたが、独裁を嫌うローマ市民に配慮し、市民の第一人者として元老院との共同統治という形式をとった。一方、黄河・長江流域では春秋時代以後、宗法にもとづく氏族の統制がゆるみ、氏族共同体が形成したも衰退したため血縁にもとづく封建制度は衰えた。さらに戦国時代にはいると有力諸侯が王を称し、自らに権力を集中させて富国強兵策をすすめた結果、戦国の七雄と呼ばれる七つの強国が並び立ち、互いに争った。この中から台頭した秦は他の6国を征服し、黄河から長江流域まで地域を統一した。秦王政は王に代わり皇帝を称し、郡県制にもとづく中央集権化を進めた。彼はそれまで地域ごとに異なっていた漢字も統一し、帝国の統一を進めた。(595文字)


「漢字」の語句は始皇帝の小篆から帝国の統一政策として使ってみたが、山川の『詳説世界史』の69㌻にある「中国文化圏の拡大と中国としての一体感」として使った方がいいかもしれない。駿台の分析で述べられている「この問題がなぜ中国という言葉を敢えて使わないか?」という点につながる。

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