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「怖い絵展」と「バベルの塔展」 [授業ネタ]

 兵庫県立美術館で開催されている「怖い絵展」と、大阪の国立国際美術館で開催されている「バベルの塔展」に行ってきた。

 兵庫県立美術館の屋上には、カメレオンのような奇妙なオブジェが鎮座している。これは「美カエル(みかえる)」という名のカエルのキャラクター。JR灘駅を出てまっすぐ進むと(「ミュージアムロード」)見えてくる。天候によっては、空気が抜けて萎んでるとのこと。
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http://www.artm.pref.hyogo.jp/diary/museumroad/mikaeru.pdf



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 ポール・ドラローシュ「レディー・ジェーン・グレイの処刑」は、「怖い絵展」の目玉作品。名画か?と問われると返答に困るが、目が離せなくなる不思議な吸引力を持っている。不気味な題材を、これでもかというほど写実的に描いているからだろう。刑吏が持つ斧の刃、腰につけた傷口を切りそろえるためのナイフ、囚人を後ろ手に縛るための縄。映画『クロムウェル』中のチャールズ1世が処刑される場面では、刑吏は覆面をしていたが、この絵では素顔をさらしている。非公開の処刑だったせいかもしれない。また同映画では、チャールズ王は手を縛られず、「自分が手を前に差し出したら、それが合図だ」とも言っていた。図録にもあるとおり、実際の処刑は屋外で行われている。したがって写実的な絵ではあるものの、正確ではない。写実的な表現と歴史的な物語趣味を合体させ、さらに歴史的正確さよりも見る人の興味関心を優先させた絵。こうしたサロン絵画の性格を高階秀爾氏は「映画」的と評していたが、まったくその通りだと思う。「レディ・ジェーン/愛と運命のふたり」でレディ・ジェーンを演じたのは、コスチューム・プレイの女王ヘレナ・ボナム=カーターだった(「ハリー・ポッター」シリーズのベラトリックス、「英国王のスピーチ」のエリザベス王妃、「ブリティッシュ・キングダム」シリーズの「キング・オブ・ファイヤー」でアン・ブーリン)。
 作者のドラローシュについて、Wikipediaには「初のサロン(官展)出品作は1822年の『ヨアシュを救うエホシェバ』と『キリストの十字架降下』。このときのサロンでジェリコー、ドラクロワと知り合い、親交を結ぶ。ドラローシュ、ジェリコー、ドラクロワの3名は当時パリで活動していた数多くの歴史画家たちのなかでも中核的存在となる。」とある。「怖い絵展」に模写が展示されていたジェリコーの「メデューズ号の筏」の中で、中央手前のうつぶせになっている人物は、ドラクロワがモデルだという説がある。ロマン派の先駆ジェリコーや彼の影響下でロマン派の大家となったドラクロワと並べると、ドラローシュはいささか見劣りがするように感じる。
 19世紀の美術評論家テオフィル・ゴーティエは、「美術館に来て絵そのものよりも描かれている題材にばかり関心が向く人は、本当に絵の好きな人とは言い難いが、ドラローシュはそうしたタイプの観客の興味をひきつけようとした」と述べている。題材に関心が向きがちな私自身ことを言われているようでドキッとした。
 そのほか、象徴主義のギュスターヴ・モロー、ラファエル前派のウォーターハウス、そしてピアズリーと世紀末系が好きな人にはツボなアーティストの作品がきていた。

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 ベルギーには「ブリューゲリアーン(ブリューゲル風)」という表現があるという。素朴で飾らないが質実剛健、ビールと血入りソーセージで飲んだくれ一歩手前まで陽気に楽しむ....といった感じ。教科書や資料集に掲載されている「農民の撮り」や「農民の結婚式」などを観ると確かにそういった雰囲気が伝わってくる。しかし「バベルの塔」は、ブリューゲリアーンとはずいぶん趣が異なる。精緻にして幻視的。サイスが小さいため、精緻さはより増している。旧約聖書をモチーフにしたこの作品、ブリューゲルはどういう想いで描いたのだろう。「バベル」の前はパーティションポールが置かれており、「動きながらのご観覧をお願いしております、立ち止まらないで....」と係員がアナウンスするくらいの行列だったが、個人的には「バベル」よりも、ヒエロニムス・ボスの2作品の方が良かったような気がする。様々な寓意とシンボル、奇妙なバランス。奇想と幻想の王者。

 さて、「怖い絵展」と「バベルの塔展」両方にあったのが、「聖アントニウスの誘惑」である。どちらもボス風の絵で、最初は同じモノではないかと思ってホテルに帰って図録を見比べてみたところ、かなり違っていた。どちらの絵にも向かって左上に火災が描かれている。そういえば「聖クリストフォロス」にも火災の様子が描かれていた。「聖アントニヌスの誘惑」というと、映画「ベラミの私事」のために開かれたコンテストが有名だが、1位のマックス・エルンスト、3位のポール・デルヴォーよりも、落選したダリの作品が最高。ボスの「聖アントニウスの誘惑」は、ポルトガルのリスボン国立美術館にある。

 スペイン王フェリペ2世はボス作品のコレクターだったようで、プラド美術館には大作「快楽の園」をはじめ多数のボス作品が収蔵されている。プラドには当然ながらゴヤやベラスケスの作品も収められているので、死ぬまでに一度は行ってみたい。今回ウチの学校のダンス部がテーマにしたピカソの「ゲルニカ」も1992年までプラドにあった。死ぬまでに一度....と言えば、もう一つウィーン美術史美術館。「大バベル」をはじめブリューゲルの作品多数。そういえばベラスケスのマルガリータは、プラドとウィーン両方にあるな。

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 それにしても、地方と都会との格差を改めて実感。兵庫駅の近くに宿泊したのだが、兵庫駅から大阪駅まで快速で30分ちょっと。三ノ宮で新快速に乗り換えればもっと早く着く。料金は550円!....ウチの近所のバス停から熊本市内まで行くにはバスしかなくて時間帯によっては時間90分以上、運賃800円くらいかかる。
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