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『闇の奥』から『「闇の奥」の奥』へ [歴史関係の本(小説以外)]

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 昨年2年生の「英語表現」の授業で、戦場カメラマン沢田教一のことが取り上げられていたので、世界史の授業でもベトナム戦争の授業を行った。ウチの学校で使っている資料集『グローバルワイド』(第一学習社)にも沢田氏がピュリッツアー賞を受賞した「安全への逃避」が掲載されていたので、1966年7月に毎日新聞に掲載された「おお、母子は無事だった」(沢田氏が「安全への逃避」を撮影した一年後、被写体となった人たちに会いに行くエピソード、毎日新聞社『沢田教一写真集 戦場』に収録)や、2013年の大晦日の新聞に掲載された、62歳(当時)となった被写体の男性などを紹介。

 映画も見せた。ベトナム戦争関係の映画には『フォレスト・ガンプ』『プラトーン』『ランボー』『ディアハンター』など名作が多いが、見せたのは『地獄の黙示録』。キルゴア大佐率いるヘリコプター部隊がベトナムの村を攻撃するシーン。"I love the smell of napalm in the morning."

 私は「現代社会」という科目が始まった年に授業を受けた世代だが、そのとき使用していた実教出版の資料集には、確かキルゴア中佐の写真が掲載されていたと思う。高校時代にこの『地獄の黙示録』をNHKで見たが、後半のカーツ(マーロン・ブランド)の独白は難解で、何を言ってるのかさっぱり意味不明だった。

 映画『地獄の黙示録』には、モデルとなった小説があると知ったのは、社会人になってから。イギリス人作家ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』。主人公マーロウが船で川を遡行する場面は、『地獄の黙示録』でのシーンが頭に浮かんだ。『闇の奥』の邦訳はこれまでに何度も発表されているが、最初の中野好夫氏訳(1958年)が、「Heart Of Darkness」という原題に「闇の奥」というタイトルをつけて以来、いずれの訳もこの「闇の奥」という邦題を使用している。『地獄の黙示録』のドキュメンタリーのタイトルも「Heart Of Darkness」である。


次の地図は、下線部⑨に関連して、第一次世界大戦勃(ぼつ)発(ぱつ)当時のアフリカ大陸の分割状況の一部を示したものである。地図中のa~dに該当するヨーロッパ諸国名の配列として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
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 ① a―ベルギー  b―ポルトガル  c―スペイン   d―ドイツ
 ② a―ポルトガル b―ベルギー   c―ドイツ    d―スペイン
 ③ a―スペイン  b―ドイツ    c―ポルトガル  d―ベルギー
 ④ a―ドイツ   b―スペイン   c―ベルギー   d―ポルトガル
  (1996年度 センター試験・本試験 世界史 第2問D )

 最もわかりやすい英領のエジプトやスーダン、南アフリカ、仏領のマグリブや西アフリカが空白になっているので、出題者はベルギー領コンゴに注目させたかったのだと思う。やはり、コンゴ自由国~ベルギー領コンゴである。

『闇の奥』でマーロウが面接に赴いたのはベルギーの企業だけど、よくわからなかったのが、ベルギー領コンゴになる前のコンゴ自由国の実態とそれがどういう経緯でベルギー領になったのかという点。2008年版の山川世界史用語集によれば、コンゴ自由国とは「レオポルド2世の私領として建設された植民地」で、コンゴ国際協会とは「1882年、レオポルド2世がコンゴ地域の開発・支配のために設立した組織。84~85年のベルリン会議で国家主権を認められてコンゴ自由国を建設した。」とある。

 コンゴ自由国について、大変興味深かったのが、藤永茂著『「闇の奥」の奥』(三交社)という本だ。ベルギー国王レオポルド2世の私領としての建設されたコンゴ自由国(なぜ「自由国」という名前なのか)の成立を、わかりやすく解説している。以前、ベルギー領コンゴにおけるパーム椰子について触れたが、コンゴ自由国時代のドル箱はゴムであった。その際、「切り落とされた腕先」の話が出てくるが、文禄・慶長の役における耳塚や鼻塚のエピソードを思い出す話。

 『「闇の奥」の奥』がおもしろいのはむしろ後半。今日なお機能する、ヨーロッパ的な収奪システムに対する激しい批判が転換されているが、著者の藤永茂氏は、量子化学を専門とする物理学者という事実に驚かされる。恥ずかしながら私が名前すら知らなかった歴史家や思想家、作家が数多く登場し、アメリカの公民権運動ともリンクしていく(202㌻以降)。
 『「白人」がソロバンの合わない重荷を背負ったためしは古今東西ただの一度もない。』(「あとがき」より)。そう、近代世界システムとは、ゼロサムゲームなのである。その意味で現代は、藤永氏が言うように「ポストコロニアル時代」などではなく、いまなお「コロニアル時代」なのだろう。

 驚くことに、藤永氏は、コンラッドの『闇の奥』の邦訳も発表している。闇の奥は深く、不気味なまでに何も見えない。


リサ・クリスティン:現代奴隷の目撃写真(アフリカのガーナ)鉱山の坑道は、まさに「闇の奥」。
https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20151120-00001541-ted

藤永茂氏のブログ「私の闇の奥」
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru



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