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小田中直樹・帆刈浩之編『世界史 / いま、ここから』(山川出版社) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』No.708の書評を見て購入。高校世界史レベルの教養を広く一般向けに広げるために書かれた本である。雑誌『日経ビジネス』2013年2月号に、ビジネスパーソンの多くが歴史の知識を「身につけるべき教養」としてあげているという記事があったが、佐藤優氏も「基礎知識を身につける最高の本は、じつは高校の教科書と学習参考書」(『読書の技法』)と言っていた。
 本書が高校の世界史教科書と一線を画すのは、時代区分であり、以下の5つの時代で区分され、通史として叙述されている。
 1章 西アジアの時代(有史~6世紀前後)
 2章 東アジアの時代(6世紀~15世紀)
 3章 世界史の一体化の時代(15世紀~18世紀)
 4章 欧米の時代(18世紀~19世紀)
 5章 破局の時代(20世紀~今日)
 いずれの章も人・モノ・情報の移動、宗教、科学技術と環境 の3つの視点から叙述されており、2002年以降に東大世界史で出題されてきた各問題を思い出す。この3つの視点は、現代社会が直面している諸問題であり、世界の各地で起こっている対立の原因になっているため、「いま、ここから」考える上で現在的な視点だと思われる。教科書でおなじみの人名はあまり出てこないが、一方で映画、食物、地名など教科書には登場しないが心に残る記述が所々にあり、筆者陣の思いや趣味が見えるようで楽しく、またハッとさせられる。
 固有名詞を並べ立てて難しい説明をする本ではないが、内容は高水準という好著で、気がつけばここ数年間同じ授業を続けているような自分には実に刺激的な内容であった。大学入試にウェイトを置いた指導を続けていると、ともすれば大きな流れを見失いがちになってしまうが、そういった時にもよき指針となるように思える。編者の小田中先生はご自身のブログで「もともとは高等学校世界史B教科書『新世界史』のスピンオフ企画」と述べておられるので、本書で大きな流れを体感し、その後で高校の世界史教科書を読んでみると理解が深まるだろう。
 『歴史と地理』の書評で「終章から読むのもお勧め」とあったので、終章から読んでみた。歴史は役に立つのかという問題意識、また現在の歴史教育に対する問題意識は、小田中先生がこれまで発表してきた著書(『歴史学って何だ?』や『世界史の教室から』など)から続いているものだ。中でも私が印象に残ったのは、現在のグローバル化は国民国家の存在を前提として進められた非グローバル化にストップがかかった状態であるという指摘だった。私が『地域から考える世界史』に書いたことに少なからず通じる点であり、私が熊本で考えたことが「いま、ここから」の世界史であったことを誇らしく感じている。

 もっとも心に残ったのは、わたしたちにとっての教養を「「わたしたち」の常識を疑う力」と定義してみよう」という言葉であった。




世界史/いま、ここから

世界史/いま、ここから

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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