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今年の九州大の問題 [大学受験]

[1]
 偶像崇拝と多神教を否定し唯一神を信仰する一神教の成立は、世界史上でもっとも重要な出来事の一つといえる。中東・西アジア地域で誕生した三つの一神教はそれぞれ聖典をもち、いずれも迫害や苦難の中から自己形成を遂げて成立した。その後、強い求心力を持つこれら三つの一神教は人類の歴史のなかで大きな役割を演じ、現在これらの信徒の合計は、世界人口の半数以上を占めるに至っている。これら一神教の成り立ちと性格について適切に理解することは、現代に生きる我々にとって必須の課題であるといえよう。
 以上を踏まえ、これら三つの一神教の成立過程について、以下のキーワードをすべて用いて説明せよ。説明にあたっては、各宗教が既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか、あとから登場した宗教が先行する宗教の聖典をどのように位置づけていたか、に留意すること。説明は600字以内とし、使用したキーワードには波線を引くこと。キーワードは何度用いてもよい。
【キーワード】
 ヒジュラ  モーセ  イスラエル国  ピラト  パリサイ派  啓典の民 ダヴィデ  隣人愛


 問題の要求は、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教について以下の3点。
 ①成立過程   
 ②既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
 ③既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
600字なので、200字・200字・200字の構成プランで進めたい。

【ユダヤ教】
モーセ・・・出エジプト→唯一神ヤハウェによる十戒
パレスチナにヘブライ王国を形成→ダヴィデ王の繁栄
王国分裂→イスラエル国の滅亡→バビロン捕囚
民族的苦難の中でユダヤ教が成立  選民主義と律法主義 「旧約聖書」
【キリスト教】
ナザレのイエス・・・ユダヤ教の律法主義を批判→普遍的な神の愛と隣人愛を説く
ユダヤ教パリサイ派による批判→ローマ帝国の総督ピラトにより処刑→唯一神の子イエスの復活の信仰→使徒による布教→ローマ帝国による迫害→公認と国教化 「新約聖書」
【イスラーム教】
メッカの商人ムハンマド・・・ユダヤ教・キリスト教の影響を受け唯一神アッラーに帰依するイスラーム教を創始→メッカの支配層から迫害→ヒジュラ→メッカ回復
ムハンマドの死後、正統カリフ時代にイスラーム教は拡大・・・啓典の民
         
【私の解答例】
モーセに率いられてエジプトを脱出したヘブライ人は、唯一神ヤハウェと契約を結び、パレスチナにヘブライ王国をたてた。ダヴィデ、ソロモン王の時期に全盛期を迎えたものの、王国は分裂し、このうちユダ王国は前6世紀に新バビロニア王国に滅ぼされ、バビロン捕囚が起こった。解放後パレスチナに戻ったヘブライ人は選民思想と律法主義を特色とし、「旧約聖書」を聖典とするユダヤ教を形成した。後1世紀、ローマ帝国支配下のパレスチナで、ユダヤ教の律法主義を批判したのがイエスである。普遍的な神の愛と隣人愛を説いた彼は、メシアとみなされたものの、律法を重視するパリサイ派の反感を買い、総督ピラトにより処刑された。しかし唯一神の子イエスの復活を信じる人々により、「旧約聖書」に加えて「新約聖書」を聖典とするキリスト教が形成され、ローマ帝国領に広がった。当初は迫害されたが4世紀初めに公認され、さらに帝国の国教となった。7世紀、アラビア半島のメッカに生まれたムハンマドは、ユダヤ教・キリスト教の影響を受けて、唯一神アッラーへの絶対的帰依を説くイスラーム教を創始した。迫害を受けた彼は、622年にメディナへヒジュラを行い、宗教共同体を形成した。イスラーム教は、「旧約聖書」「新約聖書」も「コーラン」に先んじた預言の書とし、両教徒は「啓典の民」として一定の条件の下、信仰が認められた。

 ユダヤ教のヤハウェ、イエスの父、イスラーム教のアッラーはいずれも同一であることは知っておいた方がよい。元国連事務総長のブトロス=ガーリ氏(任1992-96)はエジプト出身でキリスト教徒(コプト正教会)であるが、母語はアラビア語であり、自らの神を呼ぶときには「アッラー」の呼称を用いた。彼の名「ブトロス」は、十二使徒の一人であるペトロのことである。


 今年の九大世界史は[1]よりも[2]の方が興味深かった。イングランド~イギリス国王の紋章を使った問題である。『週刊朝日百科 世界の歴史』で森護さんによる英国王の紋章の解説を読んで以来紋章(the coat of arms)に興味を持ち、20年くらい前から百年戦争の授業で紋章を使っている[http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/monsyou.html]。3年ほど前には、NHK「ファミリーヒストリー」のプロデューサーという方から「イギリス東部のNorwich(ノリッジ)という地域のイングロットINGLOTT家の紋章を解読して欲しい」という依頼があった。番組を見ていないが、いったい誰のファミリーヒストリーだったのだろう。

[2]の問1
 西欧では、おおよそ12世紀を通じて次第に紋章が確立し、その後現在に至るまで、王家をはじめとする家系や団体等において使用され続けている。資料1の図像(リチャード1世、ヘンリー4世、ジェームズ1世、ジョージ1世、ヴィクトリア女王のそれぞれの紋章)を解説しながら、それぞれの王の系譜、統治の意識について、260字以内で述べなさい。

この問題に対する各予備校の解答例、私の評価
 1位:代ゼミ
 2位:駿台予備校
 3位:河合塾
 河合塾の解答例からは「統治の意識」が読み取れないので、最下位。代ゼミを1位とした理由は、
 ①アイルランド王の紋章について、ジェームズ1世とジョージ1世の違いに触れている
 ②ヴィクトリア女王の紋章に対する説明が、駿台よりも明確である
の2点による。

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