木畑洋一『二〇世紀の歴史』 (岩波新書) [歴史関係の本(小説以外)]
20世紀を帝国主義の時代ととらえ、その時期を1870年代から1990年代までと設定し、この時期の歴史的な動きを新しい視点でわかりやすく説明した好著。本書では、帝国主義が始まった1870年代から、ほとんどの植民地が独立を達成した1990年代までを「長い20世紀」とし(ホブズボームの「短い20世紀」との対比)、支配と被支配(従属)の関係を叙述の軸としている。ソ連の崩壊(1991年)も、ソ連という支配と東欧諸国という被支配の関係の終焉とする視点は興味深い。
「長い20世紀」を①1870年代から第一次世界大戦(帝国主義世界体制の形成期)、②第一次世界大戦から1920年代(動揺期)、③世界恐慌から第二次世界大戦(動揺激化期)、④第二次世界大戦の終わりから1990年代初め(解体期)の4期に分けて説明されているが、この分け方もわかりやすい。さらにそれぞれの時期で、ヨーロッパ(アイルランド)・アフリカ(南アフリカ)・アジア(沖縄)の諸地域における支配と被支配の様相を定点観測するという叙述もよく整理されている(1942年に旧日本軍の特殊潜行艇がマダガスカルまで遠征していたとは驚いた)。これまでは、この時期のアジアは中国(清朝)を取り上げるのが多かった。しかし現在の日本に含まれる地域で、「長い20世紀」を通じて常に戦争と暴力にさらされてきたのは沖縄であり、この地域を取り上げた点に著者の眼差しが感じられる。。興味深いトピック(暗黒大陸ではなかったアフリカ、ジェントルマン資本主義、ジンゴイズムなど)がさりげなく(深入りせずに)紹介されている点もよい。
新書としては難しい、秋田茂先生の『イギリス帝国の歴史』(中公新書)は、本書を読んだ後に読むと、よりよく理解ができるように思われる。さらに言えば、本書→川北稔・木畑洋一『イギリスの歴史』(有斐閣アルマ)→『イギリス帝国の歴史』と読み進めると、「大英帝国」というワードをこれまでとは違ったイメージでとらえることができるのではないだろうか。
イギリスの歴史―帝国=コモンウェルスのあゆみ (有斐閣アルマ―世界に出会う各国=地域史)
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2022/08/18
- メディア: 単行本
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