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明治図書『教育科学 社会科教育』2022年9月号 [授業研究・分析]

 雑誌『教育科学 社会科教育』2022年9月号は、とてもよい特集号だった。この雑誌を欠かさず講読してきたわけではないが、歴史関係をはじめ面白そうな特集号の時はだいたい買ってきた。その中でもわかりやすく、読み応えがある特集だったと思う。「歴史総合の授業をどうするか」という私の目下の関心事にそっていたこともあるだろうが、この4月から実際に「歴史総合」が始まり、諸先生方の実践も研究会等で俎上に上るようになったことから、なるほどと思わせる論文が多かった。いずれも5㌻程度の分量であるためまとまっており、読みやすい点もよかった。
 最初の5本は授業デザインについて述べられているが、1999年11月号の「歴史理解のコードをどう育てるか」という特集と比べると、この約20年間の歴史の授業に対する考え方の変化がよく分かる。1999年というと、私が教育委員会から鳴門教育大学大学院(徳島県)に派遣されていた時期だが、20年前も現在も「歴史的な思考力を育成して歴史に対する理解を深めることで、現代の諸課題も考察できるようにする」という目標はあまり変わらないように感じる。が、20年前は内容理解を通じて歴史理解をめざす授業がほとんどだった。本号に掲載されている最初の5論文からこれからの授業で留意すべき点を私なりにまとめると、
  ・内容指向から資質・能力指向へ(覚えるから考えるへの転換)
  ・歴史を大観できる学び
  ・歴史と社会だけでなく、歴史と生徒との関係も視野に入れる
 20年前には「歴史と現代社会との関係」を考えることはあっても、「歴史と生徒自身との関係」を授業で扱うことは念頭になかった。宮本英征先生によれば、これは構築主義的思考とよぶそうだが、二井正浩先生が「自分事」と述べておられることに通じる。二井先生も述べておられるように、「私たち」という点からも、この視点は必要だと思われる。

 具体的な授業プランとして小中高あわせて17本(うち高校は4本)が掲載されているが、中学校の授業プランはそれぞれに興味深い。ただ高校の4本のうち、日本史探究の日本史は、「私たち」という点から歴史総合的でもあり、一方で歴史総合の日本史は探究的な印象も受ける。これらの授業プラン、特に小学校明治時代と日本史歴史総合の2本を、『近現代史の授業改革2 特集:世界史の中の日露戦争』(社会科教育1995年12月別冊、明治図書)の内容と比べると、時代の変化を感じてしまう。

 今回の特集には「歴史好き」という言葉がたびたび出てくる。筆者の先生方には、2006年秋から翌年にかけて発覚した世界史未履修問題を念頭に「歴史の授業を変えたい」という思いがあるように感じられる。このこととの関連では、冒頭の宇都宮明子先生の文章の「おわりに」が印象深い。教師生活が長い教員が「今の授業ではダメだ」と言われると、これまで数十年にわたるの教員生活すべてを否定されたような気分になるのかもしれない。歴史系科目の趣旨を生かすためには、教科教育学や歴史学以外の視点も必要かも。


 
社会科教育 2022年 09月号 (子どもを歴史好きにする! 見方・考え方を働かせる歴史授業)

社会科教育 2022年 09月号 (子どもを歴史好きにする! 見方・考え方を働かせる歴史授業)

  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2022/08/08
  • メディア: 雑誌



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