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今年(2023年)の共通テスト問題(世界史A) [大学受験]

 世界史Bは世界史探究に引き継がれていくが、世界史Aを引き継ぐ科目はなくなる。大学入試センターが発表した「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストの出題教科・科目の出題方法等の予告」によれば、令和7年度も「経過措置科目」として「旧世界史A」として出題されるそうだが、現在の高校1年生は「旧世界史A」を受験することはできない。したがって、共通テストで世界史Aが出題されるのは事実上来年までということになる。最終盤を迎えつつある世界史Aの共通テストは、いったいどういうものだったのだろうか。

 大まかに言うと、かつてのセンター試験時代の世界史Aと比べて難しく、かつセンター試験の名残が感じられる試験という印象だった。

 第1問は「史跡をめぐる歴史」。問題番号1・2・4はセンター試験的である。3の「野中がパリ万博に関わった理由」を問うのは、板野さんの発言に「肥前の地の大半は佐賀県だったよね」とあるので、このことを問う必要はあまり感じられない。5のハングルに関する設問の選択肢に「日本で仮名文字が成立した時期」があるが、これは中学校で学ぶ歴史分野の知識である。3と5は、歴史総合を意識した問題なのかもしれない。6もセンター試験的だが、受験生は①か②かで迷ったと思われる。大韓帝国という国号は、日清戦争後の下関条約で、清朝が朝鮮の独立を認めたことにより使用された。したがって、②は日清戦争の契機となった事件であることから大韓帝国以前の出来事であり、正解は①となる。しかし世界史Bであるならまだしも、世界史Aでこれを問うのは少々酷ではないだろうか。確かに会話文と問題番号5の選択肢「清からの独立」という観点からは、至極妥当な問題であるが、勤務校で使用している世界史Aの教科書『高等学校 改訂版世界史A』(第一学習社)では、(日露戦争の後に)「日本の韓国併合」の文脈で大韓帝国という語句は登場しており、難易度は高い。

 第2問はやや抽象的なテーマで、リード文には「近現代における国のあり方」とある。全体的に知識を問うセンター試験的な問題が多く、中でも8・9・13・14と歴史事象が起こった時期を問う問題が多い。 中東戦争に関する問題の7は、正解である②以外の選択肢が時期的に違っていることから正解を導くことが可能だが、正攻法だと「第三次中東戦争でイスラエルがシナイ半島を占領した」「第四次中東戦争が石油危機の原因となった」という流れを把握しておく必要があるため、やや難しい。スエズ戦争(第二次中東戦争)を問うた第4問の27ともに、中東問題の正確な把握が必要だった点は、世界史Aのみ履修者にはキツかったのではないだろうか。12は図版資料の読み解きで、いい問題だと思う。③は事実として間違っており、①④は図を見て誤りを判断する。ラーマ4世、ラーマ5世の近代化政策という知識を使って、力業で②を正解とすることも可能ではあるが。15は正直あまり好きな問題ではない。史実として間違っているのは②だけで、①④は史実としては正しい。「地図上から消えてしまった国」という条件に合致しないから誤りということだろうが、史実としては正しい選択肢を誤りと判断させるためには、問い方にもう少し工夫が欲しかった。
 
 第3問は「旅行経験から学ぶ歴史」。16はマウリヤ朝や扶南、「インダス川流域のモエンジョ=ダーロ」「アーリヤ人のガンジス川流域進出」など、世界史Aのみ履修者には厳しい問題だった。17はセンター試験時代の世界史Bのような問題。日露戦争後のベンガル分割令反対運動におけるスワラージ・スワーデシの運動、第一次世界大戦後のローラット法反対のガンディーによる非協力運動、プールナ=スワラージ翌年の塩の行進といったインド独立運動の流れを把握しておくことが要求された。やはり「○○はいつ起こった」という時代を問う問題に行き着く。その一方で、19は「いつ」だけではなく「どこ」も抱き合わせで問われた点でセンター試験的。選択肢4つのうち、トルコとイランが2つずつ。③は20世紀のことなので誤り、というわけだが17の選択肢にあるウラービーをはじめ、30のマフディーなどイスラーム圏の民族運動の整理まで世界史Aのみ履修者は手が回っていなかったのでは。18はメモの「ベンガル地方の東部ではイスラーム教徒が、西部ではヒンドゥー教徒が住民の多数を占めるようになっていた」という文から、「西がインド」ということになり正解は②か③のどちらかだろうという想像はつく。しかし正解にたどり着くにはもうひとつ知識が必要で、「ベンガル分割令の公布から40年後」にベンガル地方に成立するのはパキスタンなのかバングラデシュなのかを判断しなければならない。結構大変。20はまさに「国語の問題」。エルギン=マーブルは昨年末に返還の報道が流れたが、その後どうなったのだろう。22~24は、メモ1=五四運動、メモ2=大躍進、メモ3=天安門事件の正確な内容把握が必要。陳独秀が中国共産党を結成するのが五・四運動直後の1921年であるため、22は時代で判断することが可能である。しかしメモ1~3のいずれも「近代中国の運動」について述べてあるため、自分自身で整理しておかないと混乱してしまいそう。

 第4問は「歴史上の移動や流通」というどこかで見たようなテーマ。ただコロナウイルスやスエズ運河の事故など切り口は新しい。26はスエズ運河開通の年代(1869年)さえ知っておけばなんとかなるが、逆にそれを知らないと厳しい。27は年代を知らなくても、「スエズ戦争はナセルのスエズ運河国有化宣言を契機に始まったので、スエズ戦争は「え」のあとにくる」という判断(=⑤⑥は誤りという判断)はできそうだが、それ以上はやはり知識が必要となる。28は、まずウの都市が広州という判断がつかないと始まらない。29は、センター試験の時代によく見られたグラフを使った年代問題。Xが第一次世界大戦中の出来事で、清仏戦争が1884年という知識は、世界史Aのみ履修者には厳しかったと思われる。

 全体的に日本史と絡めた問題と時代を問う問題が多かったが、「フランス革命と明治維新はどちらが先か」的な知識は歴史総合でも必要となる。来年は実質的に共通テスト世界史A最後の試験となるが(一応再来年の経過措置は予告されている)、おそらくこの流れは続くだろう。有終の美を飾るにふさわしい問題を期待したい。
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