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今年(2023年)の共通テスト問題(世界史B) [大学受験]

 今年の共通テスト世界史Bは31ページで、センター試験の時代と比べるとだいたい5ページくらい増えた。約20%の増加である。問題数は34と例年通りで増えたのはリード文だが、センター試験時代の世界史Bはリード文や図は問題と関係ないことが多く、読まなくても解ける問題が多かった。そのためかつてのセンター試験では、設問とリード文の乖離がよく批判されていた。一方で、様々に興味深いトピックやメッセージ性を感じられるリード文も多く、出題者の個性が感じられたものである(2007年本試験第4問Bの紅灯照や、2006年本試験第1問Cのアラビアンナイト翻訳の意味、エリック・ウィリアムズやマルク・ブロックなど)。私が大学入試センターの問題評価委員をしていたとき、「リード文と問題との乖離など、そんなに重要なことではない」という意味のことを書いたのは、リード文と設問の結びつきに拘りすぎると、面白いリード文が読めなくなるのではないかと思ったからである。その意味で、今年の共通テスト世界史Bのリード文は、題材も面白くかつ読まないと解けないという点で良問だった。とりわけ地中海世界で使用された貨幣にみられる共通性や、フランス国王の紋章と系図の組み合わせは、興味深い題材であった。

 知識と読解力の両方が必要という問題が多いが、読解力の中身は持久力(読むのを面倒くさがらない能力)と情報処理能力(知識活用能力)と言えるかもしれない。文章中から時期を特定できるデータやカギとなる用語を見つけ出す能力だが、これは共通テストタイプの問題を繰り返せば身につくと思う。なかでも時期を特定できる力が求められる場面が目立った(これは世界史Aも同じ)。しかし学習持久力は身につけるにはどうすればいいのだろう。第4問Bのマラトンの戦いの、23と25の問題、知識はあってもそれを使わないと正解にたどり着けない。長々と書いてある文章を正しく要約して、まとめる能力か。27などは、「べーダが731年頃に執筆」という冒頭の言葉から、資料1→資料2はわかるが、その間に資料3がくることはあとの文章を読まないと特定できない。こうなってくると、先に設問をみて、あとから問いに沿って資料やリード文を読んだ方がいいのではないかとも思う。
 一つ共通テストとしてちょっと難しいか?と思ったのが3。ニュージーランドで女性が参政権を獲得したのはリード文中にあるように1893年で、自治領となったのはこの年よりも前か後かを判断させる、という問題。イギリスの植民地で最初に自治領となったのはカナダだったというのはよく知られている。1998年の筑波大で 「1840~1870年代の時期の大陸国家としてのアメリカ合衆国の発展」が出題されたとき、指定語句の一つが「カナダ連邦の形成」だった。 カナダの場合は、南北戦争後にアラスカ購入など拡大の傾向を見せるアメリカに対抗するための自治領化であるが、ニュージーランドについては自治領化の背景としてあまり思い浮かばない。強いてあげれば、オーストラリアの自治領化は移民制限法(白豪主義)の成立と同じ1901年なので、それとあまり違わないのではという推理か。

 適度な知識と読解力が必要で、知識不要の問題はみられなかったという点で、よい問題だったと思う。しかし一方で、果たしてこれでいいのかという思いも残る。そんなに深い知識がなくても答えることは可能だが、そのためには読まなければならない。難しくはないが、面倒くさい。これだけ面倒くさい問題が多いと、受験生は世界史を敬遠するのではないだろうか。どの大学のどの学部を受ける人でも共通の問題を課す、という共通テストの性格を考えれば、もう少し取り組みやすい問題でもよかったと思う。

 なお、私が高校時代に使用した教科書『世界史 三訂版』(三省堂、昭和56年3月30日3版発行)では、「ムアーウィ」という表記だった。
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