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今年(2023年)の共通テスト問題(世界史A)~追試験 [大学受験]

 おおまかな印象としては、よい資料を用いた良問が多かった。しかし一方で、本試験と同様に世界史Aの問題としては難易度が高い。「世界史Bの問題」と言われても違和感なく、受験者がゼロまたは極少数である世界史Aの追試としては、正直「もったいなかった」と思う。

 第1問のテーマは、歴史の動きとモノや習慣との関係。問2は「う」が匈奴であるため、単純な知識問題となってしまったのが惜しい。「あ」と「い」がトルコ系であるため、「う」もトルコ系で揃えると、トルコ系民族の西方移動として考えることも可能である(こうなると世界史Bだが)。かつてセンター試験の時代に出題されたことがあるが[https://zep.blog.ss-blog.jp/2013-01-06]、やはり世界史Bである。問3のヒントは絵ではなく、先生の言葉「西アジア産の青いコバルト顔料で文様を描いて絵付けをした」である。絵で示された器の拡大図はなんとなく宋や高麗の青磁のようにも見えるが、「青」というキーワードから染付を選ばせるのは、世界史Aのみ履修者にはキツかったと思われる。ウチが使っている第一学習社の教科書『高等学校 改訂版世界史A』を見てみたが、染付の写真は見つけることができなかった。染付は山川の世界史用語集でも③なので、これを世界史Aで出すのは厳しいと思う。驚いたのはBの会話文中の「ンクルマは、日本ではエンクルマとも呼ばれます」という表記。センター試験時代から含めて「ンクルマ」の表記は初めて目にした。問6の選択肢「う」の「ムスタファ=ケマルが服装の改革を行ったのは、ローマ字の採用と同じ政策の一環である。」という選択肢は、「西欧化」というメタな認識を問うよい問題であった。「え」の選択肢は簡単すぎるが、世界史Aである以上は妥当だと思う。問9は読めばわかる系の問題なので、国語の問題だと揶揄されそうだが、読むためには中国史の素養が必要だと思うので、国語ではなく歴史の問題だと思う。資料・選択肢ともに、読解力をみる世界史Aの問題として、よく練られた問題である。この問題をみていると、「読めば分かる」というのはわれわれ教員が日常的に教科書などを読んでいるからであり、受験する高校生にとっては、簡単とは言えないのではないかという気がしてくる。

 第2問のテーマは、「歴史上の国民や国家」。Aは佐藤卓己先生の『ヒューマニティーズ 歴史学』の一部を要約したものをもとに先生と生徒が会話している文章である。ナチ党の日本語訳は国家社会主義ドイツ労働者党ではなく国民社会主義ドイツ労働者党であり、「(フランス人権宣言)以来の健全な国民主権や民主主義の政治的伝統の上に、ナチズムは登場したのである」、という指摘と、その部分を補足して問10につながる赤木くんの言葉は深い。話題となった田野大輔先生の論考[https://gendai.media/articles/-/69830]を再読したい。とてもよい文と設問だが、あまり目立たない「世界史Aの追試」であることが残念だ。 Bは、戊戌の変法を進めた梁啓超が日本で発表した文章の要約とをもとに、先生と生徒が会話する文章。一般的な説明に対して具体例を答えさせる問5もよい問題だが、正解以外の選択肢が「事実として間違っている」のでちょっと残念。他の選択肢を工夫して、世界史Bの問題として出題したいところ。問6も、第1問の問9同様に、世界史の素養を必要とする読解問題。今回の第2問A・Bのように、資料をもとに教師と生徒が会話するという形式は、様々な発見があってとてもよかった。

 第3問のテーマは「20世紀を動かした政治家」。世界史Aらしいテーマだ。かつてのセンター試験のようなオーソドックスな問題が目立ったが、問9のEC・EUに加盟した国を示した地図を年代順に並べる問題は難問。会話文の「マルタ共和国は2004年にEUに加盟し」「旧社会主義圏の東欧の国々がマルタ共和国と同じ時期にEUに加盟」という内容からb→cという流れは判断できるが、aがbとcの間にくるという判断は難しい。EFTA加盟国という中途半端な知識では、かえって間違えそうな気がする。

 第4問はのテーマは、「統計資料を通じた歴史理解」。ラストにグラフなど統計データの読み取りという面倒な問題が並んでいるのはなかなかキツい。Aは表とグラフが並んで示されているが、ダブル読み取りではなくそれぞれ単独の読み取りなので、読み取り自体は難しくない。しかし、問1は読み取った結果とその要因を組み合わせるという合わせ技問題で、「い」を読み取ったあとに知識を使うことになる。問5も同様で、単に「グラフをみればわかる」という問題でなない点はよいが、最後にこうした面倒な問題がくるのは大変。問3は、「グラフから立てられる問い」と「問いに対する仮説」の内容を完成させる問題で、歴史総合を意識した問題。問6は、ポルトガルの植民地を答えさせる問題で、かつてセンター試験時代に世界史Bでよく出題されていたアンゴラを答えさせる問題。エジプトとリベリアはともかく、(アフリカではないがポルトガルの植民地である)東ティモールを選択肢に入れているのがエグい。世界史Aのみ履修者で、ここまで手が回っている受験生がいるのだろうか....

 教員の視点からは良問が多く、作問委員の先生方はかなりご苦労されたと思う。その結果、受験した高校生、とりわけ世界史Aのみ履修者には相当厳しい問題だった。




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