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佐藤卓己『キングの時代』(岩波書店) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』(2017年5月号、No.704)で目にした第一次世界大戦の授業のレポートを読み、本村靖二『第一次世界大戦』(ちくま新書)を購入した[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-06-29]。同書のまえがきでは、第一次世界大戦に対する捉え方が日本と西欧諸国ではかなり異なることが指摘されている。この指摘には既視感を感じていたものの、なかなか思い出せずにいたのだが、ようやく見つけることができた。同じく『歴史と地理』の2003年5月号(No.564)に掲載されている木村靖二先生による「新課程版『詳説世界史』の執筆を振り返って」である。

 ....しかし、第一次世界大戦を現代の起点とするのは、それがなにもヨーロッパ近代に大きな衝撃をあたえ、大戦前との断絶をもたらしたという狭い意味からだけではない。大戦期は現代福祉国家の原点であり、帝国を一掃して国民国家モデルを国際社会の基本単位とする契機になり、さらに現代大衆文化を産みだし、アジアなどでの民族運動・独立運動を本格的に台頭させた。また国際関係の次元でみても、国際連盟という新たな国際調整機関を成立させ、ヨーロッパ一局構造からアメリカ・ソ連の三元構造への移行をうながしている。要するに、大戦期が現代世界、現代国家の基本的仕組みや枠組みをつくり出すうえで、決定的役割を果たしたことが重要なのであって、そこに注目すれば、1914年に現代への転換点を設定するのは十分根拠があると考えた。

 さらに以下のような文章が続いている。

 なお、日本史では現代の始まりを第二次世界大戦後においていて、日本史と西洋史の現代の時期区分の違いはあいかわらず続いているが、最近これに一石を投じる意欲的な研究が出された(佐藤卓己『キングの時代』岩波書店 2002年)。参考にして欲しい。

 佐藤卓己先生の『キングの時代』は400ページを超える大著で、なかなか読み進まなかったが、内容はかなり面白かった。高校の日本史では、大正から昭和初期にかけての大衆文化の項目で創刊号の表紙の写真が掲載されている雑誌『キング』だが、その内容についてはほとんど知らなかったため、「なるほど、こういう雑誌なのか」と初めて知ることができた。女性や子どもを含む大衆の講談社文化と知的エリートの岩波文化という捉え方は面白かったが、著者はこれを再検討したうえで、『キング』のメディアミックス的性格を指摘する。知識人からは攻撃されながらも、「何でもあり」なラジオ的雑誌がトーキー化することで、劇場型による大衆の動員に成功したという流れだと個人的には理解した。大衆の動員という点で思い出したのは、井野瀬久美恵先生の『大英帝国はミュージック・ホールから』(朝日選書)[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-04-04]。イギリスではロシア=トルコ戦争や南ア戦争を契機に、ミュージックホールで流れた歌の歌詞を通じて、本国と植民地をつなぐ「大英帝国意識」が形成されていった。娯楽を通じた劇場型による大衆動員という点で、共通点を感じる。

 内容が面白すぎて、木村先生の指摘を確認することが後回しになってしまったが、本書の冒頭で、佐藤先生は木村先生と同じような指摘をしている(第一章第二節)。第一世界大戦後に日本でも現れた大衆を「国民化」し、国民的公共圏をつくりあげていったのが『キング』という図式である(本書18ページの図)。

 ある歴史系授業の研究会で 、著者の佐藤先生とご一緒させていただいたことがある。そのときに私は自分の授業[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-09-23]を紹介したうえで 、「『歴史総合』の授業として考えると、戦争がテーマの授業であれば第二次世界大戦よりも第一次世界大戦をとりあげてみたい」と締めくくった。その理由は、一橋大1989年の入試問題「第一次世界大戦の前と後で、日本を取り巻く国際環境はどう変化したか」が頭にあり、「日本史でも世界史でもやれそうだ」と感じたからである。これに対して佐藤先生からは「第一次世界大戦をきっかけに世界は大きく変わったので、授業で取り上げる価値は大きい」とアドバイスを受けたのだが、出席していた日本史の先生方(高校)は、第二次世界大戦の方が適切だろうという意見が大半であった。佐藤先生からは、電気やラジオの普及率を調べると面白い情報が得られるのではないかというアドバイスをいただいたのだが、この本を読んでいればそのときもっと質問が出来たと思う。返す返すも残念だ。


『キング』の時代―国民大衆雑誌の公共性

『キング』の時代―国民大衆雑誌の公共性

  • 作者: 佐藤 卓己
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/09/25
  • メディア: ハードカバー



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「世界史」をどう語るか~『思想』3月号(岩波書店)より [歴史関係の本(小説以外)]

 岩波書店の『思想』3月号(No.1127)の特集は「<世界史>をいかに語るか-グローバル時代の歴史像-」。『思想』ではかつて2002年5月号でグローバル・ヒストリーの特集が組まれたが、そのときの特集は難解で、正直自分にはあまり理解できなかった。

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 今号の特集では、小川幸司・成田龍一・長谷川貴彦の3名の先生による鼎談「「世界史」をどう語るか」が注目。小川先生は、大著『世界史との対話』(地歴社)の著者であり、私が尊敬する先生の一人である。この鼎談で印象に残ったのは2点で、1点目は成田先生による『世界史との対話』の解題。『世界史との対話』は何度となく読んできた本だが、成田先生の解題を読み、なるほどこういう読み方もあるのかと興味深く拝読。そしてもう1点は、小川先生の「グローバル・ヒストリーのように歴史像が大きくなればなるほど、読み手は受け身となり、歴史と自己が離れてしまう逆説がおこる」という指摘。
 グローバル・ヒストリーについて、「世界の歴史を(ヨーロッパ中心史観に基づかないで)、国民国家の歴史の寄木細工として見るのではなく、ローカル→ナショナル→リージョナル→グローバルと視点を大きくして、特に人・モノ・金・情報・病気など諸地域を結びつける紐帯に注目していこうとする見方」というのが私の理解であった。例えば茶や砂糖といったモノを題材とすることで、生徒は「身近なモノにも歴史あり」と実感できると考えてきた(私がこうしたイメージを持ったのは、大阪大学出版会から出ている『歴史学のフロンティア』、特に第四章「イギリス帝国とヘゲモニー」を読んでからだと思う→『イギリス帝国の歴史』中公新書)。世界史の教科書を見ても、国家の枠組みに拘りすぎるべきではないという考えは一定のコンセンサスを得ていると思う(例えば東京書籍の『世界史A』世A301にある特集「国家と民族」など)。
 その一方でグローバル・ヒストリー全体に感じてきたのは、いいようのない不安定さでもある。帰属意識の危機、とでも言おうか、自分という主体と切り結ぶことができない大きな話は、相手の心に響かないのでは?という不安感である。ではどうすれば、場所も時代も違う話を自分の問題として受け止めることができるのか。そのヒントの一つは、成田先生が最後で指摘している、「いのち」という視点かもしれない。例えば今年の東大世界史第一問でも、「では日本の女性参政権はどうだったのか?君たちの祖母、曾祖母の時代は?」という問いにつなげれば、十分グローバル・ヒストリーたり得る。これから世界史を語るには、「今、ここから」という視点が不可欠だと思われる。「歴史総合」が成功するか否かは、この視点にあるのではないだろうか。
 先日、鹿児島大学文系後期(2016年度)の小論文の添削指導を行っていて、興味深い文章に出会った。課題文は入江 昭氏の『歴史家が見る現代世界』(講談社、2014)で、国際関係を国家を単位で捉えることに警鐘を鳴らし、これまで国同士の対立を助長する傾向があったナショナリズムを、人類共通の諸問題の解決に積極的に関わり、結びつけるようなナショナリズムに転換していくべきことを述べている。明らかにグローバル・ヒストリーの視点を意識した文章で、入江昭氏については本号でも岡本充弘氏が「グローバル・ヒストリーの可能性と問題点――大きな歴史のあり方」の中で触れているが、(32㌻)、岡本氏が本号の別の箇所(「思想の言葉」)で、ナショナリズムのマイナス面を強調してるのは興味深い(入江昭氏については、秋田茂先生も前述の「イギリス帝国とヘゲモニー」で触れている)。
 岡本氏の論考や、岸本美緒氏の「グローバル・ヒストリー論と「カリフォルニア学派」」を読んで感じるのは、グローバル・ヒストリーに対し「反対ではないが、少し整理が必要では」という問題意識であった。高校で世界史を担当する我々も、グローバル・ヒストリー礼賛に終わらず、ツールとして使うまでの工夫が必要なのかもしれない。

 私が書いた文が収録されている『地域から考える世界史』(勉誠出版)との関連では、小川先生が紹介している「下からの」グローバル・ヒストリーの可能性(リン・ハントによる)が興味深い。とはいえ、ローカルとグローバルのつながりといえば聞こえはいいが、一方で他の地域の人にとっては重要な問題とはならないかもしれない。このことに関しては、成田先生が述べている「メタ通史」の考えが参考になる。

 歴史学の成果を歴史教育にどう生かしていくのか。かつて『世界史をどう教えるか』(山川出版社)という本を手の取ったが[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-06-15]、私の関心からは少し外れていた。言い換えれば、歴史学と歴史教育はどのような関係にあるべきなのか、というのが私の関心事の一つであり、この点でもこの鼎談は興味深かった。

 先日恩師の退官記念最終講義に出席してきたが、次のように語っていた。
「歴史学には、英国史も日本史もない。あるのは歴史だけだ。ある時期から私はそう語るようになりました。歴史学は、史料の解釈学です。なるほど、史料には地域性があります。しかし、ほとんどのものは、近代に至るまで現代的意味での国境がないのです。歴史家は、とくに海外の歴史を専門とする歴史家は、「帰属意識の危機」を胸に秘めつつ、国境を越えたフラタニティ(兄弟団)を作り、せっかく生き残ってくれた史料を、「死者の声」を、誰もが接近できる共有の「世界遺産」として、必ずしも同じ関係でというわけではないが、共同作業的に解釈を行い、いろいろな言葉で、いろいろな場所で物語っていくべきでしょう。これが私の考える「グローバル・ヒストリー」です。「グローバル・ヒストリー」は、方法論の問題ではありません。それは歴史学者の仕事です。しかし歴史家にとっては、それは態度、あるいは立ち位置、あるいは「考察様式」の問題なのです。」
「史料を残した過去の人々、亡くなった人々は、われわれの解釈を批判し、抗弁できない。だから歴史学は、全身全霊をこめて、自分と過去と現在を疑う批判の徒でなければならないのです。しかし、歴史学は同時に、主知主義的で、観察者の内在的な、心からの「問題」関心を無視した、研究史上のお仕着せの問題意識を解決することも使命としています。歴史学者とはそういうものです。それは否定しない。しかし、わたしは、学界という制度の、いわば研究常識と権威にとらわれず、「自分の頭と足で、問題を発掘する」歴史家(Antiquary)に憧れています。そして残りの人生をかけて、そういう歴史家になれたら本望です。」

 歴史教育に携わる者は、歴史学者による歴史学の成果を尊重しつつ、恩師の言う「歴史家」たるべきなのかもしれない。最終講義では「多様な過去の「世界」に対峙できない者は、未来を見ることはできない」というミヒャエル・エンデの『モモ』の一節が紹介されたが、「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」というドイツの故ヴァイツゼッカー大統領の有名な演説を思い出す。学部生の頃、教養部のT先生の授業で講読した演説(今年の大阪大学の問題(文学部)で使用された演説は、このとき(1985年5月8日)のものではない)。「過去と真摯に向き合えない人は、現在も未来も見通すことができない、それはなぜ?」という問いに対する答えを、生徒たちがそれぞれに見つけることが出来るような授業、私にはそれができるのだろうか。

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小田中直樹・帆刈浩之編『世界史 / いま、ここから』(山川出版社) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』No.708の書評を見て購入。高校世界史レベルの教養を広く一般向けに広げるために書かれた本である。雑誌『日経ビジネス』2013年2月号に、ビジネスパーソンの多くが歴史の知識を「身につけるべき教養」としてあげているという記事があったが、佐藤優氏も「基礎知識を身につける最高の本は、じつは高校の教科書と学習参考書」(『読書の技法』)と言っていた。
 本書が高校の世界史教科書と一線を画すのは、時代区分であり、以下の5つの時代で区分され、通史として叙述されている。
 1章 西アジアの時代(有史~6世紀前後)
 2章 東アジアの時代(6世紀~15世紀)
 3章 世界史の一体化の時代(15世紀~18世紀)
 4章 欧米の時代(18世紀~19世紀)
 5章 破局の時代(20世紀~今日)
 いずれの章も人・モノ・情報の移動、宗教、科学技術と環境 の3つの視点から叙述されており、2002年以降に東大世界史で出題されてきた各問題を思い出す。この3つの視点は、現代社会が直面している諸問題であり、世界の各地で起こっている対立の原因になっているため、「いま、ここから」考える上で現在的な視点だと思われる。教科書でおなじみの人名はあまり出てこないが、一方で映画、食物、地名など教科書には登場しないが心に残る記述が所々にあり、筆者陣の思いや趣味が見えるようで楽しく、またハッとさせられる。
 固有名詞を並べ立てて難しい説明をする本ではないが、内容は高水準という好著で、気がつけばここ数年間同じ授業を続けているような自分には実に刺激的な内容であった。大学入試にウェイトを置いた指導を続けていると、ともすれば大きな流れを見失いがちになってしまうが、そういった時にもよき指針となるように思える。編者の小田中先生はご自身のブログで「もともとは高等学校世界史B教科書『新世界史』のスピンオフ企画」と述べておられるので、本書で大きな流れを体感し、その後で高校の世界史教科書を読んでみると理解が深まるだろう。
 『歴史と地理』の書評で「終章から読むのもお勧め」とあったので、終章から読んでみた。歴史は役に立つのかという問題意識、また現在の歴史教育に対する問題意識は、小田中先生がこれまで発表してきた著書(『歴史学って何だ?』や『世界史の教室から』など)から続いているものだ。中でも私が印象に残ったのは、現在のグローバル化は国民国家の存在を前提として進められた非グローバル化にストップがかかった状態であるという指摘だった。私が『地域から考える世界史』に書いたことに少なからず通じる点であり、私が熊本で考えたことが「いま、ここから」の世界史であったことを誇らしく感じている。

 もっとも心に残ったのは、わたしたちにとっての教養を「「わたしたち」の常識を疑う力」と定義してみよう」という言葉であった。




世界史/いま、ここから

世界史/いま、ここから

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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桃木至朗 監修/藤村泰夫・岩下哲典 編『地域から考える世界史~日本と世界を結ぶ』 [歴史関係の本(小説以外)]

 高校の世界史は、「何でもあり」である。文化史では理系の学問も扱うので、理系の知識があるに越したことはない。「17~18世紀のヨーロッパ文化」の項目で、気体力学のボイルという科学者の名が出てくる。十数年前、愛媛県の伊方原発の見学に行った際、途中立ち寄った(たぶん)道の駅で不思議な水槽を見た。水槽本体からお椀を半分に切った形状の飛び出しがあり、魚が泳いでいる。魚に触れようと思えば、触れることができる。ところが蓋ははないのにその部分から水が溢れてこない。なぜ?と私が首をひねっていると、ある先生が「ボイルの法則」で空気の圧力が蓋代わりになっていることを教えてくれた。それ以来、授業ではこのエピソードでボイルの法則を説明している。

 自分が書いた文章が掲載されている本で恐縮だが、高校世界史の「何でもあり」感を、いい意味で示しているのがこの本だと自負している。貧困や自然災害といった現代社会が直面している問題から、「こんな授業をやってみた」という実践まで内容は多岐にわたるが、いずれも「いま自分が住んでいる身近な空間と、世界史のつながりを考察することで、多文化共生社会を実現したい」という共通意識は読者の方々に伝わると感じている。特に第3章の4論考は、教科としての世界史が直面してる諸課題を明快に示している。執筆陣は大先輩から私よりも10歳以上若い先生まで幅広いが、それぞれに示唆に富む内容だ。中でも柳原伸洋先生の「インターネット時代の世界史」は、われわれ世界史教師がインターネットとどう向き合うかという問題を提起しており、実に興味深い。先日も国語の先生が、ネットから拾ってきた古典の訳を書いて提出した生徒を怒鳴りつけていたが、正直私はその生徒に感心したものである。また篠塚明彦先生の「世界史未履修問題に見る世界史教育の現実」は、大学や大学院で開発された授業が、実際の現場ではほとんど関心を持たれていないのはなぜか?という問いに答える論考。先日ある首都圏の大学の歴史の先生からは、「前近代しか習っていないという学生は多い」という話を聞いた。世界史Aの看板で、世界史Bをやってる学校はまだまだ多いようだ。「のど元過ぎれば云々」の現状と背景もよく示されている。
 大規模校でも世界史担当の教員は2人程度だと思われる。なかなか授業や教科教育について語り合う機会はないだろう。原田智仁先生は本書で「世界史は滅亡前のオスマン帝国のような瀕死の病人」と表現しているが、確かに高校世界史はとくに進学校(最近は「自称進学校」という不愉快な言葉を教師自ら使っているが)で不良債権化しつつある。そうした状況下で、何のために世界史の授業をやるのかを再考する機会として、本書を読み込んでいきたい。


 
【目次】
監修者はしがき 桃木至朗
序言 藤村泰夫
【特別寄稿】グローバル社会に求められる世界史 出口治明

第1章 中高生による地域再発見
・ダブルプリズナーの記憶―生徒に受け継がれる「思考の連鎖」― 野村泰介
・戦争遺跡・亀島山地下工場の掘りおこし―「地域」と「民族」の発見― 難波達興
・アフガニスタンから山口へ―尾崎三雄氏の事例から― 鈴木均
・「山口から考える中東・イスラーム」高校生プロジェクト 磯部賢治
・「青少年近代史セミナ-」の意義―世界史をどこまで実感するか― 川上哲正
・地域の歴史から日中交流へ―熊本県荒尾市における宮崎滔天兄弟顕彰事業の取組― 山田雄三・山田良介

第2章 多様な地域と多様な「教室」
・日本海は地中海か?―網野善彦から託された海がつなぐ歴史・文化の学び― 竹田和夫
・ムスリムに貼られた「レッテル」の再考―東京ジャーミイを事例として― 松本高明
・ALTを通して学ぶ世界史 百々稔
・日米双方の教科書を用いて学ぶ戦後史―アメラジアンの子どもたちとともに― 北上田・源世界遺産から考える地域と世界史 祐岡武志
・博物館と歴史研究をつなぐ 赤澤明
・地域における歴史的観光資源の開発と活用―観光系大学学部ゼミナールでの教育実践からの考察― 岩下哲典

第3章 世界史教育の現在と未来
・二一世紀の世界史学習の在り方―自主的な世界史像の形成をめざして― 二谷貞夫
・世界史未履修問題に見る世界史教育の現実 篠塚明彦
・社会知・実践知としての世界史をもとめて 原田智仁
・インターネット時代の世界史―その問題性と可能性― 柳原伸洋

第4章 地域から多文化共生社会を考える
・多文化共生社会をつくる―「地域から世界が見える」― 三浦知人
・地域における多文化共生と世界史教育―熊本県における事例から― 平井英徳
・塾「寺子屋」の可能性―横浜華僑華人子弟の教育― 符順和
・在日外国人生徒交流会の成果と課題 吉水公一

第5章 現代社会が抱える問題に向き合う
・地元志向と歴史感覚―内閉化に抗う歴史教育― 土井隆義
・世界史のなかの貧困問題―「貧困の語り」をとらえる 中西新太郎
・日本人の聖地伊勢神宮から考える世界史―自然と歴史の相関関係 深草正博
・災害と人類の歴史 平川新
・ヒロシマ・ナガサキからイラク・フクシマへ―核の脅威を考える― 井ノ口貴史

終論 桜井祥行
あとがき 原田智仁




地域から考える世界史―日本と世界を結ぶ

地域から考える世界史―日本と世界を結ぶ

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2017/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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茂木誠『経済は世界史から学べ!』(ダイヤモンド社) [歴史関係の本(小説以外)]

 高校で世界史の授業を担当してると、経済の知識もけっこう必要になってくる。また経済関係のことを授業で話すとき、自分の頭の中ではわかっていても、いざ授業で説明しようとすると、わかりやすく説明でないということも珍しくない。出来る限り、わかりやすい「たとえ」を使って話すようにしているが(ブロック経済はなぜメリットがあるのか、など)、過去の事例を現在の世界経済にたとえて話したりすれば、理解が深まることも多い。そのため、一般向けの経済の入門書的な本を読んでおくと役に立つが、手ごろな本は意外と見つからないものである。
 この本は、一般向けの経済入門書ながら執筆者は駿台予備校で世界史を担当している茂木誠先生。したがって、世界史的な切り口が多く、また表現も平易なので大変わかりやすい。
 「なぜ1万円札には「1万円の価値」があるのか」「なぜ政府ではなく中央銀行がお金をつくっているのか」という発問は普通に使えそうだし、ナポレオン戦争とアヘン戦争ともにイギリスが勝者であったことを取り上げ、「グローバリズムは経済的強者に恩恵をもたらす」という話も使えそうである。穀物法&ジャガイモ飢饉とTPPとの比較も然り。迫害された民族は、財産を持っていつでも逃げられるように金融業者が多いとか、なるほどとと感じる。かつて中央公論社『日本の歴史』で紹介されていた、日露戦争の際にユダヤ系資本が日本の戦債を引き受けた話も、さらにウラのエピソードが紹介されていてちょっとビックリ。世界史授業のネタ本としてけっこう使える。



経済は世界史から学べ!

経済は世界史から学べ!

  • 作者: 茂木 誠
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『闇の奥』から『「闇の奥」の奥』へ [歴史関係の本(小説以外)]

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 昨年2年生の「英語表現」の授業で、戦場カメラマン沢田教一のことが取り上げられていたので、世界史の授業でもベトナム戦争の授業を行った。ウチの学校で使っている資料集『グローバルワイド』(第一学習社)にも沢田氏がピュリッツアー賞を受賞した「安全への逃避」が掲載されていたので、1966年7月に毎日新聞に掲載された「おお、母子は無事だった」(沢田氏が「安全への逃避」を撮影した一年後、被写体となった人たちに会いに行くエピソード、毎日新聞社『沢田教一写真集 戦場』に収録)や、2013年の大晦日の新聞に掲載された、62歳(当時)となった被写体の男性などを紹介。

 映画も見せた。ベトナム戦争関係の映画には『フォレスト・ガンプ』『プラトーン』『ランボー』『ディアハンター』など名作が多いが、見せたのは『地獄の黙示録』。キルゴア大佐率いるヘリコプター部隊がベトナムの村を攻撃するシーン。"I love the smell of napalm in the morning."

 私は「現代社会」という科目が始まった年に授業を受けた世代だが、そのとき使用していた実教出版の資料集には、確かキルゴア中佐の写真が掲載されていたと思う。高校時代にこの『地獄の黙示録』をNHKで見たが、後半のカーツ(マーロン・ブランド)の独白は難解で、何を言ってるのかさっぱり意味不明だった。

 映画『地獄の黙示録』には、モデルとなった小説があると知ったのは、社会人になってから。イギリス人作家ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』。主人公マーロウが船で川を遡行する場面は、『地獄の黙示録』でのシーンが頭に浮かんだ。『闇の奥』の邦訳はこれまでに何度も発表されているが、最初の中野好夫氏訳(1958年)が、「Heart Of Darkness」という原題に「闇の奥」というタイトルをつけて以来、いずれの訳もこの「闇の奥」という邦題を使用している。『地獄の黙示録』のドキュメンタリーのタイトルも「Heart Of Darkness」である。


次の地図は、下線部⑨に関連して、第一次世界大戦勃(ぼつ)発(ぱつ)当時のアフリカ大陸の分割状況の一部を示したものである。地図中のa~dに該当するヨーロッパ諸国名の配列として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
map002.jpg

 ① a―ベルギー  b―ポルトガル  c―スペイン   d―ドイツ
 ② a―ポルトガル b―ベルギー   c―ドイツ    d―スペイン
 ③ a―スペイン  b―ドイツ    c―ポルトガル  d―ベルギー
 ④ a―ドイツ   b―スペイン   c―ベルギー   d―ポルトガル
  (1996年度 センター試験・本試験 世界史 第2問D )

 最もわかりやすい英領のエジプトやスーダン、南アフリカ、仏領のマグリブや西アフリカが空白になっているので、出題者はベルギー領コンゴに注目させたかったのだと思う。やはり、コンゴ自由国~ベルギー領コンゴである。

『闇の奥』でマーロウが面接に赴いたのはベルギーの企業だけど、よくわからなかったのが、ベルギー領コンゴになる前のコンゴ自由国の実態とそれがどういう経緯でベルギー領になったのかという点。2008年版の山川世界史用語集によれば、コンゴ自由国とは「レオポルド2世の私領として建設された植民地」で、コンゴ国際協会とは「1882年、レオポルド2世がコンゴ地域の開発・支配のために設立した組織。84~85年のベルリン会議で国家主権を認められてコンゴ自由国を建設した。」とある。

 コンゴ自由国について、大変興味深かったのが、藤永茂著『「闇の奥」の奥』(三交社)という本だ。ベルギー国王レオポルド2世の私領としての建設されたコンゴ自由国(なぜ「自由国」という名前なのか)の成立を、わかりやすく解説している。以前、ベルギー領コンゴにおけるパーム椰子について触れたが、コンゴ自由国時代のドル箱はゴムであった。その際、「切り落とされた腕先」の話が出てくるが、文禄・慶長の役における耳塚や鼻塚のエピソードを思い出す話。

 『「闇の奥」の奥』がおもしろいのはむしろ後半。今日なお機能する、ヨーロッパ的な収奪システムに対する激しい批判が転換されているが、著者の藤永茂氏は、量子化学を専門とする物理学者という事実に驚かされる。恥ずかしながら私が名前すら知らなかった歴史家や思想家、作家が数多く登場し、アメリカの公民権運動ともリンクしていく(202㌻以降)。
 『「白人」がソロバンの合わない重荷を背負ったためしは古今東西ただの一度もない。』(「あとがき」より)。そう、近代世界システムとは、ゼロサムゲームなのである。その意味で現代は、藤永氏が言うように「ポストコロニアル時代」などではなく、いまなお「コロニアル時代」なのだろう。

 驚くことに、藤永氏は、コンラッドの『闇の奥』の邦訳も発表している。闇の奥は深く、不気味なまでに何も見えない。


リサ・クリスティン:現代奴隷の目撃写真(アフリカのガーナ)鉱山の坑道は、まさに「闇の奥」。
https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20151120-00001541-ted

藤永茂氏のブログ「私の闇の奥」
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru



『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

  • 作者: 藤永 茂
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

  • 作者: コンラッド
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1958/01/25
  • メディア: 文庫



闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ジョゼフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/08
  • メディア: 文庫



闇の奥

闇の奥

  • 作者: ジョセフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本



地獄の黙示録 特別完全版 [Blu-ray]

地獄の黙示録 特別完全版 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
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地獄の黙示録 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • メディア: Blu-ray



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木村靖二『第一次世界大戦』(ちくま新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川出版社の『歴史と地理』No.704では、「神奈川県における高大連携と授業実践」(中山拓憲先生)が面白かった。なかでも第一次世界大戦の授業は面白く、板書の写真が掲載されているが、よく工夫されている。

 この中山先生の授業のモトネタになったのが、木村靖二『第一次世界大戦』(ちくま新書)。わが国では、第二次世界大戦に比べると第一次世界大戦の扱い方が小さい。参戦国ではあるものの、当時の日本では第一次世界大戦を「欧州戦争」とよんでおり、なんとなく「人ごと」観が強く、高校日本史では「天佑」的な扱いである。しかしNHK総合で放映されていた『ダウントン・アビー』を見ていると、イギリスでは社会と経済に大きな影響を残したことがわかる。この本は、現段階における第一次世界大戦の研究を整理し、第一次世界大戦がおもにヨーロッパでどのようにとらえられてきたかを示した本である。したがって、研究史の整理という側面も強いが、『歴史と地理』掲載の授業のヒントになったことからもわかるように、結構なネタが色々と掲載されている。
  ・航空機パイロットの高い死傷率(104㌻~)
  ・鉄かぶとによる死傷率の低下(108㌻~)
  ・ルシタニア号は禁制品の武器弾薬を積載していた(122㌻)
  ・塹壕での生活(159㌻~)
  ・過酷なブレスト=リトフスク条約(182㌻)
 これまで私は、「ロシアが戦線離脱したとはいえ、米英仏VS独なのだから連合国側の圧勝」というイメージを持っていたが、そうではなく「ぎりぎりで連合国が勝った」という方が正しいようである。ブレスト=リトフスク条約がソヴィエト=ロシアにとって過酷な条件での講和だったことは、そのことを示している。死傷者は連合国側の方が多い(213㌻)。アメリカ参戦については兵士募集のポスターがよく知られており、大戦後の繁栄とも相まって「大きな貢献」というイメージを持っていたが、一概にそうとも言えない(176㌻~)。

 「マルヌの奇跡」は出ているが、「マルヌのタクシー」(フランス軍はマルヌの闘いでパリ市のタクシー600台を使い、4000人の予備役兵士を前線へ送った)のエピソードは出てこない。「総力戦」にふさわしい話だと思うが。


第一次世界大戦 (ちくま新書)

第一次世界大戦 (ちくま新書)

  • 作者: 木村 靖二
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/07/07
  • メディア: 新書



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『英語で読む高校世界史』(講談社) [歴史関係の本(小説以外)]

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 東京書籍の教科書『世界史B』を全文英訳したという画期的な本。底本は「2012年版」とあるが、これは平成24年に文科省の検定をパスしたという意味で、「世B301」という番号の教科書のことである。この本の良い点としては、以下の点が挙げられる。
 (1)底本が検定をパスした教科書なので、記述内容に対する信頼性が高い。
 (2)巻末には日本語の索引がついている。
 (3)本文中の歴史用語に対しては、青字で日本語のルビがふってある。
 (4)記述されている英文のレベルが難しすぎず、高校生の英語力でも十分理解可能である。

 (2)は、重要。山川の『世界史用語集』や『世界史小辞典』(『用語集』も『英語で読む高校世界史』も参考文献としてあげているのが『世界史小辞典』)にも、英語での表記が併記されているものの、一部にとどまっている。「主権国家体制」とは英語で何というのか?という基本的な疑問はもとより、「鎖国」「朱印船貿易」といった用語の英訳は、なるほどと思わせる。それぞれ「national isolation policy」「shogunate-licensed trade」と訳されており、時代など細かな説明は付け加えなければならないが、外国の人に説明する際には十分使える。日本史の先生に見せたところ、「これは画期的!」とおっしゃっていた。(4)についても大切なことで、一緒にこの本を購入した英語の先生も高く評価していた。
 ネットで注文したのだが、在庫切れでメーカー取り寄せとの連絡が来た。届いた本の奥付には、1刷が4月3日付、2刷は同月26日となっているので、好評なのだろう。

 
 教科書、ということに関して、ツイッター上で興味深いやりとりを見た。

①「未だに「高校で世界史やらなかったんで…」みたいなこと言ってくる学生さん、結構な割合でいるからね。必修科目だよ… 彼ら彼女らが悪いのではなく、高校側の責任よ。だってそれを前提に、授業を設計してるわけだからな。もっともやったからといって覚えているとは限らんのだが…」
これに対して
②「次期学習指導要領で世界史が必修で無くなるのは深刻な問題で、新必修科目の歴史総合は近現代中心になるようだから、学生がギリシャローマも宗教改革も知らないことを前提に授業をしないといけなくなる。もちろん今の40代以上は世界史必修ではなかったけど、その頃とは大学進学率がちがう。 」
さらにこれに対して
③「世界史必修の今だって、最初から最後まで全部やれということではなく、世界史のどこをやるかは教師の任意の部分が大きいから、学生がギリシア・ローマや宗教改革を知らないことを前提にしなきゃいけないんじゃ…」

という流れ。
①について言うと、「何言ってるの?」レベル。確かに世界史は「必修科目だよ」。しかし熊本県の場合、進学校の文系生徒でも世界史はA科目だけで卒業要件はクリアーできる。熊本高校勤務時代、世界史Aだけの履修で一橋大などに進学する生徒は少なくなかった。「それを前提に、授業を設計してるわけだからな」という発言の「それ」の内容がイマイチ不明なのだが、古代アテネにおける民主政治の成立過程などであれば明らかにA科目の内容を逸脱している。もし世界史Aしか履修していなにもかかわらず、ペリクレスとか知っていたら不適切履修の可能性もありえるし、大学の教員のこうした発言を読むと、大学が不適切履修を奨励しているようにも思える。世界史未履修問題とか、大学の先生たちにとっては所詮他人事だったのだろう。何年か前、日本西洋史学会で新潟まで行ったことは、無駄だったのかねぇ。

②についても基本的には同じレベルの話で、「新必修科目の歴史総合は近現代中心になる」って、じゃあ今の世界史Aはどうなのよ?って思ってしまう。ベネッセがやってる進研模試の「世界史B」は、2年生11月に実施する学力テストから「古代から先に学習している人」向けの問題と、「近現代から先に学習している人」向けの問題の2つのパターンが準備されている。後者は大航海時代・ルネサンス・宗教改革以降から出題されており、出題レベル的に「世界史B」の模試ではあるものの、明らかに「世界史Aの履修者」を念頭に置いた問題である。このことからも「現行の世界史Aも近現代中心」であることは明らかだろう。かつて多くの高校で使用されていた山川出版社の『世界史A読本』が大航海時代の前で終わっていることは、「世界史Aではヨーロッパ中世や中国の明清、アジアのムガル帝国やオスマン朝以前についてはほとんど扱わない」ことを逆に示している。また「学生がギリシャローマも宗教改革も知らないことを前提に授業をしないといけなくなる」という点については、「どのレベルまで」という点が不明だが、かつての「(AもBもなかった頃の)世界史」レベルを要求しているのであれば、「ギリシャローマも知らない」ことを前提に授業を設計することは、すでに当たり前のこと。昨年までウチで使ってた教科書「世界史A」(東京書籍・世A301)は、古代ギリシア・ローマに関する「古代地中海世界」は見開き2㌻各11行で計22行。スパルタもペリクレスもマルクス=アウレリウス帝もコンスタンティヌス帝も出てこない。が、宗教改革は中学校社会「歴史分野」で出てくる。たまたまウチの子が中学校の教育実習のために帰省しており、中学校社会の歴史分野の教科書を見てみたが、宗教改革は意外に詳しい。大学の先生方は、中学校の教科書を読んだことないのか???

③も基本的に②と同じだが、「世界史必修の今だって、最初から最後まで全部やれということではなく、世界史のどこをやるかは教師の任意の部分が大きい」については、「全部やる」のが原則。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/2016/pr160923.html
この学校の場合は「世界史Aの看板でBをやった」という完全アウトの話だが、都教委の発表を読むと、「全部やらなかった」ことが問題だという風に読める。

 高校の教員は入試問題や入学直後の新入生学力テストの問題を作らなければならないため、中学校の教科書を読まざるを得ない。かつて熊本県で2月に実施された前期選抜の問題で、「2月初旬には中学校でまだ教えていないはずの内容が出題されている」と問題になり、当該の問題を採点対象から外したことがあった。熊本県の場合、入試の答案用紙も開示請求の対象であるから、一切手抜きは出来ない。大学の先生方も、高校の教科書くらい読んではどうか。もちろん注文をいただくことは大切なことだし、われわれ高校の教師も真摯に受け止めなければならない点も多々あるだろう。しかし現状では反発しか感じないし、「高大連携」とか言っても、一部で盛り上がっているだけのような気もしてくる。まだ姿形すら見えない「歴史総合」だが、「世界史A」と同じ運命をたどるのではないかと危惧している。


★2017年6月21日追記
 上記①のツィートをしていた大学の先生に直接コンタクトをとり、色々とお話しをうかがったところ、私の認識が誤りであったことがわかった。学生が「習ってない」のは、市民革命や産業革命だということである。これは明らかに世界史Aで履修する内容。中学校でもある程度は学ぶ内容だけにそれはそれで問題なのだが、こうした実情は高大で認識を共有しないといけないと改めて感じた次第。確認怠っての一方的な物言いにもかかわらず、丁寧な対応をいただいた。お詫びとお礼を申し上げます。



英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY

英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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小川幸司『世界史との対話~70時間の歴史批評(上)(中)(下)』(地歴社) [歴史関係の本(小説以外)]

 私が著者の小川先生のお名前を知ったのは、数年前のこと、 先生が発表された論文を拝読したときのことです。「苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」という挑戦的なタイトルですが、内容は実に的確な指摘。高校における世界史の授業が抱える問題点を、鋭く指摘した論文でした。この大著は、「ではあなたの授業は?」と問われた小川先生の回答ともいえるでしょう。

 三分冊と言うという膨大な分量もさることながら、内容が実に素晴らしい....というよりも、「私が批評するのもおこがましい」というレベル。実は上巻が上梓された直後に入手して大きな衝撃を受けた私は、中巻・下巻も店頭に並んだ直後にすぐに購入したのですが、あまりのスケールの大きさに、紹介できなかった本です。私自身、かなり勉強してきたつもりですが、正直、小川先生の知識量にはとうてい及びません。

 サブタイトルに「70時間の歴史批評」とありますが、「批評」という言葉に含まれた意味の豊かなこと!他者と自分自身と、そして過去と対話しつつ、現在や未来についての考えをめぐらす.....なんと素晴らしい営みでしょう。

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 世界史の授業は、現代的関心につながらなければならない、とはよく言われることです。しかし、現代社会の問題は、公民の授業でやればいいこと。中には、これが世界史の授業なの?と言いたくなるような授業もあります。その点で、過去の出来事が「われわれの日常」につながっている小川先生の授業は、高校における世界史授業の理想形態の一つだと思います。とはいえ、小川先生のような授業が、誰にでも出来るというわけではありません。この本の各講をベースにして、よりよい授業をつくっていく....というのが、現実的でしょう。自分ならこんな話をしたい、ここはこんな見方を示してやろう、と。

 前回の『世界史読書案内』を読んだときにも感じたことですが、我々はこうした業績を積極的に利用すべきです。日々の業務に追われ、ともすれば本を読むこともなくなってしまいそうな毎日(だからこそ、小川先生が高校演劇会でも有名なことに驚くのです......高校の演劇部は吹奏楽部と並んで大変な、文化系の中の体育系)。そうした日常の中で、自分が知らなかった面白そうな本がある、読んでみたい、そしてこんな読み方もある.....ワクワクするじゃないですか!
 以前にも書いたことですが、私が理想とする授業は「歴史書と歴史小説の橋渡し」となる(かつ大学入試で点がとれる)授業です。この点、「糊とハサミからできた文章」という、小川先生のいささか謙遜した表現は、「我が意を得たり」という思いです。
 この本を読んでいると、神に畏敬と親近感を感じるようになったルネサンス人のような気分になります。「小川先生にはなれないが、小川先生を目指して努力しなければならない」。学ぶこと知ることが好きで、学ぶこと知ることの楽しさを子どもたちに伝えたい.....そうした思いをもって教師になったはずの自分ですが、数年来、「自分の授業はそれができているのか?」という思いを持つようになっていました。そのときにこういう名著に出会えたことは、本当に幸せだと思います。世界史の教師として教壇に立っている、あるいはこれから立とうとしている方々すべてに読んで欲しい本です。



世界史との対話〈上〉―70時間の歴史批評

世界史との対話〈上〉―70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2011/12
  • メディア: 単行本
世界史との対話(中): 70時間の歴史批評

世界史との対話(中): 70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2012/09/10
  • メディア: 単行本
世界史との対話(下): 70時間の歴史批評

世界史との対話(下): 70時間の歴史批評

  • 作者: 小川 幸司
  • 出版社/メーカー: 地歴社
  • 発売日: 2012/09/10
  • メディア: 単行本


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津野田興一『世界史読書案内』(岩波ジュニア新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 高校生向けに書かれた本ですが、私が読んでも実に興味深い本。まず語り口が、よい感じです。「ぼく」という一人称で、「語りかける」感じ(「はじめに」で紹介されている、小田中直樹先生の『歴史学ってなんだ?』を思い出します)。著者(高校の世界史の先生)の個人的なエピソードを交えることで、いっそう興味がわいてきます。こうしたブックガイドでは、「どういう本をどういう視点で選んだか」で、著者の人となりをうかがい知ることができますが、真摯に歴史に取り組む姿勢が感じられました。
 高校生向けの読書案内なので、実際高校生に読んでもらわないと話になりません。なので、この本には、「ネタバレ」的な記述がほんとんどないのですが、にもかかわらず「この本は面白い!」という著者の気持ちがよく伝わってきます。まさに「読んでみたくなる」気持ちにさせてくれる本です。自分がこれまで読んだ本でも、「なるほど、こういう読み方があるのか」という発見があり、もう一度読んでみよう、という気になります。世界史関係の本はかなり読んできたつもりでしたが、私が知らなかった本も多数あり、これは読まないと....という気分になりました。
 私も著者と同じく、宮崎市貞ファン。宮崎先生の『大唐帝国』の紹介が、宮崎市貞先生自身の紹介になってしまってる点、同じ宮崎ファンとしてうれしい限り。私が大学生のころ、宮崎先生は朝日新聞にコラムを連載していました。その中で今でも覚えているのが、「歴史家の役割の一つは、要約することである」という言葉です。確か、「ヨーロッパと中国ともに古代は都市国家からスタートした、と要約すると、ではなぜ日本は違うのか、という点に気づく」という内容だったと思います(ずいぶん前のことなので、違っているかもしれません)。 この本にある「宮崎先生が本当にすごいのは、難しいことを素人でもわかるような文章で書いていること」という一文を読んでいて、昔のことを思い出してしまいました。



 今年の「新教育課程熊本県研究協議会地理歴史部会」、宿題は

 各科目において、単元の目標を達成するために、単元の最初の授業で生徒に提示し、単元の終了時まで数時間にまたがり生徒に考察させる問い(以下「基軸となる問い」という。)の実践例(または実践予定事例)を以下の様式でまとめてください。なお、「基軸となる問い」を生徒が考察する際には「言語活動を充実させる取組」「科目間連携の取組」「資料活用の技能を高める取組」のいずれかに取り組みながら学習を進めていく事例としてください。

 というもの。うーむ。



世界史読書案内 (岩波ジュニア新書)

世界史読書案内 (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 津野田 興一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/05/21
  • メディア: 新書


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